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Chief Investment Strategist
サマリー: 株式相場は、大幅上昇を達成した2020年に続き、2021年も極めて好調に推移し、21%の上昇となりました。インフレ率が1980年代初頭以来の急拡大の局面にあることを考えると信じがたいようですが、低水準の名目利回りを背景に株式相場が唯一の投資の選択肢となっている状況です。株価が上昇した理由は、名目利回りの低下というテクニカル要因が大半ですが、絶好調の企業業績も追い風となりました。民間セクターへの公共投資による刺激策が大きな影響を及ぼし、企業利益は2019年と比べて28%増加しました。ここでは、1年を振り返ると同時に、2022年の相場を予想し、インフレを切り抜けられるテーマに向けた株式ポートフォリオの配分についても検討します。
マイナスの実質金利による「選択肢なき投資」
投資家は今年1年を締めくくる態勢に入っていますが、過ぎたばかりの1年を振り返ることはどのような時でも意味のあることです。米国のコアインフレ率が1980年代初頭以来の高水準となる5%近くに達する中で、S&P500が年初来で28%上昇し、MSCI Worldが21%上昇したというのは、信じがたい話でしょう。インフレ圧力にもかかわらず株価が上昇した理由を理解する鍵は、インフレ率の上昇に対する債券市場の反応にあります。
債券市場は、インフレが一過性だというFRBの認識に合わせて推移していました。ところが、FRBがこの表現を撤回し、当初の予想よりもインフレが根深く持続的であると認めたにもかかわらず、債券市場はインフレ率が低くとどまるとの予想を維持しています。このような動きの背景には、世界の多くの地域で対所得負債比率が高水準にあること、人口の高齢化が進んでいること、テクノロジーが進歩していることが相まって、長期的にはインフレ圧力が抑えられるとの見方があります。実際のインフレ率および予想インフレ率が上昇する中で名目利回りが頑なに低水準にとどまっていることで、実質利回りは大きな低下圧力を受けてきました。これは、株式への配分の見直しが大きく進むきっかけとなります。
実質的に資金が食いつぶされていく時に、債券に投資する理由があるでしょうか?これを例えるならば、インフレによる資金の目減りを一応は防げるかもしれないという理由で、株価とバリュエーションが歴史的な高水準にある中で株式投資に向かうようなものです。つまり、2022年が近づく今もなお、金融市場には「TINA(他に選択肢がない)」という概念が根強く残っているのです。なぜなら、John Maynard KeynesとWarren Buffettがそれぞれ異なる状況ではあっても揃って指摘したように、インフレは資本主義経済と投資家の敵だからです。
記録的な刺激策による利益の急増
低水準の名目利回りは、将来のフリーキャッシュフローを割り引くのに用いられる資本コストに影響を及ぼし、今年の株価上昇に一役買いました。一方で、2021年の第1四半期から第3四半期までのMSCI World Indexの企業利益が前年の同期間と比べて104%増加したという事実を投資家は無視するべきではないでしょう。これを単なるリバウンド効果だと考える人がいるならば、2021年の第1四半期から第3四半期までの企業利益が2019年の同期間と比べて28%増加しているということに注目するべきです。つまり、パンデミックから抜け出しつつある企業の収益力は驚異的であり、金融・財政の両面で第二次世界大戦後以来となる大規模な緩和策が講じられたことが原動力となってきました。世界の経済大国の多くが赤字に陥りましたが、それに応じて民間セクターの黒字が急増してきました。
金利感応度
2021年の高い利益と素晴らしい株価リターンに反して、2022年の株式相場はインフレ見通しを受けて低調となる可能性があります。というのは、債券市場で米国10年債の利回りが100ベーシスポイント変動すると、企業利益の伸びに関係なく株価が下落する可能性があるからです。当社の最近の予想では、PinterestとAdobeというグロース株の金利感応度をそれぞれ18%、26%とみています。これは、米国10年債の利回りが100ベーシスポイント変動すると、他の条件が同じならば、株式のバリュエーションに悪影響を及ぼすということを意味します。
米国の株式市場全体では、株式デュレーションはおそらく15~18%程度となっています。つまり、単純に名目利回りが上昇すれば、翌年の利益の伸びが相殺される可能性があるということです。以下のグラフは、当社の最近のリサーチメモ(Interest rate sensitivity is back in town haunting technology stocks)からの引用であり、米国10年債の利回りの大幅な変動に対して、NASDAQ 100とSTOXX 600が逆方向に動いていることを示しています。長期利回りが上昇している日には、米国のテクノロジー株はグローバル株式と比べた超過リターンがマイナスとなっている一方、欧州株の超過リターンはプラスとなっています。これは、欧州株では金融、エネルギー、鉱業のウェイトが高いためです。
投資家は、2022年の金利とインフレ率の上昇を切り抜けることを目標に、株式ポートフォリオを引き続き見直すべきだと当社は考えます。例えば、ボラティリティの上昇から恩恵を受けるコモディティ・セクター、金融、半導体、物流、金融取引企業への配分を増やすことなどを検討するべきです。これは、株式ポートフォリオのテールロスに対するヘッジにもなります。
グリーントランスフォーメーション、インド、中国、都市化
今年、当社のグリーントランスフォーメーション・バスケットは6%下落し、投資家がこのテーマに投資し始めた2020年にあげた大幅な利益は一部失われました。電気自動車生産にとって大きなブレイクスルーとなった今年1年を原動力として、来年はグリーントランスフォーメーションの取引が勢いよく回復するはずです。Valeは電気自動車業界に必要とされる金属を供給する北米向けの優先的企業になることを目指すと明言しています。また、Rio Tintoも炭酸リチウムプロジェクトに多額の投資を行っています。これには、欧州の将来の電気自動車生産における年間必要量の10%近くの供給が見込まれるセルビアでの大規模プロジェクトが含まれます。電気自動車、太陽光、風力、エネルギー貯蔵、水素製造に関するグリーントランスフォーメーションは、引き続き多くの主要金属の上昇圧力となる見通しです。また、グリーントランスフォーメーションにより、長期的なインフレ率も大幅に押し上げられると当社は考えています。
インド市場は、経済成長、インフラ投資、市場改革、テクノロジー株のIPOとその後の株主へのリターン、都市化といった点で、第2の中国になる様相を呈しています。インド株は過去20年間にわたり最も好調に推移している株式市場の1つであり、年間の増益率は10%に達しています。このような傾向は今後10年間続き、投資家に莫大なリターンをもたらすと当社は考えます。しかし、インドでは、並外れた成長および都市化と同時にグリーントランスフォーメーションが起こり、コモディティ価格のインフレにより世界的なインフレも加速する見通しです。
中国市場は今年、奇妙なほどに世界の他国とは同調しないディフェンシブな動きとなりました。住宅建設業界の危機が経済、信用市場、消費者信頼感に悪影響を及ぼしています。住宅建設業界に解決策が求められる一方で、「共同富裕」達成のスローガンとのバランスを保つ必要があります。中国政府と中央銀行の対応により、既に経済への影響は和らぎ始めている兆しが見えています。2022年には公共投資の刺激策が回復する見込みですが、テクノロジー業界への締め付けに加え、新しいデータプライバシー法などの改革が影響を及ぼす中で、中国企業の収益性がどうなるのかという疑問が浮上します。アナリストは一貫して中国の成長率予想を引き下げています。当社では、中国株の今後の推移について確かな見解はありませんが、本質的にデータドリブン型でない消費財事業については唯一、強気の見方をとっています。