コアインフレの指標としての有効性は疑問

コアインフレの指標としての有効性は疑問

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  中央銀行は、パンデミックに対する刺激策の効果を過小評価していたため、インフレとの戦いに大きく遅れをとっています。サプライチェーンや経済の供給サイドは、実際よりも早く正常化すると予想されていたため、中央銀行がコアインフレに焦点を当てすぎると、大きな間違いを犯すかもしれないというのが当社の見方です。食品とエネルギーが危機の中心であり、気候変動とグリーントランスフォーメーションが今後数年間でインフレを引き起こすと思われます。投資家は、こうしたインフレリスクを相殺するため、有形資産への投資を増やすべきです。


エネルギー危機がすべてを左右する

世界の約30の中央銀行が、ヘッドライン消費者物価総合指数を用いたインフレ・ターゲット政策を採用しています(米国では個人消費支出指数を基準として用いることが2012年1月に公式に発表されました)。しかし、公式なターゲットがヘッドライン消費者物価指数であるにも関わらず、多くの中央銀行やエコノミストは、エネルギーと食品を除いたコア消費者物価指数をより重視しています。これによって、現状のインフレ圧力への中央銀行の対応が遅れる可能性があります。1年前のジャクソンホール会議でパウエルFRB議長は、「雇用を最大化するにはまだ多くの課題があり、インフレ率2%を持続的に達成出来ているかを確認するには時間がかかる」と述べました。その当時の米国のCPIは前年比5.4%、コアCPIは前年比4.3%でした。

コア消費者物価指数はエネルギーと食品を除いたものです。エネルギーと食品は変動が激しく、物価全体のトレンド変化に必ずしも左右されず、一時的な要因によって変動したり後に反転したりするということが重要な前提となっています(下記のサンフランシスコ地区連銀からの引用をご参照ください)。この議論はサプライチェーンの混乱についても同じですが、現実には予想以上に時間がかかっています。

「しかし、これらの商品の価格は頻繁かつ急速に上昇または下落することがありますが、その価格変動は経済全体の物価水準のトレンド変化とは関係がない場合があります。むしろ、食品やエネルギー価格の変動は、後に反転する可能性のある一時的な要因に関連している場合が多くみられます」

食品とエネルギーは今後、インフレに拍車をかける

当社では、物理的な世界について多くのレポートを書いてきており、最近、有形資産と無形資産を主体とする業種グループの指標を導入しました。当社は、世界のエネルギーおよび鉱業への投資が過少であったこと、そしてそれがなぜ何年も世界を苦しめることになるかについて、繰り返し述べてきました。ヤラ・インターナショナル(ノルウェーに本社を置く世界最大の窒素肥料メーカー)が、天然ガス価格の高騰を理由に、欧州でのアンモニアの生産量を潜在生産量のわずか35%に削減したことからも分かるように、食品とエネルギーは相互に関連し、結びついているのです。アンモニアの生産量が減れば、農家が使用する肥料が減り、食糧生産が減少し、最終的に食品価格の上昇につながる可能性があります。

食品とエネルギーを無視することは、中央銀行にとって重大な誤りであることはもう明らかでしょう。気候変動は世界の食糧生産を不安定にし、価格を押し上げます。また、グリーントランスフォーメーションはエネルギー価格を長年にわたって上昇させ続けるでしょう。政治家は今後10年、1970年代と多くの点で同様の形で、物価上昇の痛みを和らげるために経済に介入すると思われますが、そうした決定は名目経済の急成長を維持するたけで、インフレと再調整がより長く続くことになるというのが、当社の主な見方です。FRBが注目しているコア消費者物価指標は現在、前月比0.4%、過去6カ月間のデータから年率換算すると約5%となります。これは、インフレを抑制するためには、短期金利を相当高い水準としなければならないことを意味します。ヘッドライン・インフレ率はコア・インフレ率の2倍となっています。

 
PCE core CPI m/m | Source: Bloomberg

名目賃金がインフレを押し上げる期間ははるかに長い

2022年8月に発表されたECBのワーキングペーパーでは、中央銀行はインフレを監視する際に名目賃金の伸びを重視すべきであると結論付けています。米国の名目賃金の伸びを見ると、下図では、2009年以降、米国経済が3段階で加速していることを示しています。2009年から2015年までの第1期は、金融危機後の需要低下に見舞われたため、年率2%程度の賃金上昇率にとどまりました。第2段階は2015年から2020年初頭までで、金融緩和政策と景気の緩やかな回復により、米国の名目賃金伸び率は年率2.9%に上昇しました。

第3段階は2020年初頭から今日までの期間であり、新型コロナウイルスが世界的に大流行した後に実施された、例外的な金融・財政刺激策によってもたらされたものです。この刺激策は第二次世界大戦後に匹敵するもので、当時理解されていたよりもはるかに物理的供給の限界に近づいていた世界経済に対して実施されました。その後、需要はトレンド成長率をはるかに上回り、その結果、名目賃金は年率5.2%の伸びへと加速しています。実際、インフレ率が2%のターゲットに維持されていないという深刻な問題が生じているようです。
 
US hourly earnings index | Source: Bloomberg

有形資産への投資

インフレ環境下では、有形資産の世界が大幅に膨張するため、投資家は有形資産に投資してインフレリスクを相殺し、実質面での資産保全を図る必要があります。昨日のレポート「有形資産の反撃が始まる」では、有形資産を主体とする業種グループに焦点を当てて述べましたが、当社のテーマバスケットのパフォーマンス概要では、どの有形資産が好調であるかについても示しています(今年は商品、防衛、再生可能エネルギー、物流、エネルギー貯蔵など)。Saxoのお客様は、当社の取引プラットフォームで、これらの各テーマバスケットに含まれる企業を見つけることができます。
 

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