欧州株式市場の投資機会を捉える

欧州株式市場の投資機会を捉える

株式
チャル・チャナナ

チーフ・インベストメント・ストラテジスト

サマリー:  ユーロ圏の経済成長率の見通しが上方修正される中で、中国の経済再開や過去平均を下回るバリュエーション水準などが下支え要因となり、今年、欧州株式が米国株式をアウトパフォームする公算が高まっています。ウクライナ戦争の激化や中国経済の回復の遅れなどのリスクは残るものの、欧州株式市場は有形資産へのエクスポージャーが相対的に高いという構造的な優位性によって、多くの投資機会を提供しています。また、非グローバル化の台頭や「より高く、より長く」続く世界的な利上げの波は、バリュー株の比重が高い欧州株式にとってグロース株が大きなウェイトを占める米国株式よりも有利に働くものと考えられます。


米国株式市場は年初に好調なスタートを切ったものの、足元では再びテクニカルな調整局面を迎えています。また、ファンダメンタルズ面でもFRBがより積極的な利上げに踏み切る可能性が高まる中で、一段の金利上昇が引き続き米国株式の下押し圧力となる公算が大きいと考えられます。昨年第4四半期の決算で明らかとなった米企業の収益性の低下は、今後も一段の重しになるでしょう。

当グループはこれまでも、バランス型のポートフォリオの重要性やコモディティ関連銘柄へのエクスポージャーがインフレヘッジとして機能することを度々指摘してきましたが、今年はさらにポートフォリオの地域分散を高めることが有効な選択肢となると考えています。なお、S&P500指数は年初から4%程度の上昇にとどまる一方、MSCI 欧州インデックスは9%上昇しており、そのリターンの大半が仏CAC40指数(+13%)およびユーロ・ストックス50指数(+12%)の力強いパフォーマンスによって生み出されています。

経済ファンダメンタルズの改善

昨年のエネルギー危機を甚大な被害なく乗り越えた後、欧州の主要株式指数は年初から堅調に推移しています。S&Pグローバルが今週発表したユーロ圏の2月の総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は、地域の経済や生産活動の改善を示す内容となりました。また、天然ガス価格が昨年12月のピークから60%余り、また、8月のピークからは80%余り低下するなど、欧州企業のコスト上昇圧力が緩和する中で景況感指数は総じて改善に向かっています。さらに、欧州は中国との緊密な貿易関係によって、米国に比べて中国経済再開の恩恵をより多く享受するとみられます。こうした中、欧州経済は景気後退懸念が織り込まれていた昨年に比べて、より力強い回復を遂げる公算が高まっていると考えられます。

企業収益は上振れる可能性が

エネルギー価格の下落に伴うコスト上昇圧力の低下が寄与し、欧州企業の第4四半期の業績は総じて予想を上振れる内容となりました。欧州主要銀の決算も好調だったほか、中国からの需要回復が期待される高級ブランド企業にも再び注目を集めています。なお、S&P500指数の構成銘柄の第4四半期の業績は前年同期比1.4%の減益であったのに対し、2月23日現在、S&P500種構成企業の第4四半期の収益が1.4%の減少したのに対し、ストックス欧州600指数の構成銘柄は同8.5%の増益となっています(2月23日時点)。

中国の需要見通しの改善やエネルギー価格の落ち着きを背景に、企業の収益見通しは今後一段と力強さを増すと予想されます。欧州中央銀行(ECB)は当面にわたって利上げを継続する見しである一方、政策金利のピークはFRBの5%~5.50%に対して3.5%程度にとどまるものとの見方が優勢となっています。また、FRBの利上げサイクルのピーク水準が切り上がる可能性はECBに比べて高いと予想されるため、欧州株への下押し圧力はいずれにしても相対的に弱いものと考えられます。


バリュー株vsグロース株

今年に入って欧州株式が米国株式をアウトパフォームしている背景には、足元の高インフレ環境下において、米国市場で比重の高いテクノロジー銘柄をはじめとするグロース株よりも、金融やコモディティなどのバリュー株の見通しがこれまで以上に明るくなっていることがあります。こうした中で、世界金融危機後に続いてきたグロース株主導の米国株式市場がアウトパフォームするトレンドは、今まさに反転の兆しを見せています。

また、金利上昇時には、企業がより生産的な投資を行うように促すことから、有形資産セクターの比重が高い欧州経済は、米国に比べて構造的な優位性があると考えられます。パンデミックやウクライナ戦争によってサプライチェーンの脆弱性が顕わになったことで、実体経済の発展に合わせた設備投資循環が構築されています。つまり、強固なサプライチェーン、エネルギー・食糧保全体制、インフラ基盤、防衛のサイクルを構築するために、より多くの資金が有形資産投資に振り向けられているのです。こうした新たなトレンドは、欧州株式の相対的な評価の見直しを促す要因となるでしょう。


魅力的なバリュエーション

ここ最近の上昇にもかかわらず、欧州株式市場のバリュエーションは引き続き魅力的な水準にあります。ストックス欧州600指数の予想PERは足元で13.5倍と、過去10年間のPERの平均である14.4倍を下回って推移しています。また、S&P 500指数の18.1倍と比べても、割安な水準で取引されています。こうしたバリュエーションの乖離はセクターの構成が異なることも一因となっており、米国の株式指数を構成するバリュー株の比率はテクノロジー銘柄に偏る一方、素材、資本財、金融の比重が少ない傾向にあります。ただ、こうしたセクター構成を調整したとしても、欧州株式は依然米国株式に比べて割安であると判断できます。また、欧州株式指数の配当利回りは足元で3.6%とS&P指数の1.7%を大きく上回っています。昨年、欧州株式市場はエネルギー危機や景気後退懸念によって多額の資金流出に見舞われた後、多くの投資家が引き続き欧州株式に対してアンダーウェイトを維持する中で、アップサイドの余地が残されています。

潜在的なリスク

エネルギー問題の再燃やウクライナ戦争の激化は、欧州株式にとってのリスクとなるでしょう。また、中国経済の本格的な回復に遅れが生じた場合も、欧州経済の重しとなります。さらに、FRBが超タカ派に傾く、あるいは世界的な景気後退懸念が急速に拡大した場合に米ドルが安全資産として逃避先となれば、ユーロ安の進行につながり欧州市場のリターンが悪化する可能性が懸念されます。


まとめ

以上の点を踏まえると、欧州の株式指数、あるいはETFに対して幅広いエクスポージャーを取ることによって、ダウンサイドリスクを限定することは有効な選択肢となるでしょう。米国株中心のエクスポージャーを削減し、分散化された投資を行う投資家が増えるにつれて、欧州株式の米国株式に対するバリュエーションのギャップは縮小する可能性があります。また、目先のリスクが高まる局面では、無形資産よりも有形資産を主軸とする経済に備えたポジションを構築する上で、欧州株式はより魅力的な投資機会を提供するでしょう。欧州にはドイツの工業製品メーカーからフランスの高級ブランド企業に至るまで、中国経済再開の恩恵を直接享受する魅力的な銘柄が引き続き多く存在します。また、急速に非グローバル化が進む世界で高まりつつあるリスクに対して、欧州の防衛関連株は極めて有効なヘッジ手段となるほか、各国政府が優先的な取り組みを進める半導体エネルギー関連のビジネスには、多額の資金が振り向けられています。

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