外国人投資家は中国へのエクスポージャーを削減
本日のSaxo Market Callポッドキャストでは、米下院議長のナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問し、それによって米中間の緊張が高まっていることに焦点を当てています。この訪問は、米議会が、米国内でのコンピュータ・チップの生産を大幅に増加させる一方で、米国の半導体企業が28ナノメートル以下のチップを中国で増産することを制限する新たな法案を成立させたばかりのタイミングです。米中間の緊張は、株式市場にネガティブなセンチメントをもたらしています。
何十年もの間、中国と中国株は有望な投資対象であり、同国が経済を開放するに伴い、外国人投資家はそのエクスポージャーを高めていきました。中国は未来だったのです。しかし過去5年間は、民間部門、特にテクノロジー部門に制約を加え、米国との関係悪化に対処しつつ社会の安定を重視する政策に転換してきました。中国では現在、「自立」と「共同繁栄」の2つを軸として政策運営がなされています。
ロシアへの制裁適用と資産凍結を考えると、最初の方針「自立」は従来以上に重要となっています。戦略上の柔軟性を最大限確保するためには、中国は紛争時に自国と対立する可能性のある国から出来る限り独立した存在でなければなりません。もうひとつの方針である「共同繁栄」は、適切に運用されなければ、民間部門の成長や起業を阻害し、社会を混乱させるものとなる可能性があります。
ロシア・ウクライナ戦争と中国のロシアへの暗黙の支援により、40年にわたって世界経済を力強くけん引してきたグローバリゼーションについて、投資家は再考を余儀なくされました。ウクライナ戦争は台湾をめぐる緊張を新たなレベルに引き上げ、ロシアの金融資産の凍結は、台湾が将来、大きな地政学的事象に発展した場合、中国の金融資産に明らかなテールリスクをもたらすことを示唆しています。その結果、海外投資家は中国元債券を売却し、iShares China CNY Bond UCITS ETFはウクライナ戦争勃発以降、ユーロベースで5%上昇したにも関わらず資産の55%を失ったと当社は認識しています。
中国は、経済の減速、消費者心理の悪化、製造業の役割分担を規定していたグローバリゼーションからの脱却、住宅危機などの課題に直面しています。これらの全ての動きが相互に影響を与えつつ進行していることで、中国は痛みを伴う再調整を迫られるでしょう。中国の指導者層は、GDP目標はそれ自体を目標とするものではなく、指針であると述べました。40年以上にわたる中国の投資主導のブームは膨大な富を生み出し、何億人もの国民を貧困から救いましたが、同時に不均衡も生み出しました。中国は多くの意味で、1980年代の力強い投資ブームに伴って日本で生じたものと同様の「日本問題」に直面しています。
中国の銀行と不動産の危機の問題は、何年も前から発生しています。中国4大銀行のPBR(株式時価総額/総資産額)は、金融危機以降、右肩下がりとなっています。これは、銀行は融資拡大を公的部門から要請されていますが、その債権が将来的に良好な状態を維持するとは考えにくいと金融市場がみていることを示唆しています。このことは、中国において与信拡大が有効に機能する力が弱まり、もはや持続可能な選択肢ではなくなっていることも示しています。米国の銀行も同様で、市場も現状の与信拡大に納得していません。
中国株は2008年にピークアウトして以来、MSCIワールドもアンダーパフォームしています。世界の投資家は、先進国株式と発展途上国株式を比較することに無関心になりつつあります。2001年の中国のWTO加盟以降の時代には分かりやすい分類でしたが、投資家はいまや、国やセクターではなく、長期的な技術テーマに注目するようになってきています。