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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
サマリー: 日本政府は日銀の正副総裁の後任人事を近日中に国会に提出する見通しであり、日銀の次期総裁人事は佳境を迎えています。今週に入って日銀出身の雨宮氏が次期総裁の最有力候補(政府はこれを否定)であるとの報道が広がったことで、市場ボラティリティは高まりつつあり、岸田首相は市場のサプライズを回避できるよう配慮したい旨を発言しました。これを受けて、市場は候補のうち最もハト派とされる雨宮氏と、逆に最もタカ派とされる山口氏が有力候補から外れるとの見方に傾いています。また、それほど知名度の高くない候補者や日銀出身以外の候補者も選択肢として視野に入ってきました。
メディアの報道によると、政府は2月10日に日銀正副総裁の後任人事案を国会に提示する見通しですが、来週にずれ込む可能性もあります。本稿では、有力候補のリストに注目し、それぞれが市場に与え得るインパクトについて考えます。
昨年12月に長期金利の上限引上げを行って以来、日銀による追加の政策修正やイールドカーブコントロール撤廃の観測が強まっています。次期総裁人事が佳境を迎える中、3月には春闘が控えており、政府は重要な局面を迎えています。市場は、従来から過度な円安や低金利環境に否定的である岸田首相が日銀総裁交代をきっかけに、アベノミクスからの脱却を図る可能性があることを十分認識しており、足元のイベントリスクを背景に、日銀の政策を巡る憶測は、今後さらに強まるものとみられます。
後任人事が発表された直後は急激なボラティリティが生じると予想されますが、その後は落ち着きを取り戻す可能性があることにも留意が必要です。全体的な見通しとして、世界各国の利回りがピークアウトしつつあることを鑑みると、日本円はその他の主要通貨をアウトパフォームする可能性を秘めています。なお、日銀総裁の有力候補を以下にリストアップし、金融政策に与え得る影響や市場の反応を予想します。
雨宮正佳氏(日銀副総裁)
その長年にわたる日銀でのキャリアから「ミスター日銀」と呼ばれています。黒田総裁が2013年に打ち出した資産買い入れプログラムの策定で重要な役割を果たし、一貫して超低金利政策を提唱してきました。すでに今週初めに一部のメディアは政府が次期総裁への就任を打診したと報じましたが、市場は雨宮氏は黒田総裁の政策方針を引き継ぐと受け止めるでしょう。これは、円安進行と日本株の上昇もたらす可能性があります。
中曽氏は5月に出版した著書で金融緩和政策の長期化による負の影響を指摘し、超低金利からの脱却を提唱するなど、雨宮氏と比べるとタカ派寄りの候補者です。一方中曽氏はアベノミクス初期の支持者でもあり、国際的な影響力を持つ人物として広く知られています。中曽氏が次期総裁に選ばれた場合、数か月以内に日銀が政策修正に動くとの憶測に拍車をかけ、円高と銀行株の上昇につながる可能性があります。しかし、中曽氏は雨宮氏ほど物議を醸すことにはならないでしょう。
山口氏は以前から量的緩和政策の有効性に懐疑的であり、最もタカ派的な候補者であるとみられます。山口氏は長引く量的緩和政策による財政コストの拡大を指摘するだけでなく、日銀の大規模な資産買い入れプログラムと長期金利の上限はいずれも持続不可能であるとし、撤廃するよう提言してきました。山口氏は岸田政権の政策を推し進めるには理想的な選択肢となり得る一方、岸田政権にとって政府への反発や政治的敗北を招くリスクを伴っています。山口氏が次期総裁に就任した場合、円の急騰や日本市場への資金流入が加速し、世界的な流動性が逼迫する可能性が懸念されます。
浅川氏はアベノミクスの初期に功績を残したことで知られる一方、タカ派の候補者でもあります。彼は円安を支持しており、デフレ脱却に向けた黒田総裁の景気刺激策を高く評価しています。浅川氏が次期総裁に就任した場合、黒田総裁の金融政策を肯定しつつも異なる環境で政策修正を施すことを正当化する、といった流れになるかもしれません。これは、日銀と岸田政権にとってまさにゴルディロックス(適温経済)的なシナリオ展開となるでしょう。