口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。
最短3分で入力完了!
マーケット・ストラテジスト(Saxo Group)
サマリー: 中国経済は、6月にロックダウンがほぼ解除され、依然として穏やかながらも明確な回復の兆しを見せてきています。しかし、より感染力の強い亜種を含む新型コロナウイルスの陽性者数が再び増加していることから、投資家の不安が増しています。地方政府は財政逼迫に直面している一方、インフラ建設プロジェクトを引き続き積極的に推進しています。
NBS(中国国家統計局)とCaixin(中国メディア大手の財新)がそれぞれ発表したPMI(製造業購買担当者指数)は、いずれも予想を上回り、活動拡大・縮小の境目である50ポイントを超え、6月の企業活動が拡大したことを示唆するものとなりました。NBSの製造業PMIは50.2(5月は49.6)、Caixinの製造業PMIは51.7(同48.1)でした。サービス部門が最大のポジティブサプライズとなりました。NBS非製造業PMIは47.8から54.7に上昇し、対象業種のなかでもサービス部門のインデックスが最も顕著に強さを示し、5月の47.1から8月に54.3に急上昇しました。同様にCaixinサービス業PMIも5月の41.4から6月には54.5に急上昇し、サービス業が幅広く改善したほか、民間中小企業でも改善が見られました。これらの改善は概して、6月に国内の多くの地域でロックダウンが解除されたことに起因しています。
銀行や市場からの調達総額を示す社会融資規模は6月、前年同月比10.8%と、1年ぶりの伸びとなりました。5月(10.5%)比でも0.3ポイント上昇しています。6月の人民元建て融資残高は前年同月比11.2%増(5月は同11.0%増)となりました。M2は6月に前年同月比11.4%増(5月は同11.1%増)となりました。
人民元建て新規融資は、5月の1兆8,900億元から6月は2兆8,100億元となりましたが、これは企業向け新規融資が2兆2,120億元と急増したことが要因です。企業向け新規融資のうち、中長期融資が5月の5,550億元から6月は1兆4,500億元に増加し、増加分の多くを占めたことが注目されます。企業向け中長期融資の増加は、中国当局が銀行に政策支援産業への融資を促したことと、企業の借入需要が回復していることを反映しています。
家計向け融資の増加は、企業向けより相対的に弱い水準でした。家計向け融資額は5月の2,890億元から6月は8,480億元に増加しましたが、昨年6月を下回りました。住宅ローンを含む中長期の家計向け新規融資は4,170億元と5月の4倍近くまで急増しましたが、それでも昨年6月の水準を2割近く下回っています。
国債の新規発行額は、5月の1兆580億元、2021年6月の7,510億元に対し、6月は1兆618億元に増加しました。今年6月の国債純発行額は過去最高水準となりました。財務部が地方政府に対して、6月末までに年間3兆6,500億元の特別債券発行枠を前倒しで使用し、8月末までに調達資金をインフラ建設に充当するよう指示した結果です。6月に入り、地方政府は1兆3,710億元の特例債の発行を急ぎました。
社債の純発行額は、5月の110億元の減少から6月には2,500億元まで回復しました。 これらの社債発行のほとんどは、地方融資平台(LGFV)向けです。 不動産開発業者の国内市場人民民元建て債券による資金調達は、6月はわずか110億元でした。
しかし、7月4日以降、中国で新たに局地的に新型コロナウイルス陽性者数が増加し、300人を超える水準で推移していることにより、6月に回復の兆しが見られた経済が再びリスクにさらされています。さらに、上海ではこの4日間、毎日50人以上の新規陽性者が報告され、先週金曜日にはより感染力の強いオミクロン株BA.5亜種の陽性者が初めて報告されました。現在31都市(中国の人口の約17%、GDPの約25%を占める)が、何らかのロックダウンや地域ベースの制限的な対策を実施しているとされており、わずか1週間前の11都市(人口の8%、GDPの15%)からほぼ3倍に増加しました。中国主要15都市の地下鉄旅客輸送量は7日間移動平均で前年同期比11%減、道路貨物輸送量は同17%減となりました。中国が「揺るぎない」ゼロコロナ政策を堅持する中、中国国内での新型コロナウイルスの再拡大を受けて、中国株式のリスクプレミアムが再び上昇し始めています。
