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マーケット・ストラテジスト(Saxo Group)
サマリー: 3月には、中国の経済成長率は大きく鈍化しました。今のところ政策の対応は控え目です。新型コロナに伴うロックダウンが引き続き経済活動に影を落としており、さらには食料安全保障にも影響を及ぼす恐れがあります。中国が自国経済をロシア関連の二次的制裁にさらすというテールリスクは小さいと言えます。
第1四半期のGDP成長率は予想を上回ったものの、第2四半期には景気減速のリスク
中国の経済成長率は前年同期比で4.8%となり、第1四半期中のBloombergの調査によるコンセンサス予想の4.2%を上回りました。 成長の原動力となったのは、輸出(人民元建てで前年同期比13.4%増)と設備投資(前年同期比9.3%増)でした。 設備投資の中でも、特に好調だったのはインフラ投資(前年同期比8.5%増)と製造業投資(前年同期比15.6%増)でした。一方、不動産投資は前年同期比0.7%増と小幅な伸びにとどまりました。 鉱工業生産は前年同期比で6.5%増加しましたが、設備稼働率は2021年第1四半期の77.2%、第4四半期の77.4%から75.8%に低下しました。新型コロナに伴うロックダウンにより大きな影響を受けた中で、2022年第1四半期のサービス業の売上高は前年同期比2.5%と小幅増、小売売上高は前年同期比3.3%増となりました。
景気はさらに減速するリスクがあります。 第1四半期のGDPの詳細から3月の景気動向を1月~2月と比較すると、3月には成長率が大きく鈍化したことが分かります。 鉱工業生産は、1月、2月には前年同月比7.5%増でしたが、3月は前年同期比5%増に鈍化しました。 3月の設備投資は前年同月比7.1%増(1月、2月は前年同期比12.2%増)に減速し、製造業投資は前年同月比11.9%増(1月、2月は前年同期比20.9%増)とほぼ半減しました。 3月の小売売上高は前年同期比3.5%減(1月、2月は前年同期比6.7%増)、不動産投資は前年同期比2.4%減(1月と2月は前年同期比3.7%増)となりました。 3月の失業率は中国全土で5.8%に上昇しました(1月、2月には5.4%)。
3月下旬に新型コロナに伴うロックダウンが強化されたことで、生産と物流に深刻な混乱が生じてきました。 第2四半期には経済成長率は鈍化する見通しです。 野村証券のアナリストの推計によると、中国のGDPの40%、人口の26%を占める45都市が部分的または全面的なロックダウン下にあります。 また、Goldman Sachsのアナリストは、中国のGDPの30%以上を占める都市が部分的または全面的なロックダウン下にあると推定しています。
主要産業の操業に生じている深刻な混乱を緩和するため、上海は4月16日、自動車製造、医薬品、医療、半導体、エネルギー、化学品を中心として、生産再開のガイドラインと対象企業666社のリストを公表しました。 それでもなお、ロックダウン地域の労働者を工場に復帰させることや、部品・消耗品を調達することに課題が残っています。
招商証券(China Merchant Securities)によれば、4月15日時点で、トラックの貨物輸送指数は上海で前年比-84.7%、江蘇省で-42.9%、北京で-41.2%、広東で-23.8%、浙江省で-10.8%、中国全体で-25%となりました。全国物流施設の取引高指数は前年比37.2%下落し、大手宅配業者の流通センター取引高指数は37.7%下落しました。
トラック運転手が新型コロナウィルス検査のために至る所で立ち往生したり、地元当局により高速道路へのアクセスが拒否されたりすることを避けるため、4月7日以降、中国政府の様々な部門は、トラック運転手向けの新型コロナウィルス検査パスポートを全国的に導入するなど、混乱を緩和する方策を発表しています。 その最新の取り組みとして、円滑な物流を確保し、産業のサプライチェーンを安定させる目的で、4月18日に国務院の特別テレビ会議が行われました。 この会議には劉鶴副首相が出席し、スピーチを行いました。
ロックダウンが春の穀物の植え付けに影響
上海のロックダウンと、それに伴うTeslaの上海工場やAppleの供給業者の生産工場の操業停止が大きな注目を集めましたが、今年のロックダウンが中国の穀物生産に悪影響を及ぼす可能性にも注意が必要です。 この時期に人の移動が制限されたため、春の植え付けに人手が必要な農家にとって問題が生じました。 移住労働者として都市で働くために農場を離れた農村住民の一部は、春の植え付けを手伝うために、この時期には農場に戻る必要があります。 今年は、このような人々が新型コロナ関連のロックダウンで足止めされています。
