米規制当局はSVB破綻の連鎖回避に動く

概況
チャル・チャナナ

チーフ・インベストメント・ストラテジスト

サマリー:  シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受けて、米規制当局は連鎖破綻を回避すべく流動性供給措置や新たな融資制度の設定を発表しました。市場ではFRBが3月の利上げを見送るとの予想が高まっていますが、金融システミックリスクの抑制に動く規制当局の対応は、FRBがインフレ対策で引き続き難しい舵取りを迫られていることを示唆しています。また、利上げ停止などの流動性供給措置は、一段のインフレ高進を招くリスクを孕んでおり、投資家は米国のテクノロジー産業のイノベーションに与える長期的なインパクトを引き続き注視する必要があります。


米規制当局は包括的な措置を打ち出す

米シリコンバレー銀行(SVB)破綻の波及リスクの高まりを受けて、米規制当局は連鎖破綻や金融セクター全体への影響を防ぐための措置を打ち出しました。FRBは新たな流動性供給措置に加えて、SVBとシグニチャー銀行のすべての預金の全額保証を発表し、金融システム全体への影響を食い止める構えです。

また、FRBは適格担保を差し入れた付保金融機関を対象に期間1年までの融資を提供する新たな緊急融資プログラムBank Term Funding Program (BTFP)を発表しました。当プログラムでは担保価値と同額の資金を借り入れることができ、たとえ金利上昇によってFRBに差し入れた担保の時価が額面を下回った場合にも、担保価値は額面で評価されます。これにより、銀行はSVBのように保有債券の売却によって損失を計上することなく、預金引き出しに対応することが可能となります。このように、規制当局はSVBの破綻によって生じた固有のリスクへの対応にとどまらず、今回打ち出した寛大な措置からは、以前から一定のシステミック・リスクが存在することを警戒していた可能性も考えられます。規制当局がすでにこれらのリスクを把握していたか否かは注目すべきポイントですが、システミックリスクは目先で後退する公算が大きいと考えられます。緊急融資プログラムのBTFPを設定することで、小規模な地方銀行の預金者の懸念が和らぐものとみられ、金融システムに広がるパニックに一旦歯止めが掛かることは間違いないでしょう。

今後のポイント

  • バイデン大統領の対応

    バイデン米大統領は13日、SVBについて演説を行い、米議会に対し状況報告を行いました。今後の焦点は、引き続きインフレ抑制への取り組みを進めるむ中で、FRBが銀行セクターのストレス軽減に向けて新たな監督・規制強化に乗り出すかどうかです。

    FRBの金融政策と今後の金利動向                                                
  •  
  • 金融危機のリスクは、FRBの政策運営をより複雑なものにしています。市場が織り込む3月の利上げ幅は、先週行われたパウエル議長のタカ派的な議会証言後に0.25%から0.5%に切り上がった後、SVBの破綻を引き金とするリスクの高まりを受けて再び0.25%に縮小し、足元のターミナルレート予想は先週の5.7%から5.0%に低下しています。また、一部の米銀は、FRBに金融引締めの影響を再評価するために3月の会合で利上げを一時停止するよう求めています。

FRBは金融リスクに対して強力な措置を打ち出しましたが、これは、引き続きインフレ抑制に向けた金融引締めを継続する余地が残されていることを意味しています。また、金融リスクを緩和するための流動性供給は、更なるインフレ高進を招く恐れがあります。加えて、緊急融資プログラムによって銀行は資金の引き出しが必要となった場合にも融資の担保価値が額面で評価されるため、FRBは満期保有目的の債券価値を毀損することなく金融引締めを継続できることを指摘する向きもあるかもしれません。この結果、FRBは「より高く、より長い」利上げを実現できることになります。では、もしSVB破綻を巡る波及リスクが後退した場合、14日公表の米CPIで再びインフレが予想以上に加速していることが確認されれば、市場は利上げペースの加速を再び織り込むようになるのでしょうか?

