口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。
最短3分で入力完了!
Chief Investment Strategist
サマリー: 米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻を受けて、親会社であるSVBファイナンシャル・グループ(SVBF)の株価は前日比60%安と急落し、米国の株式市場に大きな衝撃が広がりました。大手ベンチャーキャピタルが相次いで顧客にSVBからの預金引き出しを勧めたことで、資金繰りに窮したSVBF は保有債券の売却等で18億ドルの損失計上し、新株発行による資金調達で事業の立て直しを図る見通しです。存続が危ぶまれるSVBFの株価は時間外取引で一段と下落しました。米雇用統計の内容次第では、日中取引時間のボラティリティは週末に向けて大きく上昇する展開も予想され、超短期の株式オプション取引が殺到する中で週明けは米株式市場にとって大きな山場となるでしょう。
超短期(ODTE)オプション取引のリスクを考える
SVBの経営破綻を受けて、昨日(9日)米国市場では銀行株が軒並み下落しS&P 500指数は前日比1.9%安で取引を終えた後、足元で0.4%安と続落しています。本日13:30(GMT)公表の米雇用統計で市場が落ち着きを取り戻すことができなければ、セルオフの流れは引けにかけて一段と加速し、ODTEオプションが株式市場全体にとってシステミック・リスクとなり得るか否かが初めて本格的に試される展開となる可能性があります。JPモルガンは過去数週間にわたってODTEオプションの取引拡大は適正な条件下でも相場の下落を加速させる甚大なリスクを孕んでいると繰り返し指摘していますが、その一方でバンク・オブ・アメリカは市場のバランスは多くの場合で均衡が保たれており、ODTEオプションは特に問題ではないと主張しています。また、シカゴ・オプション取引所(CBOE)は昨日、急速に拡大するODTEオプションの安全性を強調するコメントを発表しました。ODTEオプション取引の日中の取引量は、米国株式市場のオプション取引全体の45%近くを占めるまでに拡大しています。
本日の取引でこうした動きが生じるか否かは、雇用統計に対する市場の反応が鍵となりますが、詳細については最高投資責任者(CIO)スティーン・ヤコブセンのコメントをご視聴ください。本日の相場次第であ、SVBFの真のリスクが顕在化するのは週末から月曜日に持ち越されるでしょう。
SVBFを巡る多額の預金流出
ここで、昨日市場を大きく動かす要因となったシリコンバレー銀行の親会社であるSVBFフィナンシャルに話を戻します。暗号資産バブルの崩壊を受けてシルバーゲート・キャピタル(暗号資産銀行)が自主清算を決定したことを発端に、SVBの株価は昨日、前日比60%安と急落しました。大手ベンチャーキャピタルのFounders Fundがスタートアップ企業にSVBから預金を引き出すよう助言していたこともあり、SVBの顧客は相次いで預金を引き出していました。多額の預金引き出しを受けてSBVは210億ドル相当の保有債券などを売却し、税引前ベースで18億ドルの損失を計上する事態に陥りました。これを受け、親会社のSVBFは12億5000万ドル相当の普通株式と5億ドル相当の預託株式の売り出しを行う計画を発表しました。この報道は株式市場に大きな衝撃を与え、銀行株はFirst Republic Bank (-17%)、 Signature Bank (-12%)、Zions Bancshares (-11%)を筆頭に軒並み売られる展開となりました。また、JPMorgan Chaseのような大手行でさえ、前日比5.4%安と大幅な下落に見舞われました。
SVBFが抱える問題と銀行業界への影響
