株式市場は地政学的リスクを過小評価

株式市場は地政学的リスクを過小評価

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  個人投資家が再びハイリスクな賭けに出る動きが強まる中、バブル株(投機的な成長株)は年初から20%を超える上昇を遂げてきました。こうした大規模な投機資金の流入は、短期オプション取引(ODTE)やAI関連銘柄の急騰、および暗号資産ブームの原動力となってきました。これらの投機的な取引は、いずれも市場が急速に高まりつつある地政学的リスクを見落とし、インフレ率正常化を既定路線として織り込んでいることで成り立っています。先週末に開催された「ミュンヘン安全保障会議 2023」で地政学的リスクの高まりが重要な課題として取り上げられましたが、今週は市場がこれらのリスクを見直す良い機会となるでしょう。本稿では、過去1年間にわたって当グループのテーマ別投資で圧倒的なパフォーマンスを上げている「防衛関連株」のバスケットに改めて注目します。


「AI株ブームの過熱」と「利下げ期待」の陰で見落とされるリスク

年初からの7週間は、投資家のマネーゲームに加えて、新たなテクノロジーへの飽くなき追求がもたらしたAI株ブームに賭ける個人投資家の参入が市場を動かしてきました。さらに、構造的なインフレ圧力を裏付ける証拠が相次いで確認され、世界がインフレ加速から逃れることのできない戦時経済に突入しつつある中で、投資家は依然としてインフレ正常化の時期を巡る無意味なゲームを続けています。テスラ株や短期オプションの投機的な買いを背景とする過剰流動性やボラティリティ上昇からも明らかな通り、個人投資家の投機的取引が再び勢力を増し、市場は現実から目を逸らしているようです。残念ながら今、世界は想像以上に暗い現実に直面しており、市場はそのリスクを見落としているに過ぎません。

市場は地政学的リスクを過小評価

先週末に開催された「ミュンヘン安全保障会議 2023」では、各国間の緊張の高まりが垣間見られました。米ポリティコはその内容を非常に的確に要約しています。主な課題のひとつに、NATO加盟各国が弾薬の生産や標準化で後れを取っていることが挙げられました。もし加盟国が標準的なルールを捨て去り、武器生産の承認プロセスを迅速化し、政府が資金・インフラの両面において武器製造を無制限に支援するようになれば、欧州は戦争経済のメンタリティにシフトする一歩手前であると言えるでしょう。また、カマラ・ハリス米副大統領は、「ロシアはウクライナ侵攻で人道に対する罪を犯した」と発言し、軍事支援を継続する姿勢を強調しました。さらに、ブリンケン米国務長官は「中国がロシアに殺傷力を持つ兵器の支援提供を検討している可能性を懸念している」と述べています。

 

今週はロシアがウクライナ侵攻を開始して1年になるほか、米中関係の悪化やミュンヘン安全保障会議での緊張感が相まって、地政学的リスクの高まりを実感する週になりそうです。もし中国がロシアに対する兵器の支援提供に踏み切れば、長らく続いたグローバル化は終わりを迎え、サプライチェーンは再び混乱に陥るでしょう。一方、FRBのエコノミストであるダリオ・カルダラ氏とマテオ・イアコビエッロ氏が作成した「地政学リスク(GPR)指数」は、ロシアのウクライナ侵攻が開始した時点に比べて、いかに地政学的リスクが低下しているかを示しており、足元の株式市場の楽観的なシナリオを下支えしていることが分かります。しかし、地政学的リスクについて視野を広げて捉えると、ウクライナ戦争が悪化した場合の潜在的なリスクが極めて高いことに気が付くでしょう。

株式市場は地政学リスクに対して常にネガティブに反応するものですが、ウクライナ・ショックの急落を経た後、株式市場は再び堅調さを取り戻し、完全に回復を遂げました。この傾向は第二次世界大戦など過去の戦争でも多く見受けられ、1950年~1953年の朝鮮戦争に至っては、株式市場に特に大きな影響は及ぼしませんでした。こうした事実は市場に安心感を与える要因となり得るものの、過去50年間続いたグローバル化によって世界経済は以前よりもはるかに緊密な相互依存の関係にあるということに留意すべきです。また同時に、人々の富や所得は、かつてないほど地政学的リスクに晒されています。地政学リスクが短期的にもたらす影響は当然ネガティブですが、構造的なインフレ圧力の強まりによって今後長期的に甚大な影響を及ぼす可能性も懸念されます。戦争経済が資源価格の高騰をもたらす中で、インフレ鎮静化に向けた闘いが繰り広げられています。

