エネルギーセクターへの投資方法と広がるエネルギー危機

エネルギーセクターへの投資方法と広がるエネルギー危機

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  世界的なエネルギー危機が急速に進む中、一次エネルギーの不足が顕著になっています。化石燃料への長年にわたる過少投資と、経済のグリーントランスフォーメーションと電化に対し、再生可能エネルギー資源を十分なペースで拡大できないことによるものです。短期的なエネルギー危機を克服し、より環境負荷の小さいエネルギーを利用できる未来を目指すには、再生可能エネルギーと非再生可能エネルギーの双方が必要であり、そのいずれのセクターも、魅力的なリターンを提供する可能性が高まっているように思われます。


悪化の一途をたどるエネルギー危機

欧州の電力価格は2007年以降、過去平均の9倍に達しています。投資不足と、ロシアとのエネルギー供給関係の断絶が、利用可能なエネルギーを著しく制限しているためです。当社は、パンデミック以前から、現在の生活環境における温暖化ガス排出量を削減するために、再生可能エネルギー源の構築や、経済活動の広範な電化を含むグリーントランスフォーメーションについて、多くの記事を書いてきました。輸送部門の大部分を電気やグリーン燃料に切り替え、暖房を天然ガスから電化による再生可能エネルギー(給気換気・暖房)などに切り替えることは、私たちの富(GDP)の増加が、過去300年間の温暖化ガス排出量によって規定されてきたことから、そうした転換は非常な困難を伴います。当社はこのことを「エネルギーとGDPの不都合な事実」で説明しました。富を生み出す機能を温暖化ガス排出量から切り離すことは、おそらく人類がこれまでに取り組んできた中で最も困難な課題のひとつです。
 
German baseload electricity 1 year forward | Source: Bloomberg

エネルギー危機を解決する「ひとつの解決策」は存在しない

BPの"2022 Statistical Review of World Energy"によると、2021年の一次エネルギー需要は2019年を上回り、世界のエネルギー需要はパンデミック前より高まっており、化石燃料の使用量(82%)は5年前(85%)と比べてわずかに減少しただけであることが示唆されています。私たちはまだ化石燃料をベースとした経済の中で生きているのです。状況は時とともに変化し化石燃料の割合は低下していくでしょう。とはいえ、再生可能エネルギーですべてを電化すればグリーントランスフォーメーションが可能だというのは、甘い考えではないでしょうか。投資家は、一次エネルギー需要の変化は、ほとんどが非OECD諸国から生じていることも忘れてはなりません。電化のスピードが速いため、再生可能エネルギーへの完全な移行に十分な量を確保することができません。最近、デンマークの電力会社オーステッドとデンマークの風力発電機企業ヴェスタスのCEOは、新しい洋上風力発電プロジェクトの承認に関わる官僚主義に苦言を呈しました。

最近の気候・税制関連法案では、石油とガスがわずか3年前の予想よりも長期にわたって必要となることが認識されており、したがって、現在のエネルギー危機下では、再生可能エネルギーと化石燃料エネルギーの双方が良い投資対象となることが予想されます。再生可能エネルギーは今年3番目に良好なテーマバスケットである一方、コモディティバスケット(石油・ガスおよび鉱業会社を含む)は最もパフォーマンスの高いバスケットとなっています。

私たちが考えるエネルギーの未来には、エネルギー問題に対する「ひとつの解決策」は存在しないということです。私たちは、エネルギーの多様化という考え方に移行しなければなりません。私たちには多くの異なるエネルギー源が必要であり、決してひとつのエネルギー源に過剰に依存しないことが重要です。ドイツは、経済モデルを天然ガスに依存した結果、その脆弱性を露呈してしまいました。フランスは原子力発電に注力していますが、原子炉周辺機器の腐食や冷却に使用される河川の高温化により、脆弱性が明らかになっています。世界はあらゆる種類のエネルギーに投資しなければなりません。したがって、投資家は今後、エネルギーに対する幅広いエクスポージャーを保有することが重要であると当社は考えています。
 

非再生可能エネルギーセクターの概況

本稿では、非再生可能エネルギーに焦点を当てます。エネルギーセクターの中で市場価格と期待値に対して最も変化が大きく、バリュエーションが変化する余地が大きい分野だからです。石油・ガス価格の高騰にもかかわらず、エネルギーセクターは相対的に割安であることは、5月に発表した”Global energy stocks are the cheapest in 27 years”(英語版のみ、仮題「世界のエネルギー関連株は過去27年間で最も割安」)(フリーキャッシュフロー利回りで評価したもの)で既に述べたものです。石油・ガス価格の高騰により、石油精製企業の利益も記録を更新し、最近では世界のエネルギーセクターの四半期利益も過去最高を記録しました。そのことは最近のレポート「インフレによる全般的な底上げで企業利益は過去最高」でも述べました。

世界のエネルギーセクター(世界産業分類基準(GICS)では非再生可能エネルギーセクターと定義)は、世界の株式市場に対して依然として割安であり、12か月EV/EBITDAは2005年以降の平均バリュエーションスプレッドを2標準偏差下回る水準となっています。トータルリターンの観点からは、1995年以降、世界のエネルギーセクターは世界の株式市場よりも高いリターンを達成しています(下のグラフ参照)。また、12か月フォワードEV/EBITDAで測定した場合、再生可能エネルギーセクターは非再生可能エネルギーセクターと比較して2倍のバリュエーション水準となっており、市場に織り込まれた将来期待値との違いを反映していることは注目に値します。

第1四半期の見通しで述べたように、現在の配当利回りと予想配当成長率から、世界のエネルギーセクターでは年率10%の長期リターンが期待できると考えられます。もちろん、業界の株式バリュエーションの低下や将来の配当成長率が現在の予想より低下することに関する大きな不確実性は存在します。
 
Global energy vs global equities | Source: Bloomberg
エネルギーセクターに投資する最も簡単な方法は、同セクターに連動するETFを利用することであり、ほとんどの投資家はそうすべきでしょう。それとは異なるアプローチとして、非再生可能エネルギーセクターの特定部分に投資する方法があります。以下の表は、GICSのエネルギーセクターの各業種における時価総額上位5社を示したものです。5年間の米ドルベーストータルリターンに見られる通り、2015年以降の設備投資の減少により同業界の活動が大幅に制約されたため、掘削および掘削事業用設備の提供のみに関連するサブセクターが最も悪い結果となっています。垂直統合型石油・ガス企業は、精製・トレーディング事業により、相対的に良好な結果となっています。過去5年間、エネルギーセクターで最も好調だったサブセクターは、精製・販売セクターでした。これは、パンデミック時にクラック・スプレッド(原油と精製品の差)が拡大したためです。世界の石炭産業も非常に好調で、気候変動や温暖化ガス排出量の削減という観点からは残念ですが、世界の発電の主要燃料は依然として石炭であることを認識すべきです。
GICS industries in the energy sector | Source: Bloomberg and Saxo Group

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