有形資産の反撃が始まる

有形資産の反撃が始まる

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  世界と世界の株式市場は、有形と無形の二つに分けられます。2008年以降、金利低下と、無形資産を多く活用したビジネスモデルによる利益の激増により、有形資産を主体とする業種群は無形資産を主体とする業種群を大きくアンダーパフォームするようになりました。しかし、新型コロナウイルスワクチンが発表されて以来、世界は再び活気を取り戻し、需要が供給を上回り、インフレを促進するようになりました。物的生産物の供給不足と脱グローバリズムが今後のテーマであり、当社は、無形資産から有形資産の世界へと振り子が戻ると考えています。


金融危機は有形世界の終焉を示すものだった

サクソ戦略チームは、無形資産がいかに世界を席巻しているかについて繰り返し述べてきました。そして今、長年の投資不足により、エネルギー、食品、金属、建設資材などにおいて膨大な供給不足が生じ、有形資産が復活する時が来ているのです。当社は最近、無形資産と有形資産を主体とする業種の市場パフォーマンスを把握する2つのインデックスを作成しました。これらの指標により、経済のこの2つの部分のパフォーマンスを観察することが容易になり、「有形資産は復活しつつある」という当社の仮説が正しいかどうかを定量化することが可能になります。

1998年から2022年までの無形資産と有形資産を比較すると、明らかに2つの異なる時期が存在することがわかります。1998年から2008年までは、金融セクターの活況、不動産価格の上昇、商品のスーパーサイクルに牽引され、投資家は、経済の有形部分から最高のトータルリターンを得ることができました。2008年以降、経済の2つの部分の分離は非常に明確になっています。低金利が成長資産の株式バリュエーションを押し上げ、無形資産主体の業種はソフトウェアのビジネスモデルの成熟と電子商取引の全消費市場への浸透により、かつてないほど利益が加速的に増加し、アウトパフォームに拍車がかかっています。

相対的なパフォーマンスを見ると、有形資産の世界は2008年4月をピークに、2020年10月まで、無形資産の世界に対する相対的な下落が続いていました。2020年11月、新型コロナワクチンの発表により、経済が急速に再開し、物的供給が追いつかないほど需要が回復しました。物価は加速度的に上昇し、現在のようなインフレの暴走を引き起こし、中央銀行の頭を悩ませることになりました。もし私たちの、現在進行中のエネルギーと食糧の危機と数十年にわたる脱グローバル化というメインテーマが正しければ、有形資産の世界は今後も好調に推移するはずです。

金利上昇やエネルギー危機を経てもなお無形資産が優位だった

パンデミックの際、無形資産主体の業種は物理的な世界よりも良好な業績を示しました。無形資産を主体とする業種は、物理的な世界での活動が不可能となったとき、それに代わって世界を動かすために突然必要になったのです。政府は金融と財政の両面で異常なまでの景気刺激策を実施し、この刺激策による需要喚起の結果、世界の需要が供給、特に物理的な世界のものの供給を上回ることになったのです。

その結果、インフレが生じ、有形資産の世界に再び焦点が戻りましたが、2019年12月を起点に計測すると、無形資産に比べ有形資産主体の業種群はまだ遅れをとっています。しかし、需要とインフレを抑制するために短期的な金利引き上げが実施される中、有形資産の世界は無形資産の世界に対して相対的に大きな利益を生み出すことになると予想されます。
 

1998年以降、最もパフォーマンスの高い業種はどれか

この問いに対する答えを探る方法のひとつは、有形資産と無形資産主体の業種群の集計指標を見ることですが、もうひとつ興味深い観察方法は、最もパフォーマンスの高い業種群を見ることです。3つの業種が極めて近いパフォーマンスを見せていますが、僅差で最も好調な業種は実は小売業なのです。

この業種は、金融危機後、電子商取引、自動化、デジタル化、中国での製造業の拡大が、小売企業の収益性と市場価値を引き上げるまで、高い株主価値を生み出すことはありませんでした。現在、同業界に属する大手小売企業には、アマゾン・ドット・コム、ホーム・デポ、アリババ、ロウズ、美団、JDドットコムなどがあります。

当社の定義する有形資産・無形資産の業種群

有形資産とは、大まかに言えば人が触れたり感じたりできる物理的な資産で、貸出の担保になるようなものを指します。しかし、無形資産で構成される消費者サービス業には、スターバックスやマクドナルドのように多くの有形資産を持つ企業が存在するため、この定義は広すぎて意味がありません。

無形資産と有形資産を主体とする業種を定義するために、1998年までさかのぼり、その時点で事業を行っていたすべての企業の時価総額/総資産を算定しました。そして24の業種別の平均を算出しました。平均が全業種平均を上回る業種は、すべて無形資産業種としました。時価総額が貸借対照表の資産簿価を大幅に上回っている場合、市場は形のないもの(少なくとも会計上は形のないもの)に何らかの価値を見出していることを意味するはずで、これは明らかに無形資産と言えます。例えば、マクドナルドの場合、物理的な資産を多く使用していますが、ブランド、店舗網、製品などが明らかな価値を生み出しており、したがって、市場は資産の簿価をはるかに上回る評価をしているのです。マクドナルドはハイブリッド企業であるとも言えますが、ここでは無形資産主体の企業であると定義します。

このようにして分類した業種は次の通りです。銀行は、多くの人を雇用しているため無形資産を主体としている業種と考える人が多いことでしょう。しかし銀行は基本的に預貸金利ざやから利益を得ているのです。銀行貸出の大半は現物資産と結びついているため、銀行は物理的な世界と密接に関係しているのです。

有形資産を主体とする業種群

  • 自動車・自動車部品
  • 銀行
  • 資本財
  • 企業向け・専門的サービス
  • 耐久消費財・衣料
  • 各種金融
  • エネルギー
  • 食品・生活必需品小売
  • 保険
  • 素材
  • 不動産
  • 通信サービス
  • 運輸
  • 公益企業

無形資産を主体とする業種群

  • 一般消費者向けサービス
  • 食品・飲料・タバコ
  • 医療機器・サービス
  • 家庭用品・パーソナルケア
  • メディア・エンターテイメント
  • 医薬品・バイオテクノロジー・生命科学
  • 小売り
  • 半導体・半導体機器
  • ソフトウエア・サービス
  • テクノロジーハードウエア・機器
 

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