Geopolitical Risk Index | Source: macromicro.me

防衛関連銘柄の見通しは引き続き明るい

地政学的リスクが高まる中で有効なリスクヘッジ手法は、株式へのエクスポージャーの削減(キャッシュのウェイトを増やす)又は先物のショートポジションでマーケットリスクを軽減するか、あるいは防衛関連銘柄をポートフォリオに追加することのみです。当グループのテーマ別投資で防衛関連のバスケットは過去1年間で31%上昇し、パフォーマンス第2位の再生可能エネルギー銘柄(12%上昇)以上に長期的なリターンをもたらしています。また、この1年間繰り返し述べてきたとおり、欧州の防衛予算は今後2倍に膨れ上がる見通しであり、その効果は世界の防衛産業に波及するものと予想されています。防衛セクターは明らかにESGの観点に沿った投資テーマではありませんが、これは逆にESGの制約を受けない個人投資家にとって有利に働くでしょう。

防衛関連銘柄の一つである BAE システムズは2022年下半期(至2023年1月31日)の決算発表を今週木曜日に控えており、アナリスト予想では売上高が前年同期比 23%増、EPS は 250%増の 0.30 ポンドとなる見通しです。ただし、アナリストは来期以降の業績について総じて厳しい見通しを示しており、2023年と2024年通期の売上高の予想はそれぞれ3%および5%となっています。ただし、これは業績上振れ余地はかなり大きいことを意味します。

口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。 

最短3分で入力完了!

コンテンツ免責事項

本ウェブサイトで提供される情報は、金融商品の売買を勧誘、推奨、または承認するものではなく、金融、投資、または取引に関するアドバイスを目的としたものではありません。当社およびサクソバンクグループの各法人は、執行専用のサービスを提供しており、すべての取引および投資はご自身の判断に基づいて行われます。分析、調査、および教育コンテンツは情報提供のみを目的としており、アドバイスや推奨として解釈されるべきではありません。

当社のコンテンツは、著者の個人的な見解を反映している場合があり、予告なく変更されることがあります。特定の金融商品の言及は、例示目的であり、金融リテラシーの向上を目的としています。投資調査として分類されるコンテンツはマーケティング資料であり、独立した調査の法的要件を満たすものではありません。

投資判断を行う際には、ご自身の財務状況、ニーズ、目標を十分に考慮し、必要に応じて独立した専門家のアドバイスを受けるかどうかの判断も含め、自己責任であることをご理解ください。当社は、提供される情報の正確性または完全性を保証するものではなく、この情報の利用により生じた誤り、脱漏、損失または損害について一切の責任を負いません。

サクソバンク証券株式会社
Saxo Bank Securities Ltd.
Izumi Garden Tower 36F
1-6-1 Roppongi Minato-ku
Tokyo 106-6036
〒106-6036 東京都港区六本木1-6-1
泉ガーデンタワー36F