吉林省は中国のトウモロコシ栽培面積の約10%を占めています。 同省は3月15日からロックダウンされています。 人の移動や肥料の供給に混乱が生じていることは、4月の植え付けシーズンにとって脅威となっています。 同省ではロックダウンが徐々に解除され、農民が村に戻れるように地方自治体が特別輸送を手配するなど、状況は緩和されていますが、「ゼロコロナ」政策の優先順位は依然として高く、吉林省やその他の主要な穀物生産地の省で、再び同様のリスクが生じる可能性があります。ロシアによるウクライナ侵攻によって世界市場から大量の穀物供給が失われ、物価が高騰していることから、2022年には食料安全保障が特に重要な課題となっています。
3月にはクレジットの伸びは好転、しかしローン需要は依然として低調
中国の新規融資総額(AF)は2月の1兆1,930億元から3月には4兆6,500億元に増加しました。これにより、総融資残高の伸び率は2月の前年同期比10.2%から3月には同10.6%に上昇しました(図1)。 人民元建てローン残高の伸び率は前年同期比11.4%で横ばいでした。M 2伸び率は2月の前年同期比9.2%から3月には同9.7%に回復し、予想を上回りました。
新規ローンの増加の主な原動力となったのは、中長期のローンではなく、新規の企業向け短期ローンと手形貸付でした。 家計部門の新規ローンは2月の3,370億元のマイナスから3月には7,540億元のプラスに増加しましたが、それでも前年の1兆1,480億元を大きく下回りました。中長期的な構成要素(主に住宅ローン)は、前月の460億元のマイナスから3,740億元のプラスに改善したものの、依然として2021年3月の6,240億元を大幅に下回っています。 中国人民銀行は銀行に融資を促してきましたが、中長期のローンの需要は依然として低調です。 住宅ローンの伸びが低調にとどまっていることは、多くの地方自治体が様々な支援策を講じているにもかかわらず、不動産セクターの落ち込みが続いていることも示しています。
中国人民銀行は預金準備率を引き下げ
4月13日、李克強首相が議長を務める国務院幹部会議において、中国政府は「適切な時期に預金準備率を引き下げる」ことを約束しました。 4月15日、人民銀行は、預金準備率を25ベーシスポイント引き下げることを発表しました。これにより、中国の銀行制度における貸付資金は5,300億元増加すると推計されます。 利下げのタイミングは予想の範囲内でしたが、下げ幅は大方の予想の50ベーシスポイントを下回りました。 実際、人民銀行が預金準備率の引き下げ幅を通常の50ベーシスポイントでも100ベーシスポイントでもなく、25ベーシスポイントにとどめたのは初めてのことでした。
また、人民銀行は、同じく予想に反して、政策金利である中期貸出制度(MLF)の1年物金利を据え置きました。 人民銀行は、銀行の純利ざやが相対的に小さいことを懸念していると見られ、中小銀行に対して預金金利を10ベーシスポイント引き下げるよう求めています。
人民銀行は、一度に全ての手を打ち尽くすのではなく、万一に備えて手段を残しておきたいということもあるかもしれません。 以前述べたように、中国国債と米国債の利回り格差が、2年物から20年物までのイールドカーブの大部分でマイナスに転じていることを考えると、人民銀行の利下げ余地は限られています(図2)。 ここ数年、外国人投資家はプラスのキャリーの恩恵を受けるため、中国国債に投資してきました。中国国債と米国債のスプレッドが縮小し、最終的にはマイナスになったことから、2022年2月と3月には、中国国債を中心とする中国国内債券の外国人保有者は売り越しに転じました。 中国の証券保管振替機関(China Central Depository and Clearing)のデータによると、外国人による中国国債の保有額は、ピークを付けた1月の3兆7,300億元から3月には1,650億元減の3兆5,700億元となりました(図3)。
エネルギー価格やコモディティ価格の高騰に伴い、中国の交易条件が悪化していることに注意する必要があります。 中国では、原油消費の70%以上、天然ガスの40%、穀物(大豆を含む)の20%を輸入しており、これらは全てドル建てです。 人民元が対ドルで着実に上昇していることが、中国のインフレ抑制に一役買ってきました。 人民銀行が積極的な利下げで人民元に下落圧力をかけたくないと考えるのは当然のことです。景気を支援する上で、人民銀行は政策金利の引き下げを主軸にするよりも、他の緩和策を採用する傾向があるかもしれません。 人民銀行は最近、利益剰余金のうち6,000億元を財政部に移管しました。今年中にさらに5,000億元を移管する予定です。
4月18日、人民銀行と国家外貨管理局(SAFE)は共同で、パンデミックにより大きな打撃を受けた実体経済の各分野を対象とする支援を確約する通達を出しました。 新たな23の措置の中で、人民銀行は、農村や中小企業セクターに対する融資割当を増やし、新たに銀行融資を受ける民間企業の割合を増やすことになっています。 また、適正な住宅需要に対応するため、最低頭金率やローン金利を柔軟に決定することを地方自治体に求めます。
