パウエルFRB議長声明文で株式を取り巻く環境の厳しさを確認

パウエルFRB議長声明文で株式を取り巻く環境の厳しさを確認

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  パウエルFRB議長は昨日(11月2日)、インフレ率がFRBのモデル予測を上回るため、利上げの一時停止を考えるのは時期尚早だと明言しました。金融環境がかなりタイトな状況となっているにもかかわらず、米国経済は依然として強く、労働市場はパンデミック前の水準より大幅に逼迫しています。これは、賃金圧力が企業にとって引き続き課題となっており、インフレ率がより長期にわたって高水準で推移することを示唆しています。株式バリュエーションは1995年以降の長期平均に近い水準にあり、金利の上昇、利益の縮小、収益期待の低下により、株価の下落リスクが高まる可能性があります。


FOMCの記者会見は株式にとって何を意味するか

FOMCのプレスリリースで、FF金利の誘導目標金利を75ベーシスポイント引き上げて3.75-4%とし、金利が十分にインフレを抑制する水準になるまで引き上げを継続する必要が示されたことにより、株価は当初上昇しましたが、パウエル議長の記者会見後、全く異なる方向に誘導されました。パウエル議長は、FRBは金利についてまだ道半ばであり、最終的な金利水準はこれまで予想されていたより高い水準となると述べ、FRBのモデルが間違っていた可能性に言及しました。パウエル議長は基本的に、現在の予測を信用しておらず、利上げを一時停止することを考えるのは時期尚早だと述べました。その結果、2023年12月のFF金利予想が25ベーシスポイント上昇した(グラフ参照)ことは、市場がターミナルレートの予想を上方修正したことを示唆しています。インフレ予測の誤差が、パウエル議長が示唆するパターンで推移すれば、「より高水準のインフレが長期にわたって続く」というシナリオを反映し、FF金利がさらに上昇する可能性があります。
 
金利に関する発言に加え、パウエル議長は景気の「ソフトランディング」の余地は狭まりつつあると述べ、インフレを抑制しながら景気をソフトランディングさせることがますます難しくなっているとFRBが考えていることを示しました。ラガルドECB総裁も本日、穏やかな景気後退ではインフレを望ましい水準まで抑制するのに十分ではないと発言しており、経済政策と中央銀行の金融政策に2つのシナリオが生じる可能性があることを示唆しています。中央銀行がインフレの長期化を容認してソフトランディングが可能な水準で利上げを一時停止し、インフレがより高い水準で長期的に継続することになるか、あるいは景気がさらに悪化するまで利上げを継続するかです。どちらのシナリオも株式には不利ですが、後者は前者よりもネガティブに作用します。

注目すべきは、米国経済がこれまで、タイトな金融環境をどの程度まで吸収してきたかです。定期的な金利引き上げにも関わらず、パウエル議長が重視する米国の労働市場の指標は、労働市場が非常に逼迫していることを示し、賃金圧力が長期にわたって続きインフレ率をさらに高止まりさせることを示唆しています。パウエル議長が言及している指標は、米国経済における失業者数に対する総求人件数です。この指標は、少なくとも2002年以来、米国の労働市場が最も厳しい状態にあったパンデミック前の水準より依然として56%も高い(労働市場が逼迫した)水準となっています。
Source: Bloomberg

割引率、成長率、企業利益の3つの柱

過去1年間の株価下落の最大の要因は割引率であり、株式バリュエーションは3つの要因によって決定されます。賃金圧力と商品価格の上昇により、そのコスト転嫁能力が試されており、最近の決算期では明らかに利益が縮小しています。そうした圧力を相殺し、株価を上昇させる牽引力となるのは、景気の方向性に直接左右される収益成長期待です。最近の株高は、金融環境が厳しい中でも景気が上昇基調にあることを示唆する経済データによる、「ソフトランディング」シナリオによるものでした。

しかし、パウエル議長がソフトランディングの余地は狭まり、ターミナルレートは上昇すると発言したため、株式市場は間もなく、割引率の上昇、収益期待の低下、利益の縮小から圧迫されることになるでしょう。当社の中期的な見通しでは、S&P500種指数は3,200の水準でドローダウンサイクルの安値を更新すると考えていますが、これが依然として当社の基本シナリオです。
S&P 500 futures | Source: Saxo

株式のバリュエーションは1996年以降の平均に近い水準にある

当社は毎月、7つの評価指標で構成される、世界の株式バリュエーションモデルを更新し、全体的な評価水準と、将来のリターンがどのようになるかを測定しています。10月時点では、MSCIワールド指数のバリュエーションは、2021年2月に1995年以降の平均を1.67標準偏差上回ってピークをつけた後、その近辺にとどまっています。現在の米国10年債利回りは1995年以降の長期平均を上回っており、昨日のパウエル議長の発言から今後も上昇する可能性が高いため、現在の株式バリュエーションから下落する可能性があります。平均を上回る金利・インフレ環境と経済成長率低下リスクの高まりから、株式バリュエーションはさらに低下すると予想されます。

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