ヒートポンプ市場の動向をサクソバンクのアナリストが公開
テスラの参入で拡大に向かうヒートポンプ市場。効率性と経済性に優れたヒートポンプの導入は今後急速に拡大。
サクソバンク(Saxo Bank A/S)の株式戦略責任者である ピーター・ガンリュー(Peter Garnry)によるヒートポンプ市場の動向分析を発表しました。
テスラは、これまで主に電気自動車の導入で業界をリードする傍ら、太陽電池モジュールや家庭用蓄電池の販売を手掛けてきました。しかし、同社は今、電気自動車向けヒートポンプの自社開発と改良を経た後に、ヒートポンプ市場への本格的な参入を目指しています。ヒートポンプはさほど興味深いトピックではないかもしれませんが、ウクライナ戦争を背景に欧州各国がロシアの天然ガスへの依存を削減し、省エネ効果に優れたヒートポンプの導入を急ぐ中、ヒートポンプ市場は急速に成長を遂げています。またヒートポンプは化石燃料の使用を世界的に削減する最も容易な手段として注目されています。
■ヒートポンプは化石燃料の削減に不可欠と認識
テスラが先日開催した投資家デーは、次世代モデルのプラットフォームや開発スケジュール、将来的な価格の見通しなど多くの点で詳細に欠く内容となり、投資家やセルサイドアナリストらの興味を大きく掻き立てるものとはなりませんでした。しかし、業界関係者の多くは、アナリストや投資家がテスラのヒートポンプに関するコメントの重要性を見落としていると指摘しています。今年1月の時点で同社はすでにヒートポンプは電気自動車の冬場のエネルギー効率や走行距離の向上に重要な役割を果たすデバイスであり、Model Yを皮切に、複数のモデルに自社開発したヒートポンプを搭載していると説明しています。また、その際に公開したビデオで、テスラはヒートポンプの開発においてその効率を向上し、製造工程を簡素化するために、いくつかの興味深いイノベーションを実現したと述べています。
投資家デーのプレゼンテーションでは、化石燃料を廃止するまで道のりを提示し、削減の大部分がヒートポンプによって実現され、導入に必要な設備投資額の割合で比較した場合、最大の削減効果を持つ可能性があると指摘しています。テスラは、この野心的な計画を実現するために、ヒートポンプの製造に3,000億程度の設備投資を行う予定であるとしています。また、自社EV向けのヒートポンプの専門技術を建物の暖房に応用したいと考えています。世界のヒートポンプ市場は今後10年間で急速に成長を遂げる見通しですが、テスラがこの新しい市場のメインプレイヤーとなるか否かは今後の動向が注目されます。その間、中国での炭酸リチウムの価格下落は、テスラが積極的に進める低価格戦略の行方を左右する重要な鍵となり、同社の株価に影響を及ぼすものとみられます。
■小型ながらも大きな可能性を秘めたデバイス
当グループは、ウクライナ戦争が始まる前の2021年11月のレポートで、交通の電動化や空対水式ヒートポンプが銅需要を左右する重要なドライバーであることを指摘しました。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した直後にエネルギー市場は混乱に陥り、危機に直面した欧州では、最初に深刻な影響を受けたガス価格の高騰を受けて暖房の代替的なエネルギー源を確保せざるを得なくなりました。こうした中、ヒートポンプ式温水暖房機の需要が爆発的に増加し、わずか数週間で完売する事態となりました。実際、私たちはロシアがウクライナを侵攻した数日後に、この戦争がヒートポンプの導入に限らずいかに欧州のエネルギーインフラ全体に変容をもたらすかを指摘しています。
ヒートポンプはリバース式のエアコンディショナーで、基本的に空対空(Air-to-Air)」と「空対水(Air-to-Water)」の2種類に分類されます。前者は屋内、自動車、倉庫の冷暖房に用いられる一方、後者は放熱器、地中熱ヒートパイプ、温水式セントラルヒーティングを介して使用されます。国際エネルギー機関(IEA)によると、ヒートポンプの稼働台数は、2021年の1億9000万台から2030年には6億台(世界の需要の20%に相当)と、じつに年率13.6%のペースで拡大する見通しとなっています。加えて、ウクライナ戦争によって欧州がロシアの天然ガスへの依存度を削減する中、成長のスピードは一段と加速するものとみられます。ヒートポンプのエネルギー効率は2010年に比べて50%程度向上しており、欧州で主流のガスボイラー式暖房・給湯機よりも2倍程度エネルギー効率が高いとされています。また、ヒートポンプの対応年数を考慮しても、相対的なコストはほとんどの国で原油やガスに比べて割安であり、効率性と経済性に優れたヒートポンプの導入は、今後急速に拡大するものと予想されます。
国別には、フランス、イタリア、ドイツ、米国、日本、中国はヒートポンプの最大の市場となっており、欧州は成長率の最も高い市場を形成しています。各国政府はこれまでヒートポンプの導入を促進するために、多岐にわたる助成金や奨励金を提供してきました。ヒートポンプの主要メーカーは、他にもさまざまな工業用部品や機械を製造している場合が多いため、ヒートポンプ市場に直接的なエクスポージャーを取ることは困難ですが、ヒートポンプの製造を手掛ける上場企業を、下記にいくつかリストアップしました。ヒートポンプがこれらの企業の売上高に占める割合は開示されていませんが、アニュアルレポートの内容に基づいて判断すると、スウェーデンを拠点とする暖房機器メーカーであるNIBE Industrierは売上の大きな部分をヒートポンプ事業から得ており、その成長性に高い期待を寄せています。また、加工機器メーカーのGEA Groupは、より大型の産業用ヒートポンプの製造を手掛けています。なお、Samsung等その他の企業では、ヒートポンプが売上高全体に占める割合は限定的なようです。
ピーター・ガンリュー(Peter Garnry)について
2010年にサクソバンク(Saxo Bank A/S)に入社し、現在株式戦略責任者を務める。2016年には、金融市場へコンピューターモデルを応用する手法に特化したクオンツ戦略チームの責任者に就任。株式市場と個別株式の分析を行っています。
https://www.home.saxo/ja-jp/insights/news-and-research/authors/peter-garnry
サクソバンク(Saxo Bank A/S)について
1992年に設立されたサクソバンク(Saxo Bank A/S)は、オンライントレーディングのリーディングカンパニーとして積極的なIT投資を行い、テクノロジーに注力してきた金融機関です。デンマーク金融監督庁の認可を受け、同国コペンハーゲンに本社を置き、現在ではロンドン、アムステルダム、シンガポール、上海、香港、シドニー、東京、パリ、チューリッヒ、ドバイなど、世界中の金融センターに2,500人以上の従業員がいます。サクソバンクの取引・投資プラットフォームは世界180カ国以上の顧客やパートナーに70,000以上の商品を提供しています。
サクソバンク証券株式会社について
サクソバンク証券株式会社は2006年に設立され、サクソバンク(Saxo Bank A/S)の100%子会社であり、金融庁の認可を受けたオンライン証券会社です。150種類以上の通貨ペアを提供する外国為替証拠金(FX)、9,000銘柄以上を取り扱うCFD、米国・欧州・中国をはじめとする11,000銘柄以上を取り扱う外国株式など多彩な商品を競争力のある取引手数料で提供しています。より詳しい情報はホームページをご覧ください。
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