シンガポール:一段の金融引き締めによるシンガポールドル高の可能性

シンガポール:一段の金融引き締めによるシンガポールドル高の可能性

概況
チャル・チャナナ

チーフ・インベストメント・ストラテジスト

サマリー:  シンガポールの第3四半期GDP速報値は予想を上回り、景気後退の懸念を払拭する結果となりました。しかし、シンガポール金融管理局(MAS)による引き締めの動きはより賢明なもので、逆風が依然として残っていることを示唆しています。とはいえ、FRBのタカ派姿勢がピークに達する今期はシンガポールドルの上昇余地が大きく、またシンガポールドルは引き続き安全資産と考えられます。シンガポールドルの上昇は、輸出企業と比較して輸入企業のパフォーマンスを向上させる可能性があります。


さらなる引き締めの余地

中央銀行であるシンガポール金融管理局(MAS)は金曜日(10月14日)、1年ぶり5度目となる更なる金融引き締めを発表しました。シンガポールは経済規模が小さく貿易への依存度が高いため、MASは、政策金利ではなく為替レートを通じた金融政策運営を行っています。主要貿易相手国の通貨からなる非公開のバスケットからの、シンガポールドル(SGD)の変動幅を誘導する管理変動相場制度をとっています。シンガポールドルの名目実効為替レート(S$NEERと呼ばれる)の水準に注目し、その変動が一定の変動幅内に収まるようにしているのです。

MASの政策設定には、傾斜(相場上昇ペース)、中央値、政策バンドの幅という3つのレバーが使われます。この3つのレバーの組み合わせにより、主要貿易相手国通貨に対するシンガポールドルの上昇・下落の許容変動幅が設定されています。MASは金曜日、傾斜および許容変動幅を据え置き、政策バンドの中央値を引き上げました。3つのレバーのうち1つしか使っていないため、今回の動きは一部の予想より積極的なものでなかった可能性がありますが、ほぼコンセンサスに沿ったものでした。この慎重な動きは、特に1月の物品サービス税(GST)引き上げ後にインフレ期待が高まった場合、必要に応じ、2023年まで引き締めを延長する余地も残しています。

成長への逆風は残る

MASの政策決定と同時に、今朝発表された第3四半期GDP速報値は前期比1.5%となり、第2四半期の前期比-0.2%の後、テクニカルリセッションが回避されたことで安堵感が広がりました。GDP成長率は前年同期比では4.4%と、予想の3.5%を上回り、前四半期の成長率も4.5%に上方修正されました。経済再開後の観光客の増加が引き続きサービス需要の一段の回復を下支えし、サービス業と建設業が好調に推移した模様です。

しかし、同国経済を支える製造業は第2四半期に前期比0.4%と小幅なプラスに転じた後、前期比3.3%減と低迷しており、逆風が吹いていることに変わりはありません。また、日本など多くの経済国が国境を開放し、観光客が分散されるため、シンガポールの往来再開の効果は2023年にかけて薄れる可能性が高いとみられます。さらに、根強いインフレにより個人消費が影響を受けるリスクも引き続き高まっています。MASは来年も物価上昇圧力は強いと見ており、今年6%、2023年5.5-6.5%という予測には上振れリスクがあると見ています。MASのコア・インフレ率は、今年は3-4%のレンジ予想の上限の4%、GST引き上げを考慮した2023年は3.5-4.5%と予想されています。

シンガポールドル高の可能性とそれに伴う勝者・敗者

MASが3つのレバーのうち2つのレバーを調整するダブルバレルに出なかったにもかかわらず、シンガポールドルは上昇しました。これは、成長とインフレのバランスを考慮すると、今回の行動は賢明なものであり、ハト派的ではないと解釈されていることを示唆しています。現時点では、中央銀行がデータ依存の姿勢を崩さないことは確かですが、以下の理由から、さらなるシンガポールドル高の可能性があると見られています。

1.  市場はFRBの金利動向をより正確に把握しており、現在はタカ派のピークにある。
2.  安全資産であるシンガポールドルは、景気後退・スタグフレーションのシナリオにおいて魅力的である。
3.  サクソのテクニカルアナリスト、キム・クレイマーは、米ドル/シンガポールドルには1.45付近(2001年から2011年の下落トレンドのフィボナッチ・リトレースメント0.382)に長期的な抵抗線があると見ている。米ドル/シンガポールドルが1.42以下で取引を終えた場合、リトレースメント0.618の1.3980まで下降する可能性がある。1.4078-1.4055にいくつかの支持線がある。

シンガポールドルがさらに上昇すると、日本などの安価な旅行先への観光客が減少するため、旅行/観光関連銘柄にはマイナスとなります。また、シンガポール国外からの収益が大きな割合を占める企業も損失を被ることになります。例えば、シンガポール・テレコム(Z74:xses) は売上高の50%以上、フリーキャッシュフローの70%をオーストラリアの子会社オプタスから得ており、為替圧力に加えて、データ侵害による罰則にも直面しています。同様に、タイガーバームブランドを所有するホー・パー (H02:xses)は、シンガポールからの収益が12%に過ぎず、為替差損が発生する可能性があります。

一方、通貨高は、主に国内で事業を展開する輸入企業にとってプラスとなる可能性があります。シェン・ション・グループ(OV8:xses) は生活必需品小売業で、厳しいマクロ環境下でも成功する可能性のあるセクターです。大規模な輸入と店舗拡大を行っており、通貨高効果と相まって売上高が押し上げられる可能性があります。

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