WCU:主要商品において供給逼迫と景気後退リスクが交錯

WCU:主要商品において供給逼迫と景気後退リスクが交錯

商品
オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  9月の商品市況は、世界経済の成長見通しの悪化を受け、エネルギーや工業用金属など、経済成長に牽引されるセクターが軟調に推移しました。さらにこの月は、地政学的な懸念の高まりや、FOMCの動向に牽引されたドル高、利回り上昇による金融の安定性への懸念から、金融市場全体が混乱した月となりました。しかし、投資不足、制裁措置、天候不順などによる一部主要商品の供給不足は、引き続き商品価格を下支えする要因となっています。


9月の商品セクターは、世界経済の成長見通しが悪化したことを受けて、エネルギーや工業用金属などの成長に牽引されるセクターが弱含みで推移し、約7%の下落となりました。商品市況のこうした悪化は、長期にわたるロックダウンによる中国の低迷と、歴史的なエネルギー危機の渦中にある欧州に起因しています。さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)を中心とする中央銀行の追加利上げを予測してドルが急騰し、トレーダー主導で債券利回りが急上昇するなど、金融市場全体が混乱した1か月となりました。

FRBは強気で利上げを継続、他の中央銀行も利上げを実施せざるを得ない状況

米国経済の力強さと高いインフレ水準により、FRBのタカ派的アプローチが引き続き支えられている一方で、一部の国・地域では既に急激な景気後退がみられるため、それらの国・地域の行動が世界経済に与える影響を把握することが重要です。多くの場合、そうした景気後退は、急速な米ドル高とインフレの輸出によって加速され、国債利回りの急上昇とともに、現地通貨を圧迫するという悪循環を引き起こす可能性をはらんでいます。

ドルの実質実効為替レートが1986年以来の高水準となり、米国債利回りが急上昇していることから、世界の債券市場への影響は利回り上昇と通貨安という形で顕著に表れており、英国やEU圏から、中国や新興国まで、(それぞれの国・地域の状況がかなり弱いにも関わらず)利上げが実施されている国々では不安定さが強まっています。

これらの動きは全て、米国におけるタカ派的な姿勢のピークに向けて急速に進展しており、そこからドルや金利は再び下落に転じるでしょう。しかし、FOMCがその姿勢を変える前に何らかの破綻が生じるかどうかはまだ分かりませんが、先週、英国で見られたような金融の安定性に対するリスクは現実であり、一部の商品、特に金や銀などの投資金属に対する見通しに影響を与える可能性があります。
 

商品セクターは大幅な調整局面にあるにも関わらず、依然として逼迫の兆候

ボラティリティの上昇や流動性の低下など、様々な不確定要素が年末にかけて多くの商品に影響を与えるでしょう。不況の足音はますます大きくなると思いますが、2023年に回復する前に、商品セクターが大きな後退に見舞われることはないと考えられます。今回のFOMCの動きとその後のドル高によって、市場はタカ派のピークに一歩近づいたと言えます。そのピークは2022年第4四半期中に訪れると思われます。そうなれば、ドル高と国債利回りのピークアウトによって、最近の市場の逆風が弱まり、複数の供給懸念に焦点が戻る可能性があります。

エネルギー、金属、農業の3セクター全てにおいて、主要商品の強さに牽引され、価格は安定または上昇する可能性があると予想されます。これは、制裁、上流部門のコストインフレ、悪天候、低調な投資意欲、軽油やガソリン、穀物、工業金属まで、多くの主要商品における逼迫状態が継続することに起因します。

コーン、小麦、コーヒー、砂糖などの主要食料品で12%、ニッケルで77%と、個々の商品が最近のピークから修正された状況では、成長および需要に対する懸念によって売り攻勢を浴びれば、通常は市場の逼迫が緩和されるはずです。しかし、12か月後先物契約とのスプレッドを見ると、ほとんどの市場が依然としてバックワーデーションの状態にあります。これは、期近物が積極的に買われている状態を示しています。

