「メタバース」への投資強化は非常に危険な戦略である
フェイスブックは創業当初、「素早く行動し破壊せよ」をモットーとしていました。これは創業者のマーク・ザッカーバーグ氏の造語で、若く急成長中のソフトウェア会社としては優れた効果を生み出してしていました。しかし、年月が経つにつれ、このモットーが、多くの脆弱性とあまりよく練られていないアイデアを生み出してしまうプロセスとして、同社を苦しめるようになりました。しかし、メタ(フェイスブックの新名称)は、このコンセプトを再び採用したようです。ただし製品ではなく、フリーキャッシュフローの生成にこの戦略を適用しているようです。
メタは昨日、メタバース戦略をさらに強化するとして投資家に衝撃を与えました。
第3四半期の売上高は前年同期比5%減少した一方、広告事業は懸念されていたより若干良好であったため、株価は最初、短時間ながらポジティブな反応を示しました。しかしその後、投資家は、営業利益が前年同期比46%減で、Reality Labs(メタバース全般を扱う部門)の営業損失が36.7億ドルに達したことを知りました。メタはReality Labsの事業で127億ドルの損失を出しており、過去1年間の営業費用は152億ドルとなり(売上高24億ドルを足し戻した額)、これはNASAの年間予算250億ドルの半分以上に相当します。メタは、2023年にはReality Labs部門の営業損失が増加すると述べています。
メタがメタバースを動かすための高価なコンピューティング機器に投資し、開発費の一部をメタバースに資産計上しているため、年初来の資本支出は前年の137億ドルから今年は228億ドルになっています。また、Reality Labsの第3四半期の収益が28.5億ドルと、前年の55.8億ドルから減少し、3四半期連続で減少したことについても投資家は衝撃を受けているようです。消費者の間で飛躍的な成長や大ヒットにつながる兆しも見られません。
メタのメタバースへの巨大な賭けは、アップルの最近のデータプライバシー変更によるモバイル広告への価格圧力と、オンライン広告の全般的な減速と相まって、第3四半期にフリーキャッシュフローがほぼゼロまで急速に減少する結果となりました。2021年第4四半期に、メタは同社史上最高のフリーキャッシュフローを計上しましたが、そのわずか3四半期後に、10年以上ぶりの低水準となりました。投資家は1年前と比べ、その無謀な支出に懸念を抱いています。1~9月の売上高は前年同期比4%減少、営業費用は19%増加しました。メタの経営陣は、なぜ世界の変化に気づかず、もっと早くコストを抑制しなかったのでしょうか。
モットーである「素早く行動し破壊せよ」の皮肉は、もし何かが上手くいかなければ、それを断念して次の行動に移るという意味だったことです。私たちは、生き残り、成長するために、実験のペースを加速しなければなりません。しかし、メタバースの場合、マーク・ザッカーバーグ氏は野心と価値追求から自身のビジョンを肥大化させており、投資家はそれに恐怖を感じています。実際、あまりの恐怖に、株式はわずか2取引セッションで27%も下落し、時間外取引で、100ドル前後で取引されています。
昨日の株式レポートでは、「ザッカーバーグの今夜のミッションはひとつ」、それは彼の野望を抑えることだと書きましたが、彼は耳を傾けず、今、株価は迷走しています。
メタバースに対するメタの賭けが巨大な誤算であることが判明した場合、長期的に犠牲になる可能性があるのは、テクノロジー企業のガバナンスです。グーグルのIPOに始まるシリコンバレーのテクノロジー企業の長い勝利の歴史を背景に、ウォール街は、テクノロジー企業の創業者が株式資本の過半数を支配していないにもかかわらず議決権付き株式の完全支配を保持できる複数議決権株式を受け入れてきました。創業者が取締役会の監督機能を受けず、メタが大失敗した場合、複数議決権株式に対する投資家の考え方が大きく揺らぐ可能性があります。
もし、マーク・ザッカーバーグ氏が市場の声に耳を傾けず、未来の新しいコンピューティングプラットフォームを作るために、「素早く行動し破壊せよ」という考え方を会社の財務に落とし込み続ければ、壊しすぎて、メタが厳しい制約を受け、競合他社との将来の戦いに敗れることになるかもしれません。