お問い合わせ

国・地域を選択

日本
日本

【重要事項及びリスク開示】

■外国為替証拠金取引は各通貨の価格を、貴金属証拠金取引は各貴金属の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、売買の状況によってはスワップポイントの支払いが発生したり、通貨の金利や貴金属のリースレート等の変動によりスワップポイントが受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■外国為替オプション取引は外国為替証拠金取引の通貨を、貴金属オプション取引は貴金属証拠金取引の貴金属を原資産とし、原資産の値動きやその変動率に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、オプションの価値は時間の経過により減少します。また、オプションの売り側は権利行使に応える義務があります。
■株価指数CFD取引は株価指数や株価指数を対象としたETFを、個別株CFD取引は個別株や個別株関連のETFを、債券CFD取引は債券や債券を対象としたETFを、その他証券CFD取引はその他の外国上場株式関連ETF等を、商品CFD取引は商品先物取引をそれぞれ原資産とし、それらの価格の変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、建玉や売買の状況によってはオーバーナイト金利、キャリングコスト、借入金利、配当等調整金の支払いが発生したり、通貨の金利の変動によりオーバーナイト金利が受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■上記全ての取引においては、当社が提示する売価格と買価格にスプレッド(価格差)があり、お客様から見た買価格のほうが売価格よりも高くなります。
■先物取引は各原資産の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。
■外国株式・指数オプション取引は、対象とする有価証券の市場価格や対象となる指数、あるいは当該外国上場株式の裏付けとなっている資産の価格や評価額の変動、指数の数値等に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、対象とする有価証券の発行者の信用状況の変化等により、損失が発生することがあります。なお、オプションを行使できる期間には制限がありますので留意が必要です。さらに、外国株式・指数オプションは、市場価格が現実の市場価格等に応じて変動するため、その変動率は現実の市場価格等に比べて大きくなる傾向があり、意図したとおりに取引ができず、場合によっては大きな損失が発生する可能性があります。また取引対象となる外国上場株式が上場廃止となる場合には、当該外国株式オプションも上場廃止され、また、外国株式オプションの取引状況を勘案して当該外国株式オプションが上場廃止とされる場合があり、その際、取引最終日及び権利行使日が繰り上げられることや権利行使の機会が失われることがあります。対象外国上場株式が売買停止となった場合や対象外国上場株式の発行者が、人的分割を行う場合等には、当該外国株式オプションも取引停止となることがあります。また買方特有のリスクとして、外国株式・指数オプションは期限商品であり、買方がアウトオブザマネーの状態で、取引最終日までに転売を行わず、また権利行使日に権利行使を行わない場合には、権利は消滅します。この場合、買方は投資資金の全額を失うことになります。また売方特有のリスクとして、売方は証拠金を上回る取引を行うこととなり、市場価格が予想とは反対の方向に変化したときの損失が限定されていません。売方は、外国株式・指数オプション取引が成立したときは、証拠金を差し入れ又は預託しなければなりません。その後、相場の変動や代用外国上場株式の値下がりにより不足額が発生した場合には、証拠金の追加差入れ又は追加預託が必要となります。また売方は、権利行使の割当てを受けたときには、必ずこれに応じなければなりません。すなわち、売方は、権利行使の割当てを受けた際には、コールオプションの場合には売付外国上場株式が、プットオプションの場合は買付代金が必要となりますから、特に注意が必要です。さらに売方は、所定の時限までに証拠金を差し入れ又は預託しない場合や、約諾書の定めによりその他の期限の利益の喪失の事由に該当した場合には、損失を被った状態で建玉の一部又は全部を決済される場合もあります。さらにこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。外国株式・指数オプション取引(売建て)を行うにあたっては、所定の証拠金を担保として差し入れ又は預託していただきます。証拠金率は各銘柄のリスクによって異なりますので、発注前の取引画面でご確認ください。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、取引証拠金を事前に当社に預託する必要があります。取引証拠金の最低必要額は取引可能な額に比べて小さいため、損失が取引証拠金の額を上回る可能性があります。この最低必要額は、取引金額に対する一定の比率で設定されおり、口座の区分(個人または法人)や個別の銘柄によって異なりますが、平常時は銘柄の流動性や価格変動性あるいは法令等若しくは当社が加入する自主規制団体の規則等に基づいて当社が決定し、必要に応じて変更します。ただし法人が行う外国為替証拠金取引については、金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第27項第1号に規定される定量的計算モデルを用いて通貨ペアごとに算出(1週間に1度)した比率を下回らないように当社が設定します。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、損失が無制限に拡大することを防止するために自動ロスカット(自動ストップロス)が適用されますが、これによって確定した損失についてもお客様の負担となります。また自動ロスカットは決済価格を保証するものではなく、損失がお預かりしている取引証拠金の額を超える可能性があります。
■外国証券売買取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。
■取引にあたっては、契約締結前交付書面(取引説明書)および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。

サクソバンク証券株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第239号、商品先物取引業者
第一種金融取引業、第二種金融商品取引業
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、日本投資者保護基金、日本商品先物取引協会
手数料:各商品の取引手数料についてはサクソバンク証券ウェブサイトの「取引手数料」ページや、契約締結前交付書面(取引説明書)、取引約款等をご確認ください。