9月の小麦はウクライナの輸出懸念を背景に上昇

穀物セクターの価格は、シカゴとパリの小麦を中心に2か月連続で上昇しました。その背景には、ウクライナ紛争が深刻化し、国連が支援する黒海の穀物輸出回廊が危機にさらされているという根深いリスクがあります。ウクライナの8月の輸出量は0.9百万トンと、昨年のペースを2.7百万トン下回っており、昨年度比でのマイナスは9月に拡大する可能性があります。昨年9月の輸出量は4.6百万トンに達しており、通常は小麦の輸出が最も増える月です。

ロシアが記録的な小麦の収穫をする一方で、世界市場への高品質小麦の主要供給国であるウクライナからの供給を中断させる準備を進めていることを、ウクライナのゼレンスキー大統領は警戒しています。シカゴで取引されている小麦の12月限は、金曜日にブッシェル当たり9ドルを超えて取引されており、ロシアの進行直後に見られたブッシェル当たり13.63ドルのパニック的ピークを大きく下回ったものの、過去5年間に見られたブッシェル当たり6ドル以下の平均を大きく上回る水準でした。この最新情報が発表された金曜日の深夜、市場は、米国農務省からの2つの重要な報告、すなわち米国の主要穀物を網羅する四半期在庫報告書と、すべての小麦品種の生産状況についての発表を待っていました。

地政学的リスクと市場全般の混乱により金に買戻し

金は、2018年から2020年の上昇の50%リトレースメントである1618ドルの重要な支持線から反発し、現在の焦点は、この最新の弱気相場の出発点である1680-1700への重要な抵抗線領域にあります。世界の債券利回りと米ドルが一致指標として引き続きリードするものの、市場は比較的よく持ち堪えています。金は、地政学的な懸念(その1つはプーチンの核の脅威)、およびFOMCのタカ派的な行動とそれが通貨と債券市場にどのような破綻をもたらすかについてますます懸念を強める投資家によって支えられています。投機筋はCOMEX金先物を稀なネットショートで保有しており、これ以上の上昇はショートカバーを誘発します。一方、金現物を裏付けとするETFの保有総額は30か月ぶりの低水準に減少しており、この水準から、テクニカルまたはファンダメンタルの見通しが好転すれば新たな需要が発生するかもしれません。
Source: Saxo Group

ロシアの供給懸念でアルミニウムが上昇

そのような状況下でも、銀は、回復基調にある工業用金属セクターにより支えられています。これは、ロンドン金属取引所(LME)が、ロシア産金属を取引所で取引・受け渡しさせることを禁止するかどうか、どのような状況で禁止するかを検討しているという報道を受け、アルミニウムの日中の記録的な急騰につながったものです。この急騰は、亜鉛、ニッケル、銅にも若干の影響を及ぼし、3か月ぶりの安値となったアルミニウム・セクターを上昇させる要因となりました。LMEがロシアの供給を阻止するような動きを見せれば、主要供給国として中国とともに重要な位置を占める世界の金属市場に大きな影響を与える可能性があります。

7月から8月にかけての上昇の大部分を吐き出した銅は、1ポンドあたり3.25ドル付近で再び支持されています。しかし、現段階では、1ポンドあたり3.52ドルから始まる抵抗線を突破し、さらに1ポンドあたり3.70ドルを突破することができれば、より力強い回復が見込まれます。

OPECプラス会合を前に再考中の原油ベア筋

原油は週足では5週間ぶりの(小幅ながら)上昇に向かいましたが、四半期では2020年第1四半期以来の下落となりました。市場では依然として見方が交錯し、価格は正反対の方向への引っ張り合いとなっています。ドル高、利回りの急上昇、中国主要都市でのロックダウンの継続が需要懸念を高める一方で、供給に対するリスクが引き続き支持要因となっています。今週は、来週のOPECプラス会合でロシアが日量100万バレルの減産を提案し、それに関して議論すると発表したことから、この点に焦点が戻りました。さらに、ロシアの制裁措置、EUの禁輸措置と価格上限に関する議論の予定、米国の戦略的備蓄からの売却の一時停止、イランの原油輸出能力を抑制するための米国の新たな制裁措置などが重なり、下振れリスクは引き続き弱まる可能性があります。

こうした状況から、原油がこれ以上大きく下落することはなく、ブレント原油は現在の1バレル85ドルから95ドルに近いレンジに戻ると思われます。

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