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マーケット・ストラテジスト(Saxo Group)
サマリー: 中国は、世界秩序の分断化への対応を迫られる中で、生成AIの分野の課題にも直面しています。米国における生成AIの飛躍的進歩は、コンピューティングパワー(コンピューターの演算処理能力)の制約と地政学的緊張とも相まって、技術応用、生産性向上、成長という中国の好循環を崩壊させる恐れがあります。
2017年5月、Googleの「アルファ碁」は、その人工知能(AI)能力で、中国の有名な囲碁チャンピオンで世界ランキング1位の柯潔を3勝0敗で打ち負かし、中国を驚かせました。この勝利は、AIの力を実証しただけでなく、中国がAI技術のより積極的な追求に乗り出すきっかけとなりました。
2017年7月、中国は「次世代AI発展計画」を、続いて12月には「次世代人工知能発展三カ年行動計画」(2018~2020年)」を発表しました。これらの戦略的取り組みは、中国をAIイノベーションの最前線に押し出すことを目的としており、2020年5月に導入された「新インフラ構想」によってさらに補強されました。
中国は、膨大なデータに支えられたモバイル+インターネット経済を活用し、消費者の嗜好を理解するAIアルゴリズムを強化しました。Baidu、Alibaba、Tencent、JD.COMといったインターネット大手は、AIを活用して市場動向を把握し、顧客にそれぞれの特性に最適な製品やサービスを提供し、さらには彼らのニーズを事前に予測することにも成功しました。
中国はAIの応用において大きな進歩を遂げましたが、生成AIが必要とする精巧さとコンピューティングパワーは別次元のものです。過去20年間、中国企業は比較的成熟した技術を応用し、最初は海外のビジネスモデルの模倣から始まり、やがて世界の潮流をリードするようなビジネス・イノベーションを生み出すことで、商品取引、小売、決済、エンターテインメント、ソーシャルメディアのあり方を破壊し、変革することに奮闘してきました。とはいえ、その成果は主にビジネスモデルのイノベーションと、人々の生活のより多くの側面へのAI応用の拡大にありました。この過程で、中国で利用可能な膨大なデータが発展のスピードを速め、その範囲を拡大させ、中国のインターネット企業を中国国内で圧倒的な地位を持つとともに、世界進出を果たした巨大企業にしました。
中国は特定のAI領域、特に視覚認識やAIを活用したビッグデータ分析に秀でていましたが、現在はアルファ碁の登場の際に経験したような、生成AIという新たな課題に直面しています。OpenAIのChatGPTのような生成AIモデルは、首尾一貫した、文脈上適切なコンテンツを生成する能力が証明されており、AI能力の境界を広げています。生成AIの出現は中国全土に衝撃を与え、同国はこの分野での後れを取り戻そうと躍起になっています。
中国当局は、国内インターネット企業に対し、より多くの生成AIのソリューションやアプリケーションを開発するよう促していると報じられていますが、中国企業は既に生成AIがもたらす創造的破壊に備える緊急性を十分に認識しています。しかし、生成AIがもたらす新たな課題とは、基礎となる技術革新の進展とコンピューティングパワーに対する膨大な需要であり、ビジネスモデルの革新や成熟した技術の新たな応用との関連性は低いものです。スタンフォード大学の「人工知能指数レポート2023」によると、AIカンファレンスの被引用数(中国:22.02%、米国:23.86%)や寄託論文の被引用数(中国:20.98%、米国:29.22%)では中国は米国に迫っていますが、ChatGPTのような生成AIの基礎となる大規模言語モデル(LLM:膨大なデータセットから得た知識に基づいて、テキストやその他のコンテンツを認識・要約・翻訳・予測・生成できるAI)やマルチモーダルモデル(テキスト・画像・音声・動画などの複数の種類の情報を一度に処理することができるAI)の分野での被引用数では、中国(8.04%)は米国(54.02%)には未だ遠く及びません。
中国が直面しているコンピューティングパワーの課題は、それが高度な半導体を大量に必要とし、中国にはこれを設計・製造する能力がないことを考慮すると、解決がいかに困難であるかが分かります。さらに、昨年10月以降、米国がハイエンド半導体や関連機器・技術の中国への輸出を禁止したことで状況はさらに悪化し、AI、特に生成AIの迅速な開発に必要なハードウェアの入手が制限されています。
中国は、技術革新、技術の応用、ビジネスモデルの革新、生産性の向上、経済成長、そしてさらなる技術への投資を通じて、経済成長の好循環を促進することを目指しています。グローバル化した世界では、特定の重要な技術を持ち合わせていなくとも、この循環を維持することがでます。しかし、世界秩序を支配しつつある分断化ゲームが進む中では、技術革新の遅れが好循環を乱し、生産性の低下を招き、最終的には経済発展を妨げることになりかねません。
投資家は中国への投資を検討する際、景気回復の予想以上の遅れやさまざまな制約といった要因とともに、このリスクを考慮します。こうした投資を制約する要因には、地方政府と不動産セクターを中心とした過剰債務が含まれます。この問題は中国当局が将来の金融混乱を引き起こすことなく景気刺激策を実行する能力を幾分か制限しています。
中国のインターネット業界、製造業、そしてより広範な経済の生産性に与える影響の程度や、それがどのように展開するかは、依然として不透明です。このような変化に備え、一部の投資家は、生成AIアプリケーションの開発、AI関連ハードウェアの製造、AI関連半導体・半導体材料・半導体機器の生産が可能な企業に注目しています。投資家が大きな関心を寄せている中国企業は、Baidu、360 Security、Lenovo、Shanghai Boasight Software、Iflytek、Unisplendour、ZTEおよびFoxconn Industrial Internetで、いずれも中国本土と香港の証券取引所に上場しています1。
中国の大手インターネット企業やテクノロジー企業は、ビジネスモデルを潜在的な創造的破壊に適応させる必要性を認識してますが、その生成AI製品や新しいアプリケーションの見通しは今のところ明るいとはいい難く、収益への貢献も限られています。
Baiduは早くからAIに注力し、検索、対話、コンテンツ生成が可能なAIモデル「ERNIE」を発表するなど、一定の進歩を示しています。XiaomiはAIとモノのインターネット(IoT)開発の道を追求し続けており、ディープラーニングを活用してモバイルとIoTデバイスを接続しています。TencentはHunYuanとWeLMを含む独自のAIモデルを開発し、テキスト生成、対話、翻訳、ゲームの分野を促進しています。Alibabaはマルチモダリティやマルチモダリティ・マルチタスク・メガトランスフォーマー(M6)モデルを開発し、JD.COMは自然な言語理解と生成のための事前学習済み言語モデルを開発しました。Bytedanceは多言語機械翻訳モデルの開発に貢献し、NetEaseはYuYan言語モデルを提供しています。
こうした努力は称賛に値しますが、各社のビジネスモデルに意味のある影響を与えるには至っておらず、さらに多くのことが成される必要があります。既存事業に基づく妥当なバリュエーションで取引されているこれらの銘柄の中には、興味深い投資機会を提供するものもありますが、投資家は、これらの企業にとって高成長が過去のものになる可能性があることを考慮すべきです。
技術革新と生産性向上が成功のカギを握る中、生成AIを採用した知的生産を進める企業は、今後数年のうちに中国で注目される「新たな新しいもの」になるかもしれません。投資家は、この分野の動向を追うことでリターンを獲得できる可能性があります。
1サクソバンクはこれらの企業について独自の調査を行ってはおらず、上記の銘柄は取引推奨を目的に記載されたものではなく、あくまでも参考情報として提供されております。