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FX戦略責任者(Saxo Group)
サマリー: 2023年の為替相場は厳しい展開が予想されるものの、ユーロと円に上昇余地を見込む
昨年の第4四半期は、政策金利を「より高く、より長く」維持する必要性があるとのFRBの主張を市場が受け流したことから、米ドルが大幅に下落し、米国債利回りの「逆イールド」が進行しました。一方、ECBがタカ派姿勢を強める中で、日銀が他の中央銀行が利上げ路線から脱却し始める直前になって不意打ちの政策修正に動いたことで、日本円は勢いよく反発しました。また、人民元も中国当局の急激な政策転換によって窮地から復活を遂げました。米ドルの弱気相場がこのまま継続しない場合、2023年の為替市場は値動きの荒い展開が予想されますが、ユーロと日本円はその他の主要通貨をアウトパフォームする可能性があります。
2023年に入り、市場は米国のディスインフレに向かうとの見方に確信を強めているようです。FRBが金利を「より高く、より長く」維持するとの主張を繰り返し、12月の会合で2023年のFF金利のドット中央値を5%を超える水準に設定したにもかかわらず、市場はFRBが年末までに金利見通しを引き下げることを歓迎する姿勢を見せています。年初の数週間に12月米製造業景況など弱い経済指標が続いたことや、最近になっていくつかのインフレ指標が予想以上に鈍化傾向にあることから、市場は2024年に利下げが加速するとの見通しを織り込んでいます。強気派のトレーダーは過去数ヶ月の年率換算インフレ率が、消費者物価指数(CPI)の中で最もトレンドから遅行する傾向にあり、かつ大きなウェートを占める家賃を差し引いた場合は実質的にFRBの目標範囲である2%以内に戻っているとの判断し、FRBが向こう数四半期に0.25%の利上げをあと2回程度行った後はハト派に傾く可能性を織り込んでいます。しかし、この四半期予想のテーマである「モデルの崩壊」が主張するように、各国が脆弱なグローバルサプライチェーンからの脱却、エネルギーの安定供給と脱炭素化、および新たな国家安全保障への対応に追われる世界では市場に潤沢な資金が流入し続けない限り、ディスインフレのシナリオはそう長くは続かないと予想します。
したがって、名目GDPの成長率の減速は浅いものにとどまり、中国の経済再開に伴うコモディティ需要の回復によって世界経済は再加速するでしょう。一方、市場が来年のFRBの政策転換のシナリオを見直す必要に迫られ、米国株式を中心にリスク資産が弱気相場入りすれば、米ドルは局所的に大きく上昇する可能性があります。ドル安が継続的に売られる場合に考えられる材料としては、FRB の流動性供給や世界的なリスクセンチメントの悪化が挙げられますが、どちらも米ドルを左右する重要な要因となります。過去 2 度の景気サイクルでは、世界的危機への対応として FRB が大量の流動性を供給した場合にのみ、大規模な米ドル売りが見られました。しかし、 FRB はまだ引き締めを行っています。それでは、なぜ米ドルは第 4 四半期から第 1 四半期にかけて下落したのでしょうか?その主な理由は、市場がFRBの利上げがピークに達するとの予想を織り込み始めたことによる利回りの低下ですが、財務省による預金取崩しによる流動性の拡大など、FRBの金融引締め効果を相殺するその他の要因があったことです。また、銀行は準備預金をシフトしており、流動性を確保する役割を果たすリバースレポの残高は拡大しています。後者の見通しを予測するのは困難ですが、米財務省の預金取崩しによる流動性は今後数ヶ月で急速に枯渇するでしょう。こうした中、米連邦議会が政府債務上限の問題を第1四半期中に解決し、財務省がデフォルトを回避した後は、これまでとは逆にドルの流動性に逆風が生じるでしょう。
一方、企業収益の減速や景気後退懸念を背景に、米ドルは現サイクルのピークには及ばないまでも、今年上半期中は安全な逃避先として局所的に大きく買われる場面もあり得るでしょう。第1四半期以降の長期的な見通しとしては、インフレが目先のリセッション懸念や足元の過度なインフレ鈍化期待を打ち消すペースで再び加速した場合は、FRBは利下げの有無にかかわらず米国債市場の秩序を保つために流動性を供給せざるを得なくなり、米ドルは最終的に大きく下落する可能性も考えられます。「ゼロ金利政策(ZIRP)無き量的緩和」は、既存の理論モデルを覆す新たなパラダイムをもたらすかもしれません。
G3通貨は切り上がる:日本円はメリットを享受。EURは堅調地合に 昨年末に米ドル/円は150円台まで高騰しましたが、その後日本円は米ドルに対して大幅に上昇しました。第1四半期からおそらく第2四半期初めにかけて、日本円にとって有利な展開が待ち受けていると予想されます。昨年12月には、日銀がイールドカーブコントロール(YCC)堅持するために準備金を大きく取り崩し、予想外の政策修正を行いました。黒田総裁は1月の追加政策修正を見送ったものの、日銀が過去10年間続いた大規模な金融緩和策からの出口に向かいつつあるとの印象を与えていることに変化はありません。円がメリットを享受できると考える理由としては、各国中銀が金融引締めのペースを減速しつつある中で、日銀が現行の緩和路線から完全に脱却しないまでも、金融政策の正常化に動き出すとの期待が高まっていることや、今年上半期に世界経済の先行きが予想以上に悪化すれば、これまで円高要因となってきた利回り格差の縮小が生じる可能性があるためです。円が目先で一段の上昇を遂げる格好の材料は、本四半期中に各国の利回りが横這いから低下して推移することや、景気先行き懸念の高まりによるリスクセンチメントの悪化です。ただし、エネルギー価格のさらなる高騰が第2四半期の後半かそれ以降よりも前に生じた場合には、日銀が黒田時代からの脱却を前倒しで推し進めない限り、ここ最近の日本円の上昇に歯止めが掛かる可能性もあります。
