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マーケット・ストラテジスト(Saxo Group)
中国は、温室効果ガス排出量を2030年までにピークアウトさせ、2060年までにはカーボンニュートラル実現を目指し、排出量の増加を徐々に抑制する目標を掲げています。2007年に「中国国家気候変動対応計画」を発表し、1980年代以降長年にわたって採用してきた、エネルギー・環境汚染・資源集約型の製品の輸出という開発モデルからの転換を模索してきました。続く2008年の「中国気候変動対応の政策と行動白書」で、中国の政策当局は、エネルギー・排出集約型の輸出産業の成長を制限する計画を打ち出しました。2007年から、国内の火力発電、製鉄、製鋼設備、数千の小規模炭鉱、製紙、化学工場、印刷・染色工場などを閉鎖し、再生可能エネルギーを推進し国内の一次エネルギー消費の10%を目指す施策を展開しています。中国の一次エネルギー消費に占める石炭の割合は2005年の72.4%から2021年には55%に低下し、再生可能エネルギーの割合は15%(うち水力8%、太陽光・風力中心7%)に達しました。2021年の一次石油消費量に占める石油と天然ガスの割合は、それぞれ19%と9%です。(図1)
出所:Saxo Markets & BP Statistical Review of World Energy 2022
中国における石油と天然ガスの生産量は2015年にピークアウトしています。経済的に成立する国内の新規石油・天然ガス資源の発掘は難しく、中国の石油・ガス大手3社の石油・ガス炭鉱・開発における設備投資額は2014年以降、減少しています(図2)。
中国は石炭の埋蔵量が豊富で自給自足に近い状態にありますが、石油や天然ガスについては事情が異なります。経済成長に伴い、中国は石油と天然ガスの輸入への依存度を高めています(図3)。中国は、石油消費量の70%以上、天然ガス使用量の40%以上を輸入しています。これらの石油・ガスの輸入量を原油換算すると、年間2,400隻のスーパータンカーが必要となる量です。石油や天然ガスの輸入のほとんどは、陸上パイプラインではなく、海上輸送(油槽船やLNG船)です。中国の政策立案者は、強力なブルーオーシャン海軍を持たず、海上エネルギー貨物の輸入に大きく依存してきたことによる国家安全保障上の影響について警戒しています。よく言われるのは、もし敵対する海洋国家が、中国のマラッカ海峡通航を拒否したらどうなるかということです。
国家安全保障上の観点はともかく、石油や天然ガスの価格は米ドルで決定され決済されます。石油・天然ガス価格の上昇は、他の商品価格の上昇とともに、中国の商品交易条件を急激に悪化させ、IMFのエコノミストは、2020年4月から2022年4月までの間に、中国のGDPを4.7%減少させたと推定しています(図4)。
出所:IMF. https://data.imf.org/?sk=2CDDCCB8-0B59-43E9-B6A0-59210D5605D2
石油や天然ガスの価格の上昇を契機に、中国は再生可能エネルギーや原子力の利用割合を増やすだけでなく、クリーンな石炭技術の開発を含むグリーントランスフォーメーションを加速させる意向をさらに強めています。中国の政策当局は、主要なエネルギー源を石炭とすることを強調し、グリーントランスフォーメーションの焦点は、発電のために石炭を燃やす際の効率を高め、排出量を減らし、炭素を回収する、より高度な技術を開発・適用することであると述べています。中国の習主席は、中国における炭素削減は「石炭が豊富で石油が乏しく、ガスが少ないという基本的な国家情勢に基づくものであり」、「石炭を中心とするエネルギー構造を短期間で根本的に変えるのは難しい」と述べています。
中国の太陽光発電所では、発電に十分な日照時間が年間平均1,450〜1,750時間です。つまり、80%〜84%は発電に必要な日照時間が確保できていないことになります。風力発電は、年間約2,000時間(約23%)のうち、発電に十分な風が吹いている時間があり、残りの77%は風車が稼働していない状態です。太陽光発電や風力発電は断続的なため、エネルギー貯蔵が必要ですが、これは非常に高コストです。電池のエネルギー密度は260kWh/㎥と、ガソリンの8600kWh/㎥よりはるかに低くなります。太陽光発電や風力発電のエネルギーを電池で貯蔵するには、大量の電池が必要となり、リチウム、コバルト、ニッケルの価格が異常に高価となります。揚水発電はより経済的ですが、大規模な発電には広大な場所と水が必要となり、中国にはそのための水も場所もありません。
原子力はベースロード電源として信頼性が高いと言えます。デメリットは、多額の初期投資、長い建設期間、主要部品や技術の平均15%を輸入に頼らなければならないこと、冷却に必要な大量の水が必要なことです。中国では水が非常に不足しているため、原子力発電所の多くは、海水で冷却できる沿岸部に立地しています。中国の内陸部では原子力発電は実現不可能です。
四川省の干ばつは、中国における水力発電の限界を如実に示す事例となりました。華北平原の一人当たりの給水量は約250立方メートルで、国連が定義する「深刻な水不足」の50%近くを下回っています。水力発電は中国の一次エネルギーの8%を占めていますが、中国の水資源不足のため、これ以上増やすことが困難なのが実情です。
化石燃料自動車を電気自動車に置き換えることは、都市の大気環境の改善に貢献しますが、自動車の動力源となる電気を作るためのエネルギー問題を解決するものではありません。また、電気自動車には、銅53.2Kg、リチウム8.9Kg、ニッケル39.9Kg、マグネシウム24.5Kg、黒鉛13.3Kgが必要とされています。水素自動車に移行する場合、水素自体はエネルギーではなく、エネルギーを運ぶ媒体であり、まず発生させる必要があることに注意が必要です。
中国は、2035年までに一次エネルギー消費量に占める、非化石エネルギー(水力、太陽光、風力、原子力)の割合を25%とすることを目標としていますが、石炭は当面、中国のエネルギーミックスおよびベースロード電源の中心としての位置付けを維持するでしょう。
中国は、グリーン・トランスフォーメーションの追求を決定し、グリーン・トランスフォーメーションに関連するインフラへの支出とカーボンクレジット(排出権)の活用に取り組んでいます。本稿で述べた通り、クリーンコール技術、エネルギー貯蔵、水力発電、原子力発電、バッテリーメタル、太陽光、風力において確かな技術と強い市場ポジションを持つ企業が利益を得る傾向にあります。ここで重要なのは、グリーントランスフォーメーションは、水力、太陽光、風力などの再生可能エネルギーや電気自動車だけではない、ということです。クリーンコール、銅、バッテリーメタル採掘、原子力発電、電力網、電気機器メーカーも、グリーントランスフォーメーションの恩恵を受ける可能性があります。また、中国は、海外からの石油・天然ガスの輸入量を削減する一方で、国内石油・天然ガス開発への投資を強化しようとしているため、グリーントランスフォーメーションの途上であっても石油・天然ガスは引き続き使用されるでしょう。化石エネルギー、原子力、再生可能エネルギーは共存共栄し、グリーントランスフォーメーションの道のりは長く、緩やかなものになるでしょう。