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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
サマリー: 中国を除くアジア諸国間の新たな連携が、経済発展の鍵に
アジアでは、これまでの中国依存のモデルが崩壊しつつあります。2023年は、新たなサプライチェーン連携と域内協力の推進が、地域に次なる投資機会をもたらすでしょう。
アジア株は2023年を勢いよくスタートし、MSCI AC Asia Pacific インデックスとMSCI エマージング・マーケット・インデックスの1月に強気相場入りし、米S&P500指数のパフォーマンスを上回りました。こうしたアジア株の堅調さの背景には、中国の政策転換と米ドル安の行があります。しかし、世界経済の減速や、インフレが高止まりするリスクを見過ごすことはできないでしょう。また、2022年の世界的な金利上昇は、アジアの内需拡大を実現する上で乗り越えなくてはならない課題となっています。また、アジア地域は依然として地政学的リスクを抱えており、先行き不透明感が高まっています。
ここでもう一つ考慮すべき点は、アジアの中国への依存度が薄れつつあるということです。この傾向は、中国経済の急速な冷え込みにかかわらず、2022年にアジア経済が総じて堅調に推移したことからも明らかです。中国の経済再開は、アジア域内において新たなサプライチェーンモデルの構築や域内協力の発展を促すものと期待できます。これらのポジティブな変化を背景に、世界経済におけるアジアの重要性は、今後も一段と高まっていくでしょう。
米中貿易摩擦やハイテク戦争の激化は経済制裁のリスクをいかに低減すべきか、という課題を企業に突き付けました。その結果、多くの企業がサプライチェーンの多様化を進めています。また、以前は工業用部品や医療用品からトイレットペーパーに至るまで、あらゆる物資の供給網が中国への過剰依存によって構築されていましたが、世界的なパンデミックによってこれらの供給網を多様化し、リスクを分散することの重要性が浮き彫りになりました。最後に、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻とそれに伴う欧州のガス不足懸念は、それまで米国の対外政策において緊密に連携してきた多くの国々に、サプライチェーンのレジリエンス(復元力)の重要性やロシアや中国への過度な依存を解消し、友好国からの調達に切り替えるという難題をもたらしました。
例えば日本は、LNGの調達先の多様化を図ると同時に、原子力発電所の再稼働によって長期的なエネルギー供給のレジリエンスの実現を目指しています。また、食料の中国・ロシア依存から脱却を図ることで、食料供給リスクを軽減しようとしています。より広範な意味では、防衛費の拡大や米国との緊密な連携、ロシアのウクライナ侵攻に対して強く抗議する姿勢からも明らかなとおり、日本は戦争に加担しつつあります。これは、アジアに新たな経済および地政学的秩序をもたらす可能性を示唆していると言えるでしょう。
脱グローバル化と自律分散型サプライチェーンが進展する中で、一部のアジア諸国が勝者となる可能性が出てきています。インドは、消費市場としてのポテンシャルや地勢的優位性によって魅力的な投資機会を提供しており、同国への投資は加速しています。Apple はすでに iPhone14 の生産をインドで開始しており、2025 年までに iPhone の生産工程のかなりの部分をインドに集約する見込みです。この計画が成功し、Appleが目標とする生産量を確保できれば、インドの生産能力は大きく評価されることになるでしょう。しかし、2023年に向けてインド株式のバリュエーションは割高な水準に達しており、昨年大きく下落にした後に相対的に割安感の強い魅力的な市場が他に存在していることも事実です。つまり、インドは経済改革政策をさらに推し進めることによって海外からの直接投資を呼び込み、その優勢性を確立する必要に迫られています。
中国からの製造業の大きなシェアを獲得しているベトナムは、チャイナ・プラスワン戦略のもう一つの勝者となっています。ベトナムは、放送機器、集積回路、電話、繊維・履物、衣料、家具などの主要物資の供給国として、2023年も相対的に魅力的な投資機会を提供しています。
コモディティ輸出への依存度が高いインドネシアは、2022年のアジア市場で最も優れたパフォーマンスを記録した国の一つとなりました。多くの国がエネルギーのベースロード電源の確保に苦戦する中、インドネシアに対する石炭需要は2023年も引き続き堅調に推移する可能性があります。また、グリーン・トランスフォーメーションに向けた新たな取り組みによって、インドネシアの主要輸出金属であるニッケルや銅の需要を引き続き押し上げるでしょう。その他にも、テスラをはじめとするEVメーカーは、中国からの脱却のみならずサプライチェーンのレジリエンス確保のために原材料の調達先に近い場所への生産移管を進めており、インドネシアでの工場設立を検討しています。しかし、2023年後半には、2024年米大統領選挙に向けた競争が激化するにつれて、政治的な不透明感が経済の重しとなるでしょう。
米中のハイテク冷戦は今年、戦略的転換点を迎える可能性があります。米国の対中半導体規制がこのまま継続するならば、台湾、韓国、日本など半導体サプライチェーンの主要プレーヤーは、中国との分断を余儀なくされる可能性があります。さらに、最近になって台湾は国内半導体メーカーが研究開発費について最大25%の税額控除を受けられる法案を可決しました。これに続き、欧米でより多くの半導体関連投資を呼び込むための法案可決が一段と加速する可能性もあり、2023年は半導体セクターの評価が見直される可能性があります。
半導体セクターでは第4四半期の決算発表が始まっていますが、今のところその厳しい内容や在庫の積み上がりがセンチメントの重しとなっています。しかし、中国の経済再開、自動車セクターのリバウンド、データセンター拡張への投資拡大を背景に、半導体需要の回復も期待できます。MSCI Taiwan インデックスのバリュエーションを見ると、ここ最近の株式市場の急騰にもかかわらず過去5年平均を大きく下回って推移しており、台湾は「地政学的ディスカウント」に苦戦している可能性も考えられます。また、これとは対照的に、MSCI韓国 インデックスは2020年の高値までの上昇余地は大きいものの、年初の上昇もあって過去5年平均を上回っています。