ロシア関連の二次制裁のテールリスク
中国は、ロシアとの戦略的パートナーシップの考えを堅持して、ロシアとの通商関係を維持し、ロシアによるウクライナ侵攻を非難することを避けましたが、代わりに米国とNATOに矛先を向けたことで、米国や欧州と対立することになりました。
しかし、中国とロシアは戦略的な同盟国ではありません。 冬季オリンピック中の2022年2月4日には中露共同声明を発表したものの、中露の「戦略的パートナーシップ」は多国間の国際関係の構築を念頭に置いたものであり、「双方は国連を含む多国間メカニズム内での協力を強化し、国際社会が世界のマクロ政策調整において開発問題を優先するよう促す」と述べられています。 中国とロシアはともに、それぞれが「中心的な関心事」と考える分野で、共感と支持を得たいと考えています。 例えば、ロシアは「『一つの中国』の原則の支持を再確認し、台湾が中国の不可分の一部であることを認め、いかなる形態であれ台湾の独立に反対する」こと、そして中国は「ロシア連邦が提示した、欧州において長期的な法的拘束力のある安全保障を構築する提案に共感し支持する」こと、とされています。
中国にとって、ロシアとのパートナーシップは、共通の原則と戦略的目標を持つ全面的な戦略同盟というより、もっと実利的なものです。 中国は、米国と中国が戦略的な競争関係、あるいはライバル関係にあると判断しており、米国に対して戦略的・軍事的な両義性や何らかの影響力をもたらす手段としてロシアが役立つと考えているのです。 中国が2014年のロシアによるクリミア併合を認めていないことは注目に値します。これを認めれば、中国が宣言している主権と領土の保全の尊重の原則に反することになるからです。
ロシアによるウクライナ侵攻で中国は窮地に立たされています。 他国と一緒になってロシアの侵攻を非難することを避けたために、主権と領土の保全を尊重するという中国の長年の外交政策の原則が偽善的なものになってしまいました。 さらに重要なこととして、その結果、中国は、緊密な関係を築こうと努めてきた欧州と対立し、米国との関係には亀裂を生じさせることになりました。
中国は、巻き添えを食い制裁の対象になることを全く望んでいません。 中国は公式にはロシアに対する制裁の正当性を否定していますが、中国の金融機関はロシアに対する制裁を遵守するよう細心の注意を払っています。世界市場や金融システムへのアクセスは中国にとって極めて重要であり、それをリスクにさらすことはできません。 報道によると、中国の銀行はロシア企業への信用状の発行を停止し、中国の「一帯一路」構想の機関であるアジアインフラ投資銀行はロシアへの融資を停止したということです(Garcia-Herrero 2022)。 ロシアは、準備金の相当な部分を人民元で保有しています(2020年末時点で750億米ドル相当で、ロシアの外貨準備の17%に相当。Arslanalp et al. 2022, p.25)。しかし、Steil and Rocca (2022) が示すように、米国財務省の外国資産管理局に摘発されることなく、人民元以外の通貨での取引の決済にその資金を利用することは実務上、全く不可能です。
一方で、ロシアの大幅な弱体化やロシアの政権交代も、習近平主席が望んでいることではありません。 いずれにしても、対外的にはもちろん国内的にも、中国は大きな影響を受けます。 中国はおそらく、欧米諸国がロシアに課した制裁の範囲内で可能な限り、ロシアとの貿易を継続することになります。 欧米諸国が制裁の範囲を拡大し、民間の物品・サービスの取引の大部分、あるいは全てを対象とすることになれば問題が生じるはずです。 経済面で見れば、ロシアとの貿易を犠牲にして、世界市場と金融システムへのアクセスを維持する方が遥かに有利であることは明らかです。 これは米国への宥和政策と受け取られかねないため、習近平主席は、重要な第20回党大会を目前に控える中、非常に難しい選択を迫られることになります。 それでも、習近平主席の考えでは、主たる矛盾(マルクス主義の用語で「支配的な問題」を意味する)は、「不均衡かつ不十分な発展と、より良い生活を求める人々の増大し続ける要望との矛盾」(McCahill Jr, 2017 ; Xinhua 2021)であり、その他の矛盾は二の次なのです。
社会的、経済的な安定を維持することは今年の中国共産党の最大の重点でもあり、習近平主席が前例のない三期目の五年の任期を確保するために重要なことです。 中国の経済的、社会的な安定を危険にさらしてロシアを支持し、制裁に逆らうことは、おそらくあり得ないでしょう。二次的制裁の犠牲になるというテールリスクは存在しますが、中国の姿勢は、いかに不本意であっても、可能な限り制裁を遵守するというものです。