グラフ第4四半期の見通しから、G3通貨(USD、EUR、JPY)のチャートを再掲
当グループは昨年のレポートでドル/円が「危険な水準まで格差が拡大している」と指摘しました。その後、格差はさらに拡大したものの、最終的にはトレンドは緩やかながらも反転しつつあります。足元の日本円の戻りは控えめなものにとどまっています。2023年を通して、ユーロと円はいずれもドルとの格差を縮小すると予想されます。ユーロは円に比べて落ち着いた展開を予想しますが、米ドルやその他の通貨に対して比較的堅調に推移する可能性があると考えます。
ユーロ通貨に関しては、暖冬で天然ガスやエネルギー価格(過去の水準を上回っているものの)が値崩れを起こしており、昨年12月の会合で他国に遅れて引締めに動いたECBの超タカ派的なスタンスを後押しする要因となっています。ただし、欧州の財政状況は他のどの国よりも健全となる見通しであるほか、中国からの需要回復も下支えとなり、リセッション入りのリスクは極めて限定的となる可能性があります。エネルギー問題は長期化する見通しですが、少なくともこの冬は供給不足の深刻化を回避できそうです。債券利回りはプラス圏での推移を維持しており、欧州の実質利回りがマイナス圏に大きく低下して推移したとしても、引き続き国内投資家の注目を集めるものとみられます。ユーロ通貨は今年、市場の荒波を比較的上手く乗り超えられるかもしれません。その中でも特にポンドは、世界経済のソフトランディングと金融市場の底堅さによる恩恵を最も享受する通貨となるでしょう。もちろんそれが実現するかはどうかは定かではなく、また、英国が後述の「G10スモール」と同じバランスシートの問題に直面していることを考えると、ポンドのリスクも高まりつつあることに留意が必要です。しかし、昨秋のトラス首相の混乱が過ぎ去った後でも、ポンドはすでに大きくディスカウントされており、リスクを評価することが極めて困難であることも事実です。
G10の縮小:バランスシートの不況が最終的なコモディティの強さを相殺 「G10スモール」は小規模な開放経済圏の通貨であり、2008年~2009年の世界金融危機の最中にも、それらの国々は住宅価格の高騰による恩恵を享受したか、もしくは一時的にネガティブな影響を受ける程度にとどまりました。当時、G10スモール通貨のボラティリティは凄まじく上昇し、スウェーデン・クローナを除けば、一部の通貨(AUD、NZD、NOK)は過剰なキャリートレードや景気循環コモディティ相場(CAD、SEK)、あるいその両方によるメリットを受けることとなりました。これらの国々は、世界金融危機の後に利下げを余儀なくされましたが、それによって住宅ブームに火がつき、2020年~2021年に再びピークに達しました。現在、これらの国々の住宅市場は過去数十年間見られなかったような長期貸出金利の急上昇を受けて調整局面を迎えており、今後も一段の調整が入る見通しとなっています。不動産は流動性の低い資産であり、金利上昇の影響を吸収するまで長い時間を必要とします。しかし、オーストラリア、スウェーデン、カナダなど、変動金利の住宅ローンに大きな影響を受けやすい住宅市場では、建設部門の活動や民間企業のバランスシート、そして消費者心理に、段階的かつ広範な影響を及ぼすものとみられます。長期的なコモディティ市場の見通しは控えめに見ても極めてポジティブであり、オーストラリアやカナダなどの資源大国は次の成長サイクルで金利上昇の打撃から立ち直ることができると予想される一方、これらの国々の民間企業が抱える高いレバレッジは、その経済成長を大きく阻む要因となる可能性があります。また、スウェーデンは構造的なリスクを抱えており、政府の大規模政府が必要となるかもしれません。第4四半期末から第1四半期初めにかけてのスウェーデン・クローナの急落の背景には、こうした要因がすでに影響を及ぼしている可能性があります。
人民元・新興国通貨:当グループのマーケット・ストラテジストであるレドモンド・ウォンが今回の四半期予想で取り上げている中国当局の大規模な政策転換によって、人民元は勢いよく回復しており、市場はすでに多くの材料を織り込み済みであるとみられます。加えて、中国は輸出競争力を維持するためにバリューチェーンの再構築を進める中でも過度の人民元高を避けたいところでしょう。このため、第2四半期は人民元にあまり目立った動きが生じない可能性もあります。他の新興国通貨は、昨年末以降、市場が米ドルを強打し、金利が低下し、EMボンドが現地通貨建てで好調なパフォーマンスを示したことから、世界的な景気先行き懸念に下押しされ、年初はより厳しい展開も予想されます。しかし、第2四半期に向けてコモディティ相場の上昇によってメリットを享受する割安な通貨(BRL、IDR、ZAR)が投資機会をもたらす可能性が期待できます。