振り子の揺り戻し
ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問は、今後数年間で脱グローバリズムを加速させ、世界経済の大きな調整を促すものとなるでしょう。ペロシ氏訪台の直後、中国は、テスラやフォードに電気自動車用バッテリーを供給する予定であった
北米工場の新設計画停止を、CATL(中国の電気自動車用バッテリー世界最大手の寧徳時代新能源科技)に要請しました。CATLはこの計画に50億ドルの資金を投じる計画でした。消費者向け電子機器では、
モトローラが先進国での2製品の販売を取りやめ、中国は台湾への天然砂(半導体製造の主原料)の輸出を停止しました。これらの動きは、中国が報復的措置によって米国に打撃を与えようとしていることを示しています。台湾以外でも、
最近成立した米国CHIP法も報復的措置と考えられます。同法は、米国内での半導体製造を強化し、韓国や台湾のメーカーの中国での生産拡大を抑制することを目的としたものです。
中国の自立政策は、現在の5か年計画の一部であり、米国との貿易戦争に対応するものです。一帯一路構想による自立のエコシステムは、さまざまな形ですでに動き出していましたが、今回、5か年計画に正式に組み込まれました。米国のCHIPS法は、米国側の自立政策であり、ウクライナ戦争後の欧州の、ロシアからのエネルギー自立もまた自立政策です。ウクライナと台湾をめぐる問題は、脱グローバリズムを加速させ、世界の経済と経済システムの大部分を2つのブロックに分断する可能性が極めて高いと考えられます。
グローバリゼーションは先進国のインフレ率を引き下げてきた主な要因であり、脱グローバリゼーションが進めば、欧州や米国への生産拠点回帰も進むため、今後のインフレ率の上昇につながります。今年3月以降の、脱グローバリズムについて考察したレポートでは、
グローバルサプライチェーンの再構築によりアジアで勝ち組になるのはベトナムであろうと述べてきました。自立型システムでは、ジャスト・イン・タイム方式が縮小し、バッファを増やすことになり、これは今後の投資の増加と、その結果としての商品価格の上昇につながります。また、自立型システムは再生可能エネルギーの増加を促し、長期的なポートフォリオにおける重要なテーマとなります。
米クリーブランド地区連銀のメスター総裁、インフレは依然として課題と発言
米クリーブランド地区連銀のロレッタ・メスター総裁は昨日、
インフレはまだピークに達していない可能性があり、FRBの仕事はまだ残っていると述べました。FRBが重視するインフレ指標であるPCEコアSA指数(コア個人消費支出価格指数、季節調整済み)の前月比の数値を見ると、インフレ率はまだ低下していません。下図に見られる通り、6か月平均のコアインフレ率は0.4%前後で、エネルギーと食品を除いたインフレ率は年率5%前後となります。FRBは引き締めを縮小する前に、前月比0.2%のインフレを持続させたいと考えているようです。中央銀行がコアインフレ率のみに注目するのも、大きな政策的誤りとなる可能性があります。なぜなら、エネルギーと食品は競争が激しいグローバル市場商品であるため、長期的にはインフレ率はゼロに近づき、変動のみが残ると想定されているためです。気候変動と自立により、この想定は決定的に間違っていることが明らかになるでしょう。
昨日のメスター総裁の発言は、米国のイールドカーブ全体を上昇させましたが、意外にも株式へのダメージは小さく、S&P500先物は4,100ドルを若干下回る水準で取引を終え、本日すでに再上昇しており、そのモメンタムはまだ続く可能性があることを示唆しています。2日前に説明した通り、当社はまだ統計的な平均回帰効果により株価指数が下落する方向に傾いており、メスター総裁のコメントは2023年前半のFF金利について市場が楽観的過ぎることを示しています。