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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
サマリー: パンデミック以前、中国のアウトバンドは世界の観光産業に最も寄与する市場へと拡大を遂げました。中国のアウトバウンド需要は、3年ぶりの国境再開に伴うリバウンド需要やコロナ禍での貯蓄拡大が後押しとなり、向こう数年間にわたって急速に拡大する可能性が高まっています。こうした中、中国からの航空便の規制が続く西側諸国に先立って、アジア地域の観光産業はその恩恵を最も享受するものと予想されます。本稿では、中国人観光客の需要が高いアジアの観光産業に対するエクスポージャーを提供する株式銘柄をリストアップしました。
パンデミック以前、中国のアウトバンド観光は、世界の観光産業に最も寄与する市場へと発展し、2019年の海外旅行の件数は1億5,500万件、消費額は世界の観光収入の14%に当たる約2,550億ドルを占めました。過去3年間続いたゼロコロナ政策を経て、中国は昨年11月から予想以上に早いペースでパンデミック規制の緩和を進めています。加速する中国経済の再開は、2023年の最大の転換点となる可能性があると考えます。中国からの需要回復が再び国内、アジア、そして世界の観光市場の原動力となる中、中国経済の動向は、今年から来年にかけて市場を司る重要なテーマとなるでしょう。China Outbound Tourism Research Institute (Cotri)は今年、中国人観光客の海外旅行件数が1億1,000万件に上ると予想していますが、これは2019年の約3分の2に相当します。この予想に基づいた場合の消費額は世界全体で約1,800億ドルに上ると試算され、過去3年間にわたる中国人観光客の不在で大きな打撃を受けてきた観光産業が復活を遂げる機会をもたらすものと期待されます。
中国当局は今年1月に経済再開ならびに出入国規制の緩和に踏み切りましたが、その後も感染拡大や変異株に対する懸念が重石となり、観光需要の回復は抑制傾向が続いています。ただ1月末の旧正月の後も感染者の急増は見られず、国家移民管理局が報告した1日当たりの出入国数の平均は41万人と、昨年の春節に比べて120%増加しました。今後は5月1日の労働節を控えた第2四半期にかけて一段の回復が見込まれるほか、今年下半期は9月の中秋節連休や10月の国慶節の休暇が弾みとなり、需要が本格的に加速するものと予想されます。中国では5月の労働節に5連休、10月上旬の国慶節に1週間の祝日があり、いずれも観光のゴールデン・タイムになっています。
より慎重な見方をすれば、中国のアウトバウンド需要の本格的な回復までには数年を要する可能性もありますが、少なくとも完全再開に向けた扉が開かれようとしていることは間違いありません。また、これに先駆けて最も恩恵を享受するのは中国やアジア地域の観光を取り扱う一部の旅行会社となるでしょう。アジアは大半の中国人旅行者にとって、引き続き最も需要の多い目的地となっており、香港、マカオ、タイ、続いて日本、韓国、オーストラリアおよび東南アジア諸国が主な旅行先に選ばれています。2022年に香港を訪れた中国人観光客は、パンデミック前の5,000万人から37万人へと減少しました。今年は60〜70%程度回復し、3,000万~3,500万人の中国人が香港を訪れる見通しとなっています。また、2023年にタイを訪れる中国人観光客は700万~800万人に上ると予想され、同じく2019年の60〜70%程度の水準まで回復する見込みです。
欧州や北米への渡航に関しては、商用運航の数が限定的であり、ビザの新規発給も滞っていることから、本格回復までには1年以上かかる可能性もあります。これらの目的地への運航数が少ないため航空運賃は高騰していますが、パンデミック禍の貯蓄拡大がその影響を幾分相殺するかもしれません。一方、パンデミックを背景に広がった世界的な反アジア感情を警戒し、中国人旅行者はより安全な目的地を選択する傾向が強まる可能性もあります。
当グループは、中国のアウトバウンド回復がもたらす投資機会を捉えるべく、新たに「APAC観光」をテーマ別投資バスケットに追加しました。当バスケットの銘柄は、主に今後1年間にわたって中国からの観光客の流入が最も拡大すると見込まれる国々で予約・決済プラットフォーム、航空会社、空港サービス、ホテル、カジノ、レストラン等の事業を展開するアジア企業の株式で構成されています。また、中国のアウトバウンドの目的地として大きな比重を占めるタイの主要株価指数も組み入れています。
APAC観光のバスケットの時価総額は、首位のBooking Holdingsを筆頭とする構成銘柄の合計で4,766億ドルに上ります。当バスケットを構成する企業の売上高成長率は、コロナショックを経て昨年中にプラスに転じたものの、収益性は引き続き圧迫される状況が続きました。今後の見通しとして、アナリストは総じて中国人観光客のリバウンドがこれらの企業の収益を押し上げると予想しており、目標株価中央値は現在の株価から12%程度高い水準にあります。
際旅客便の減便に加えてパイロットや客室乗務員の不足による航空運賃の高騰は、中国のアウトバウンド需要回復にとって最大のリスクとなり得るでしょう。今年1月の中国発着国際便の利用者数は、2019年に比べてわずか11%の水準にとどまりました。旅行データサービスのCiriumによると今年4月には25%に回復する見通しですが、航空運賃の高止まりが続いた場合、中国の消費者が海外旅行の計画を2023年の終わりから2024年に後ろ倒しする可能性も懸念されます。
もう一つのリスクは、コロナの新たな変異株の流行や感染拡大によって観光客が再び減少することです。また、地域経済の減速によって消費者の購買力が低下し、旅行需要が落ち込む可能性が懸念されます。