SVBはスタートアップ企業から巨額の余剰資金を集めていたため、特殊なケースである点には注意が必要です。総資産額2,120億ドルのうち預金は1,731億ドルを占め、自己資本は123億ドルに上ります。また、預金の大部分が幅広い年限の債券に投じられており、昨今の金利上昇で保有債券の価格は下落しています。しかしこれは、債券が満期まで保有されれば、償還が近付くにつれて未実現損益が消去されるため問題にはなりません。ここで重要となるのは預金流出と資金繰りの問題です。もし一定以上の預金が引き出された場合、SVBは満期前に保有債券を売却せざるを得なくなり、多額の損失を計上するこおによって自己資本は大きく毀損されることになります。その結果、SVBの借入金は拡大し、レバレッジ比率規制に抵触するリスクが生じます。2022年第4四半期時点で、SVBFは1,215億ドル相当の債券を保有しており、そのうち910億ドルを満期保有目的の債券が占めており、デュレーションは6.2年となっています。これは、同行の債券ポートフォリオが10-12%程度下落していることを意味し、売却可能な債券による18億ドルの損失に加えて、自己資本に準ずる90-110億ドルの未実現損失を計上することを意味しています。
それでは、こうした問題はその他の銀行にも起こり得るのでしょうか?当グループでは、SVBFが有価証券比率の高いバランスシートを保有する特殊な銀行であることを鑑みると今回の事例が金融システム全体に及ぼすシステミック・リスクは低いと考えます。しかし、その一方で米銀の貸与率はパンデミック前よりも健全な水準にあるものの、SVBFの破綻によって金融システムの信用不安が広がれば、銀行業界にストレスが生じ、資金調達コストは総じて上昇するでしょう。また、米銀の預金残高は2022年4月のピークから4.3%減と、過去20年間で最大の減少幅を記録しており、これ自体が珍しい出来事となっています。インフレや利率変動型住宅ローンの金利上昇が続く中で、米国の消費者は預金を切り崩して支出に充当しており、この傾向が続けば他の金融機関も保有債券の一部を売却せざるを得なくなり、損失や額面価格の下落によって新たなトラブルに波及するリスクも懸念されます。このため、今回のSVBFの破綻は、米国の金融システムに対して警鐘を鳴らすことになるでしょう。また、こうしたリスクは、特にSVBFのようにバランスシートにおける有価証券の保有比率が高い金融機関や、より規模の小さい金融機関の間で高まりつつあります。
なお、今後、米銀の間で預金の獲得競争が激化した場合は、2008年の金融危機後の規制改革の結果、システム上重要な大規模金融機関(SIFI)に指定された大手米銀は最大の勝者となります。SIFIの定義に基づけば、これらの指定行は政府の明示的なサポートを得ることができ、預金獲得競争や預金流出のリスクが高まる局面においては、より規模の小さい銀行がSIFIに資金をシフトする可能性があります。また、その長期的な影響として、銀行業界で統廃合が進み銀行間の競争が減少し、その結果として預金者のリターンが損なわれるリスクが懸念されます。
スウェーデンの年金基金は多額の損失を余儀なくされる見通し
SVBの破綻を巡っては、スウェーデンの民間年金基金で広域の職域年金基金として欧州第5位のAlectaが、2022年12月31日時点でSVBFの株式を4.45%保有していたことが明らかになりました。当グループの試算によると、Alectaの保有株式の1株当たりの取得価額の平均は355ドルと、SVBFの時間外取引の株価(約38ドル)に基づいて算出すると90億クローネ、最悪の場合100億クローネ程度の損失が生じる見通しです。Alectaのウェブサイトの開示情報に基づくと、損失額は2022年9月30日時点の同社の総資産額(9070億クローネ)の約1%程度に相当します。また、Alectaは2019年前半にSVBFの株式を取得し、その後2020年に株価上昇時にポジションを大きく拡大しました。2021年は追加の取得を見送ったものの、その後2022年に入りSVBFの株価が下落すると、再びポジションを2倍に積み増しています。一体なぜ欧州有数の民間年金基金が1件の投資によって総資産額の1%に相当する資産(時価評価ベースではSVBFの株価のピーク時に比べると損失はさらに拡大する可能性が高い)を失うことになったのでしょうか?Alectaは本来流動性の低いベンチャーキャピタルのエコシステムにおいて、SVBFが流動性を提供する役割を果たすと判断した結果、投資を行ったと考えれます。しかし、SVBFは単にREITが市場に上場することによって流動性を確保するのと同じように、ベンチャーキャピタルやスタートアップ企業に流動性を提供したに過ぎません。