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Chief Investment Strategist
サマリー: 欧州の株式市場がこれほどまでに投資家の注目を集めたのは、世界を席巻したデジタル化の波によって米国株式が黄金期を迎え、世界の株式市場を圧倒し始めた2007年以来のことです。物質世界の復活は、その市場の特性と相まって欧州株にとって有利に働くものと考えられます。本稿では、欧州株式市場の構成上の特性や、米国の市場との相違を詳細に述べた上で、物質的な世界が復活を遂げつつある今、なぜ投資家の注目を集めているのか、その理由を探っていきます。
エグゼクティブ・サマリー
欧州株は、長らく米国株をアウトパフォームしていましたが、過去13年間に及ぶ米テック主導の強気相場によって、欧州株が投資家にとって魅力的な市場だった時代は記憶から薄れるゆくこととなりました。ところが昨年10月以来、欧州株式は再び米国株式を大きくアウトパフォームし、これまでになく投資家から注目を集めています。本稿では、以下3つのポイントを踏まえた上で、欧州株式市場の概況をお伝えしたいと思います。
デジタル革命に乗り遅れた欧州
かつて欧州の株式市場は、大西洋を隔てた米国の株式市場を凌駕し、1969年12月から1990年10月までの長きにわたり、米国株式を年率2.7%(米ドル換算ベース)上回るという好調なパフォーマンスを維持していました。しかし、半導体やCPU、OSオペレーティングシステムの初期バージョンの開発などデジタル化の進展とともに、こうした時代は終わりを遂げ、1990年代に入るとインターネットが一般的に普及し、1994年に設立されたAmazonをはじめ、ソフトウェア以外のデジタルビジネスに特化した企業が相次いで誕生しました。
Microsoft、Apple、Amazon、Nvidia、Alphabet(Googleの親会社)、Meta(Facebookの親会社)、Salesforce、Adobeなどの大手テック企業がデジタル時代を迎えた世界を制覇し、デジタル化が一段と加速する中で2007年11月から2022年10月まで米国株は上昇の一途を辿ることになります。この間、米国株式は欧州株をじつに年率7.5%という驚異的なペースでアウトパフォームし、ドットコムバブルのピークを凌ぐ勢いで上昇し続けました。欧州は米国とのテクノロジー競争において、その数年前にすでに敗北していましたが、その事実は2007年以降に一層明らかになり、欧州の株式市場から資金を引き揚げる投資家が後を絶ちませんでした。欧州は言わば衰退を遂げる「老大国」となり、投資家はシリコンバレーでリターンを獲得することを選択したのです。
ところが2022年10月以降、欧州株式のリターンは米国株式を16.7%(米ドルベース)上回っており、年初来では3.9%アウトパフォームしています。欧州株が力強い復活を遂げる中、多くの投資家が欧州の株式市場に注目しており、その特性をより深く理解したいと考えているようです。第1四半期の見通しで述べたように、もし物質的な世界が復活し、繁栄を遂げるという当グループの見解が正しければ、欧州株式は今後も他国の市場をアウトパフォームし続ける可能性を秘めています。
欧州株式市場とSTOXX 600の特性
欧州株式市場は世界で2番目の市場規模を誇り、STOXX 600は欧州で流動性が高い上位600銘柄で構成される主要なベンチマーク指数となっています。2023年1月31日のSTOXX 600インデックスの時価総額は12.7兆ユーロで、S&P 500指数の32.8兆ユーロに比べて約3倍の規模に達します。STOXX 600 Indexの国別構成比率の上位4カ国はイギリス、フランス、スイス、ドイツで、ヘルスケアセクターは業種別構成比で首位を占めています。これは、構成銘柄の上位10社を見ても明らかであり、大手製薬企業4社(ノボノルディスク、ロシュ、アストラゼネカ、ノバルティス)が含まれています。また、個別銘柄で最も高いウェイトを占めるのは、Nestle、ASML、LMVHの3社となっています。欧州株式指数のスーパーセクター
