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Chief Investment Strategist
サマリー: パウエル米FRB議長の議会証言を受けて、当グループでは「意図的なリセッション」という言葉がキーワードになっています。パウエル議長は予想を上回るペースで「より高く、より長い」利上げを断行する構えであることを示唆し、FRBがパニックに陥りつつあることが浮き彫りになりました。インフレを取り巻く不透明感は一段と高まっており、政策金利の見通しは、FRBがインフレ対応でパニックを起こし、過度な利上げによってリセッションを引き起こすという「新たな過ち」を犯すシナリオに傾いています。また、S&P 500 指数のバリュエーションは、1994年以降の平均的な水準に照らして非論理的な水準にあり、米国株式のダウサイドリスクは再び高まっています。
FRBのパニックが引き起こす「意図的なリセッション」
7日に行われたパウエル議長の議会証言はタカ派色の強い内容となり、FF金利先物市場が織り込む次回FOMCでの0.5%利上げの確率は30%から70%以上へと一気に高まりました。また、パウエル議長の発言は、FRBがインフレ対応でパニックに陥っており、今後もインフレ率がより高い水準で高止まりすることに警戒を強めているとの印象を与えました。もはやインフレを抑制する唯一の手段は、「意図的なリセッション」によって消費をインフレ低下を促すに足りる水準まで抑え込むことのようです。そもそもインフレが高止まりし、金融政策が後手に回っている原因は各国中銀がインフレ抑制に適したモデルを持ち合わせていないためであるという前提に基づいて考えると、市場は今まさに「パニックに陥るFRBが過度な利上げによってリセッションを引き起こす」というリスクに直面しています。先日のパウエル議長の議会証言と市場の反応についての詳細は、当グループのマーケットストラテジストであるチャル・チャナナのレポートをご参照ください。
米国株式市場に生じた根本的な隔たり
VIX指数が20を依然下回るなど、オプション市場の反応もここ最近の値動きに比べると比較的落ち着いており、パウエル議長のメッセージの影響は市場の隅々にはまだ波及していないようです。株式市場がパニックに陥るFRBの潜在的なリスクを意図的に看過しているのか、あるいは単に見過ごしているのかは定かではありませんが、パウエル議長の新たなメッセージは紛れもなく米国株式がリスクオフに一直線に向かいつつあることを示唆していることを考えれば、後者が正しいと考えざるを得ません。
S&P 500指数の12ヶ月先予想PERは足元17.5倍と、1994年6月以降の平均値である16倍を上回っています。インフレ動向やウクライナ戦争、中国との緊張関係、政策金利の見通しを巡る不透明感の高まりに鑑みると、投資家が過去の平均的な水準を上回るプレミアムを払うことに積極的になる理由は見当たりません。また、昨年第4四半期に米株式市場に下押し圧力が強まりピークから20%以上下落した局面においてさえ、バークシャー・ハサウェイが非公開企業と上場企業のいずれにおいても買い越しに転じなかったことには留意すべきでしょう。ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーのように著名な投資家でさえ、時が解決すると考え、辛抱強く投資に臨むスタンスを選択しているのです。
12ヶ月先予想PERの差異を説明するS&P 500指数のバリュエーションモデルを見ると、最も重要な変数は、米ドルのスポットレート、住宅市場指数、消費者信頼感指数、M2成長率、時間当たり賃金、および2年国債利回りであることが分かります。すべての経済指標を考慮した場合、短期的にミスプライスが生じることはありません。しかし、より重要なことは、これらの指標が変動する方向性です。昨日のパウエル議長のメッセージを踏まえると、重要な指標の大半は米国株式市場のPERが低下する方向に向かう公算が大きいと考えられます。米国株は「嵐の前の静けさ」かもしれません。