 
  • 長期的にはテクノロジーのスタートアップ企業の生産性に影響を及ぼす可能性が

    SVB危機は流動性が悪化する中でスタートアップ企業の預金の引き出しが急増したことが発端となり、米国のハイテクセクターが直面する課題を浮き彫りにしました。FRBは金融安定化に向けて機動的に対応しているものの、SVB破綻の影響はハイテクセクターを中心に米国のスタートアップ全体に波及しており、長期的にはテック企業の生産性にネガティブな影響を及ぼす可能性が懸念されます。また、金利が高止まりする中でベンチャーキャピタルからの資金調達コストは引き続き上昇しており、ハイテクセクターのイノベーションを阻むリスクが生じています。

    市場に与えるインパクト

米株価指数先物市場やアジアの株式市場では、米金融当局の融資プログラムの報道が好感されて買いが先行しましたが、FRBの利上げペース減速の見通しが広がる中で米国債の利回りの低下とドル安進行は一段と加速しました。先週の急落からの反動もあり、リスク選好の流れは米国の立会時間に引き継がれる可能性もあります。

金曜日の米2月雇用統計の内容は強弱まちまちとなりましたが、非農業部門雇用者数は市場予想を上回り、引き続き労働市場のタイト化を裏付けました。今後は14日公表予定の米2月消費者物価指数(CPI)はFRBの金融政策の鍵となります。もしCPIでインフレの上振れリスクの顕在化が確認され、FRBが金融リスクに対処できると市場を説得できるならば、利回りは再び上昇し、ドル高が進行する可能性があります。こうした中で、米国株への下押し圧力は引き続き強まる見通しであり、中小企業(主にラッセル3000種指数の組入銘柄)やテクノロジー企業のイノベーションに与えるネガティブな影響を鑑みると、これらの企業は引き続き苦境に立たされるものとみられます。FRBの利上げサイクルが継続する中で、投資家にとって「質への逃避」が今後の鍵となるでしょう。

ただし、FRBが来週の会合で0.25%の利上げに踏み切ったとしても、市場がFRBは利上げを加速せず、長期にわたり高水準にとどめると考え続ける限り、先行き不透明感の高まりが払拭されることはないでしょう。FRBがこうした市場の懸念にどのように対処するかが、今後の重要なポイントとなります。

口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。 

最短3分で入力完了!

【ご留意事項】

■当資料は、サクソバンクグループのアナリストによるマーケット分析レポートの転載、もしくは外部のアナリストからの寄稿となっております。
■当資料は、いずれも情報提供のみを目的としたものであり、特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
■当資料は、作成時点において執筆者またはサクソバンク証券(以下「当社」)が信頼できると判断した情報やデータ等に基づいていますが、執筆者または当社はその正確性、完全性等を保証するものではありません。当資料の利用により生じた損害についても、執筆者または当社は責任を負いません。 
■当資料で示される意見は執筆者によるものであり、当社の考えを反映するものではありません。また、これら意見はあくまでも参考として申し述べたものであり、推奨を意味せず、また、いずれの記述も将来の傾向、数値、投資成果等を示唆もしくは保証するものではありません。 
■当資料に記載の情報は作成時点のものであり、予告なしに変更することがあります。 
■当資料の全部か一部かを問わず、無断での転用、複製、再配信、ウェブサイトへの投稿や掲載等を行うことはできません。
■上記のほか、当資料の閲覧・ご利用に関する「免責事項」をご確認ください。 
■当社が提供するデリバティブ取引は、為替相場、有価証券の価格や指数、貴金属その他の商品相場または金利等の変動によって損失を生じるおそれがあります。また、お預けいただく証拠金額に比べてお取引可能な金額が大きいため、その損失は、預託された証拠金の額を上回る恐れがあります。
■当社が提供する外国証券取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。手数料については、「取引金額×一定料率」又は「取引数量×一定金額」で求めた手数料が一回の取引ごとに課金されます。ただし手数料の合計額が当社の定める最低手数料に満たない場合は、手数料に代えて最低手数料を徴収させていただきます。また取引所手数料等の追加費用がかかる場合があります。 
■取引にあたっては、取引説明書および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。 
■当社でのお取引にかかるリスクやコスト等については、 こちらも必ずご確認ください。

サクソバンク証券株式会社
Saxo Bank Securities Ltd.
Izumi Garden Tower 36F
1-6-1 Roppongi Minato-ku
Tokyo 106-6036
〒106-6036 東京都港区六本木1-6-1
泉ガーデンタワー36F

