私たちはドルベースの世界で活動しています。したがって、米ドルの流動性は世界経済と金融市場の重要な推進力としての役割を担っています。サクソバンクでは、米ドルのマネーサプライの推移をドル流動性の指標として使用しています。下図では、主要25か国の通貨総量M2の推移を米ドル換算し、米国のM3の推移を差し引くことで、米ドルの流動性を追跡しています。これは、金融市場で現在起きていることを理解する上で、最も重要なチャートであることは間違いありません。
前回の米ドル流動性危機の発生時には、2007-08 年と同様あるいはそれ以上の流動性危機を回避しようとする米国連邦準備制度理事会(FRB)や他の主要な中央銀行の努力によって、米ドルの流動性は増加し、その取り組みは成功しました。2021 年半ば以降、米ドルの流動性は徐々に減少に転じました。しかし、ごく最近まで流動性は豊富に維持されていました。イングランド銀行の緊急介入の引き金となった英国債券市場の流動性問題は、流動性、特に米ドルの流動性が乏しい場合に今後数か月間に起こり得ることの一例です。金融市場がこのような流動性の低下を経験したのは、2015年(中国が人民元を切り下げた時)と2019年初頭(当時は米中貿易摩擦に焦点が当たっていました)の2回です。それが、新興国市場の混乱、金融情勢の悪化、米ドルの資金調達コストの上昇を引き起こしたのです。 しかし、現在と、2015年、2019年とを比べると大きな違いがあり、当時はインフレが発生していませんでしたが、現在では政策当局にとって最大の課題となっています。インフレは今後数か月間不安定な状態が続き、ほとんどの国(米国を除く)でピークアウトしていないことを考えると、中央銀行には金融政策を正常化させ続ける以外の選択肢はありません。つまり、米ドルの流動性は短期的に低下し続けることになります。金融市場、特に株式と世界経済に実質的にマイナスの影響を与えることになるでしょう(当社の第3四半期の業績予想については、
Peter Garnryの最新記事を参照)。