STOXX 600 Indexは、下図に記載した業種分類ベンチマーク(ICB)に基づいて定義された20のスーパーセクターから構成されています。STOXX 600 Indexは浮動株考慮後時価総額に比例した加重を行っており、浮動株時価総額を採用しています。その額は合計で9.7兆ユーロに上りますが、これは以前開示された額を下回っていますが、その理由は浮動株考慮後時価総額は市場に流通している発行済株式のみを算定の対象としており、特定の株主が保有する固定株を除外しているためです。スーパーセクターを企業数に基づいて比較した場合、最も規模の大きいセクターは103社で構成される「工業製品・サービス」で、時価総額上位3社はSiemens、Schneider Electric、およびAirbusです。
一方、スーパーセクターの自己資本利益率(ROE)を比較すると、ROEが43.9%に達するメディアが最も収益性の高いセクターとなります。同セクターの時価総額上位3社はRELX、Wolters Kluwer、Publicis Groupeです。また、過去1年間の収益成長率で比較した場合は、EPSが225%増加したエネルギーセクターが首位の座を獲得しており、時価総額上位3社のShell、BP、TotalEnergiesが圧倒的な規模を誇ります。
12ヵ月先予想PERに基づいて比較した場合、最も割高なスーパーセクターは「消費財・サービス」であり、当セクターの上位3社はLVMH、L’Oreal(ロレアル)、Richemontです。「消費財・サービス」の一部を構成する高級ブランド銘柄は中国経済再開の恩恵を見越した投資家の需要を集めており、昨年10月以来の欧州株式市場の力強いパフォーマンスに大きく寄与してきました。詳細については、世界の高級ブランド産業で圧倒的な地位を誇る欧州企業について取り上げた2月17日付の株式レポートをご参照ください。
12ヵ月先予想PER に基づくと、「自動車・自動車部品」セクターが最も割安な水準にあり、時価総額上位3社はMercedes-Benz、Stellantis、BMWとなります。
セクター構成が分散化された割安な市場
欧州株式市場のもう一つの興味深い特徴は、STOXX 600とS&P 500の世界産業分類基準(GICS)に基づくセクターウエイトが非常に大きく異なる点です。ウェイトが最も大き異なるのは「情報技術」セクターで、19%ポイントもの開きがあります。また、米国株は、Meta Platformsをはじめとするメディア関連銘柄の含まれる通信サービスのウェイトが高い傾向にあります。一方、欧州株式市場は、金融、工業、生活必需品、素材(鉱業・化学)など、に有形資産を取り扱うセクターが高いウェイトを占めています。私たちがこれまで指摘してきた国内回帰の加速や地政学的情勢と新たな価値システムによる世界の二極化、グリーン・トランスフォーメーション、銅をはじめとする主要金属の供給不足、大規模なインフラ投資の必要性などが正しければ、欧州株式は理論的には米国株式をアウトパフォームする公算が大きいと考えられます。また、欧州の株式市場は、米国に比べてより幅広いセクター構成による分散化が図られており、ハーフィンダール・ハーシュマン指数を用いて各企業の市場シェアの2乗を加算して比較すると、米国の株式市場のセクター構成は、欧州に比べて市場占有率が19%も高いと判断できます。このため、米国株式をオーバーウエイトする場合、実質的に今後もテック企業が他のセクターをアウトパフォームし続けるという、大きな賭けに出ることを意味します。
2023年の欧州株式にとってもう一つのポジティブな要因は、STOXX600の12ヶ月先予想PERはS&P500の17.8倍に対して13.2倍と、魅力的なバリュエーション水準にある点です。つまり、米国株は欧州株よりも35%割高な水準で取引されており、いまだに2008年以来の高水準で推移していることになります。今後こうしたバリュエーションの乖離が過去の平均的なレンジに収束するとすれば、欧州株にとって追い風となるものと予想されます。米国株に対する欧州株のバリュエーション・ギャップを縮小するためには、2009年から欧米企業の間で顕在化してきた営業利益率の格差解消が鍵となりますが、欧州で有形資産主導の産業が復活を遂げる中、過去1年間でそのギャップは急速に収れんしつつあります。