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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
サマリー: 米国インフレ率の上昇を背景に、「より高く、より長い」利上げシナリオが現実味を増す中、市場では警戒感が高まっています。サプライチェーンの混乱が鎮静化しつつある一方で、主に賃金加速によるサービス価格の上昇を背景に、インフレリスクは一段と高まる兆しを見せています。また、中国経済再開と「ノーランディング」のシナリオは、非グローバル化という構造的な課題やエネルギー危機と相まって、インフレが今後さらに勢いを増すことへの警戒感を増幅する要因となっています。
昨年は、インフレ率は2023年に目標水準に向けて徐々に低下し、各国中銀は利上げペースを減速するとの見方が優勢となりました。インフレ率の上昇が一過性と認識されていた頃から状況は変化し、「より高く、より長く」続くとの見方に傾きつつあり、市場ではインフレ率が一段と上昇するとの見通しが急速に広がっています。また、米国とユーロ圏の1月の消費者物価指数が予想を上振れしたことを受けて、各国中銀が物価抑制に向けて利上げを積極化するとの懸念が再燃しています。
FRBがインフレ指標として重要視するPCEデフレーター(1月)は、インフレが予想を上回るペースで加速している可能性を示しました。また、12月期の速報値も上方修正されるなど、市場にとって「より高く、より長い」を支持するFRBのタカ派姿勢を裏付ける内容となりました。コアPCEは前年比4.7%の上昇と、前月の4.6%から加速し、市場予想の4.3%、およびFRBが目標とする2%をいずれも上回りました。前月比も0.6%と、市場予想の0.4%を上回ったほか、前月の0.4%から上昇しました。1月の米消費者物価指数(CPI)および生産者物価指数(PPI)が予想を上回る強い内容となったこともあり、一連の強い指標は、根強いインフレ圧力とFRBが利上げを継続する必要に迫られていることを浮き彫りにしました。
パンデミック禍でピークを付けたコンテナ運賃は下落傾向を辿っており、一時は15倍に跳ね上がったアジアから米西海岸へのコンテナ船のスポット運賃は、コロナ前の水準に戻っています。しかしその一方で、欧州から米東海岸へのコンテナ船の短期運賃は、2019年後半の倍以上の水準にとどまるなど、海上運賃はコロナ前に比べて総じて高止まり傾向にあります。
米テック企業の人員削減の報道が相次いでいるにもかかわらず、米1月雇用統計の非農業部門雇用者数は51万7000人増加と、市場のサプライズを誘いました。サービス部門の事業活動が拡大したことを背景に、失業率は53年ぶりの低水準となりました。また、新規失業保険申請や失業に関する統計調査の動向は、いずれも雇用や賃金が引き続き加速する可能性が高いことを示しています。
労働市場のタイト化が続く中、多くの企業は賃金の加速が利益マージンを下押し圧力となっていると感じています。ただ、インフレ進行や金利上昇にもかかわらず、米国の消費者の購買意欲は底堅く推移しており、価格決定力のある企業はコスト上昇分を価格転嫁するものと予想されるため、インフレの上昇余地の拡大や賃金・物価スパイラルが発生する可能性が高まっています。
市場のシナリオはこれまで「リセッション」から「ソフトランディング・適温経済」、そして現在の「ノーランディング・景気加速」へとシフトしてきましたが、これは、必ずしもポジティブなことではありません。アトランタ連銀が公表するGDPナウでは、第1四半期の実質GDP成長率の予想は前回の0.7%から2.7%へと上昇修正されており、リセッションやスタグネーションからは程遠い見通しが示されています。
全体として、最近公表された一連の経済指標は米経済が再び過熱する兆し示しており、市場FF金利のターミナルレートの予想を引き上げ、FRBが利下げに転じるタイミングを今年から2024年に後ろ倒しするなど、米経済の加速を織り込んでいます。こうした動きは、インフレリスクが再び高まりつつあることを意味しています。また、中国経済再開が本格化するにつれて、コモディティや資源価格の高騰による急速なインフレ進行が懸念されます。
なお、クリーブランド連銀のエコノミストらは、米国のインフレ率が深刻なリセッションを経ることなく2%の水準に達するには、FRB当局者や金融市場が予想する以上に長い年月を要するだろうと述べています。
景気加速のリスク以外にも、労働力不足、非グローバル化、そしてエネルギー危機などの構造的な要因がインフレ進行をもたらすリスクが懸念されます。米国のブレークイーブンインフレ率(BEI)の動向を見ると、2年物BEIが2022年8月以来で初めて3%を上回り、10年物BEIが2.5%で高止まりするなど、目先でインフレが高止まりすることへの懸念が再燃しています。