集団PCR検査の経済的負担は、パンデミック対策に係る他の行政コストと併せて地方政府が主に負担します。PCR検査の実施費用は国民健康保険ではなく、地方政府が負担します。政府の政策や政党政治の中でゼロコロナ政策が重要な位置を占めていることから、地方政府の役人には、経済活性化を含む他の政策目標よりもパンデミック対策に財政資源を優先させる動機付けが働きます。何百万人もの国民の定期的な検査にはコストがかかり、既に厳しい財政予算を大幅に圧迫し、他の政府支出財源を奪う可能性が高くなります。
中国政府は、景気浮揚のための救済措置として1兆6,400億元の付加価値税(VAT)還付計画を開始しました。中国のVAT収入は中央政府と地方政府で均等に配分されています。これは地方政府がVAT還付計画の半分を負担しているということを意味します。VAT税収は、地方政府の税収の38%(2020年時点)を占める最大の項目ですが、年初からの5か月で43%減となりました。2番目に大きい項目である、土地・不動産関連5税(土地使用権、土地付加価値税など)は、地方税収の約26%を占めます。この5税も不動産市場の低迷により圧迫されています(2022年1-5月で7.9%減)。予算税収に加え、土地使用権の売却による予算外収入も地方政府にとって重要な税収源です。2022年1月から5月にかけて、土地使用権販売による収入は1兆8,600億元に急減し、昨年より29%減少しました。
アナリストは、地方政府予算の歳入不足は、中央政府が5月以降に打ち出した政策銀行融資と債券発行の追加枠、鉄道建設債券発行、財政移転の前倒しなどの措置によって補填されると予想しています。
中央政府は地方政府に対し、インフラ整備を主目的とする特別債券の年間発行枠を3兆6,500億元とし、6月末までに全額を発行し、8月末までに資金を支出するよう指示しました。2023年からの特別国債発行枠の一部(直近の市場では1.5兆元と言われています)が今年の第4四半期に繰り上げられるとの見方が強くなっています
ゴールドマン・サックスの試算によると、2022年1月から5月までに発行された地方債の収入2兆元のうち、70%がインフラプロジェクトに費やされたとされています。このインフラプロジェクトの産業別内訳は、自治体建設・工業団地(34%)、交通インフラ(18%)、教育・衛生・社会事業(18%)、社会住宅(15%)、農村復興・農林・水利(8%)、生態建設・環境保護(4%)、物流・エネルギー・その他(3%)となっています。
今年4月、中国のインフラ建設が活発化していることを受け、その恩恵を受ける企業に投資するという案が持ち上がった際、当社は石油・ガス開発、工業といった川上産業に強く注目していました。上半期は、投入コスト上昇で営業利益が圧迫された川中・川下製造業に比べ、川上産業の収益性が非常に高かったのです。
6月初旬から、工業用金属を中心に商品価格が軒並み20%以上急落した後、商品価格の下落により、一部の製造業において営業利益が減少から回復に転じる可能性があるとみられます。インフラ関連産業の多くは、エネルギーや工業用金属がコストに占める割合が高いため、この点は重要です。例えば、中国国家統計局の産業連関表からの推計によると、送電・制御機器産業は、エネルギー(16%)、鉄(12%)、非鉄(32%)でコストの約60%を占めています。
欧米では、長年にわたってエネルギー・鉱業への設備投資が過少な状況が続いていることから、エネルギーと商品については長期的に強気相場が続くと予想されます。そのため、商品市況が短期的に逆風にさらされる第3四半期は、川下のインフラ関連企業から、川中・川下のインフラ関連企業へと投資対象を拡大する戦術を一時的にとっています。