冬眠から覚める:日本株投資入門

冬眠から覚める:日本株投資入門

株式 5 minutes to read
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  主なポイント
- 日本株は2023年に世界株式市場をアウトパフォームし、著名投資家ウォーレン・バフェット氏を含む多くの投資家から注目を集めている。
- 外国人投資家が日本株投資を行う際は、大幅な金利差と日銀の金融政策変更の可能性を考慮し、為替リスクに備えることが重要である。
- 日本株式市場への投資は、産業用機械、商社・卸売り、自動車などの産業へのオーバーウェイトを意味する。
- 2023年のAIブームは日本株式市場にも波及し、半導体検査装置メーカーのアドバンテストは131%上昇を記録。
- 日本株にとっての主なリスクは、世界経済の減速に関連するもので、特に日銀による金融政策の転換は、輸出産業の競争力を低下させる円高につながる可能性がある。


冬眠から覚めた日本株式

日本株式市場の代表的指数であるTOPIX500は、現地通貨ベースで年初来(2023年7月11日まで)18.2%上昇し、世界の多くの株式市場よりも良好なパフォーマンスを記録しています。4月と5月に、当社は日本株式市場に関して、「日本株は復活を遂げるか?」、「日本とギリシャ:復活を遂げる2つの市場」と題した二つのレポートを発表しました。その中で、日本株の好調なパフォーマンスと、その背景にある潜在的な要因のいくつかをご紹介しました。日本株が関心を集めるのは、伝説的投資家ウォーレン・バフェットがコロナ禍の初期に日本の商社5社を購入したことなどによるものです。しかし、日銀の金融政策や円安など、より重要で持続的な要因も存在します。

日本国内の投資家にとって、インフレは頑迷な金融政策と相まって、日本債券の保有者の実質的な富が侵食されることを意味します。日本の投資家のポートフォリオが債券で埋め尽くされていた数十年間にもおよぶ実質的なデフレまたは超低インフレ時代の後に、日本株は突然、マイナスの実質リターンのリスクを相殺する重要な存在となりました。日本株にとってもう一つの恩恵は、2021年後半にFRBがインフレ対策に軸足を戻し、2022年の政策金利の大幅引き上げに舵を切ったことです。FRBの積極的な利上げによって日米間の金利差は拡大し、米ドル円の為替レートは2021年12月以来23%上昇しました。日本経済と株式市場は輸出主導型であるため、日本円の下落は日本企業の収益と輸出の伸びを加速させ、円ベースでの日本株のパフォーマンスにプラスの効果をもたらしてきました。

日本企業の資本効率は向上しているものの、MSCI日本指数を構成する企業の純有利子負債(有利子負債から現金および同等物を差し引いたもの)は1株当たりマイナス357円と、依然として巨額の手元流動性を保有しています。これは、日本株のEV/EBITDA倍率(企業価値/利払い前・税引き前・減価償却前利益、一般に買収対象企業の価値を判断するときに有用な指標)が米国株より61%低いことを意味します。この倍率が低いということは、日本株は金利上昇の影響を受けにくいということであり、日本株に対するポジティブなシナリオが継続するのであれば、バリュエーション水準の上昇(日本株のバリュエーションがグローバル株のそれと同等水準になること)による上値余地が大きいということです。

日本株:産業用機械、コモディティ取引および自動車

日本株式市場の時価総額は3.5兆米ドルで、約39兆米ドルの米国株式市場の10数%にも満たない規模です。しかし、米国市場より小規模ではありますが、日本市場はMSCIワールド指数の6%を占めており、単一国の株式市場としては世界第2位の地位にあります。日本株に投資を行うと、製造業と一般消費財サービス・セクターをオーバーウェイトし、情報技術セクターを大幅にアンダーウェイトすることになります。このことは、2022年の米国株と日本株の現地通貨ベースでの相対パフォーマンスの要因を示しています。米国株は米国金利の上昇により大きな打撃を受け、株式バリュエーションが上昇しました。一方、円安は製造業や一般消費財セクターの輸出を押し上げました。

さらに細かい分類を見てみると、資本財と自動車・部品が2大産業グループであることがわかります。これらの中での主要な産業は、自動車(トヨタ、ホンダ、スズキなどの自動車メーカー)、商社・卸売り(バークシャー・ハサウェイが株式を購入した商社5社など)、機械(SMC、ファナック、コマツ、三菱重工業など)の3つです。言い換えれば、日本株を買うことは、産業用機械、現物コモディティ取引、自動車を通じて世界経済に投資を行うことです。これらの産業は、米国の最新AI関連企業とは異なりますが、世界経済にとって重要な企業であることに変わりはありません。

日本の大企業とAIへの期待

日本株式市場の4大企業は、トヨタ、ソニー、キーエンス、三菱UFJフィナンシャル・グループです。トヨタは年間売上高2,750億米ドルを誇る世界最大の自動車メーカーであり続けていますが、バッテリー式電気自動車(BEV)の普及により見通しが悪化しています。トヨタはこれまでハイブリッド車と燃料電池に賭けてきましたが、新CEOは最近、トヨタはBEV技術への参入が遅すぎたと認め、現在、電気自動車業界、特にテスラや中国メーカーに追いつくことに全力を注いでいます。

ソニーは、ゲーム、音楽、画像ソリューション、映像(映画製作)、テレビを含むエレクトロニクス製品など、さまざまな事業を展開するテクノロジー複合企業です。ソニーは米国のテクノロジー企業ほど成長してはいませんが、それでも年間売上高850億米ドル、営業利益163億米ドルを誇る日本の優良企業の一つです。

キーエンスはあまり知られていませんが、工場生産用の機械視覚システムやバーコードリーダーなど、製造業向けの産業用オートメーションや検査装置の開発・製造に特化した革新的な企業です。年間売上高は約70億米ドルです。この企業の株式は、ロボットとオートメーション銘柄の株価に連動する多くのETFが保有しています。

AIブームは日本の株式市場にも波及しており、今年最もパフォーマンスの高かった銘柄の中に、日本の半導体自動検査装置トップメーカーであるアドバンテストであります。AIブームが関連半導体メーカーであるアドバンテストの成長見通しをも押し上げると投資家が期待しているため、同社の株価は年初来7月11日までに131%上昇しています。2009年2月の世界金融危機時に安値を付けて以降のアドバンテストの総リターンは年率23.1%(配当の再投資を含む)であり、半導体銘柄の高成長と株式バリュエーション水準の上昇だけでなく、ニッチ産業で事業を展開する日本のテクノロジー企業の成功をも浮き彫りにしています。
                       

日本株式投資の主要リスク

冒頭で述べた、外国人投資家にとっての日本株の投資リターンにおける為替の重要性は、根本的なリスクを理解する上で重要なポイントです。2023年7月12日時点で、欧米の政策金利がそれぞれ5~5.25%、3.5%であるのに対し、日銀は政策金利をマイナス0.1%に維持するという異例の措置を取っています。もし日銀が金融政策を転換し、世界との政策金利の差を埋める道を歩むなら、外国人投資家のキャリー取引によるリターンが徐々に損なわれるだけでなく、日本円が急激に上昇し、日本株の下落を誘発する恐れもあります。

もう一つの日本株のリスクは世界経済の減速です。日本経済は外需に依存しており、特に日本の株式市場での産業構成を考えると、世界経済減速シナリオでは大きな打撃を受けると見られます。産業用機械や自動車産業における中国や韓国企業との競争も、長期的には日本株式市場にとっての脅威となる可能性があります。

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