お問い合わせ

国・地域を選択

日本
日本

【重要事項及びリスク開示】

■外国為替証拠金取引は各通貨の価格を、貴金属証拠金取引は各貴金属の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、売買の状況によってはスワップポイントの支払いが発生したり、通貨の金利や貴金属のリースレート等の変動によりスワップポイントが受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■外国為替オプション取引は外国為替証拠金取引の通貨を、貴金属オプション取引は貴金属証拠金取引の貴金属を原資産とし、原資産の値動きやその変動率に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、オプションの価値は時間の経過により減少します。また、オプションの売り側は権利行使に応える義務があります。
■株価指数CFD取引は株価指数や株価指数を対象としたETFを、個別株CFD取引は個別株や個別株関連のETFを、債券CFD取引は債券や債券を対象としたETFを、その他証券CFD取引はその他の外国上場株式関連ETF等を、商品CFD取引は商品先物取引をそれぞれ原資産とし、それらの価格の変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、建玉や売買の状況によってはオーバーナイト金利、キャリングコスト、借入金利、配当等調整金の支払いが発生したり、通貨の金利の変動によりオーバーナイト金利が受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■上記全ての取引においては、当社が提示する売価格と買価格にスプレッド(価格差)があり、お客様から見た買価格のほうが売価格よりも高くなります。
■先物取引は各原資産の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。
■外国株式・指数オプション取引は、対象とする有価証券の市場価格や対象となる指数、あるいは当該外国上場株式の裏付けとなっている資産の価格や評価額の変動、指数の数値等に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、対象とする有価証券の発行者の信用状況の変化等により、損失が発生することがあります。なお、オプションを行使できる期間には制限がありますので留意が必要です。さらに、外国株式・指数オプションは、市場価格が現実の市場価格等に応じて変動するため、その変動率は現実の市場価格等に比べて大きくなる傾向があり、意図したとおりに取引ができず、場合によっては大きな損失が発生する可能性があります。また取引対象となる外国上場株式が上場廃止となる場合には、当該外国株式オプションも上場廃止され、また、外国株式オプションの取引状況を勘案して当該外国株式オプションが上場廃止とされる場合があり、その際、取引最終日及び権利行使日が繰り上げられることや権利行使の機会が失われることがあります。対象外国上場株式が売買停止となった場合や対象外国上場株式の発行者が、人的分割を行う場合等には、当該外国株式オプションも取引停止となることがあります。また買方特有のリスクとして、外国株式・指数オプションは期限商品であり、買方がアウトオブザマネーの状態で、取引最終日までに転売を行わず、また権利行使日に権利行使を行わない場合には、権利は消滅します。この場合、買方は投資資金の全額を失うことになります。また売方特有のリスクとして、売方は証拠金を上回る取引を行うこととなり、市場価格が予想とは反対の方向に変化したときの損失が限定されていません。売方は、外国株式・指数オプション取引が成立したときは、証拠金を差し入れ又は預託しなければなりません。その後、相場の変動や代用外国上場株式の値下がりにより不足額が発生した場合には、証拠金の追加差入れ又は追加預託が必要となります。また売方は、権利行使の割当てを受けたときには、必ずこれに応じなければなりません。すなわち、売方は、権利行使の割当てを受けた際には、コールオプションの場合には売付外国上場株式が、プットオプションの場合は買付代金が必要となりますから、特に注意が必要です。さらに売方は、所定の時限までに証拠金を差し入れ又は預託しない場合や、約諾書の定めによりその他の期限の利益の喪失の事由に該当した場合には、損失を被った状態で建玉の一部又は全部を決済される場合もあります。さらにこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。外国株式・指数オプション取引(売建て)を行うにあたっては、所定の証拠金を担保として差し入れ又は預託していただきます。証拠金率は各銘柄のリスクによって異なりますので、発注前の取引画面でご確認ください。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、取引証拠金を事前に当社に預託する必要があります。取引証拠金の最低必要額は取引可能な額に比べて小さいため、損失が取引証拠金の額を上回る可能性があります。この最低必要額は、取引金額に対する一定の比率で設定されおり、口座の区分(個人または法人)や個別の銘柄によって異なりますが、平常時は銘柄の流動性や価格変動性あるいは法令等若しくは当社が加入する自主規制団体の規則等に基づいて当社が決定し、必要に応じて変更します。ただし法人が行う外国為替証拠金取引については、金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第27項第1号に規定される定量的計算モデルを用いて通貨ペアごとに算出(1週間に1度)した比率を下回らないように当社が設定します。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、損失が無制限に拡大することを防止するために自動ロスカット(自動ストップロス)が適用されますが、これによって確定した損失についてもお客様の負担となります。また自動ロスカットは決済価格を保証するものではなく、損失がお預かりしている取引証拠金の額を超える可能性があります。
■外国証券売買取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。
■取引にあたっては、契約締結前交付書面(取引説明書)および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。

サクソバンク証券株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第239号、商品先物取引業者
第一種金融取引業、第二種金融商品取引業
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、日本投資者保護基金、日本商品先物取引協会
手数料:各商品の取引手数料についてはサクソバンク証券ウェブサイトの「取引手数料」ページや、契約締結前交付書面(取引説明書)、取引約款等をご確認ください。