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Chief Investment Strategist
サマリー: 危機は機会をもたらし、エネルギー危機は欧州のエネルギー転換を加速させます。
自然生態系が複雑に変化し、文明の発展が進んだ結果、その脆弱性を浮き彫りにする形で、社会はさまざまな危機に直面しています。新たな危機はそれぞれ固有のものであり、それに対する私たちの対応が、社会を新たな軌道に乗せることになるでしょう。今回の危機もそうです。今回のエネルギー危機は、自立の概念を呼び覚まし、欧州のグリーントランスフォーメーションを加速させ、アフリカ再生の可能性をもたらすでしょう。そして最も重要なのは、世界が対立する二つのシステムに分裂し、脱グローバリズムが加速するということです。その中でのインドの位置付けは現時点では不明です。
世界は1970年代後半以来のエネルギーショックに見舞われており、一次エネルギーコストのGDP比は2022年中に6.5パーセンテージポイント上昇しました。消費者は消費の抑制を、工場も生産削減を余儀なくされており、EU首脳は冬に向けてエネルギー資源の配給計画を検討しています。そしてそれが、すでに問題を抱えるエネルギー部門にさらなる圧力を加えているのです。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界経済への一次エネルギー供給の81%は石炭、石油、天然ガスであり、その生産量の増加は非OECD諸国が担っています。
世界は依然として化石燃料に依存しており、2020年4月以降、これらのエネルギー資源の価格が350%上昇していますので、世界が危機的状況に陥るのは当然です。この価格上昇は現代経済が経験した中で最も激しく、さらに、1970年代とは異なり、エネルギー危機は輸送、暖房、電力に打撃を与えるという意味で経済全体に影響を与えます。最近可決された米国の税制・エネルギー・気候対策法案は、石油、ガス、石炭産業が、カーボンプライシングと回収スキームにより、2年前の予想よりも長期にわたって持続可能となるよう、法的な道筋をつけるものです。バークシャー・ハサウェイがオクシデンタル・ペトロリアムへの出資比率を高め、発行済み株式の過半数を取得する承認を得たのも、こうした背景があるものと思われます。当社の第1四半期の見通しでは、世界のエネルギーセクターの期待リターンが最も高く、年率10%となると述べました。エネルギー企業の株価上昇により、期待リターンは現在、年率9%に低下していますが、それでも石油・ガス業界は有力な投資対象と言えます。
エネルギー危機は、世界経済がショックと価格上昇に適応するにつれて緩やかに改善すると予想されますが、その適応には何年もかかるでしょう。世界の経済大国が直面している課題は、化石燃料の供給に関する弾力性が低く、グリーントランスフォーメーションによって電化が加速され、化石燃料以外のエネルギー資源に大きな圧力がかかることです。グリーントランスフォーメーションの加速は理想的に見えますが、エネルギーコストの爆発的な上昇を回避するためには、石油・ガス業界が引き続き役割を果たす必要があるのです。エネルギーコストを引き下げるためには投資が必要ですが、残念ながら現実には設備投資が十分なペースで進んでおらず、エネルギー価格の調整と高騰を長引かせています。
中国は長年にわたって自立を目指してきましたが、今は、欧州もエネルギー政策と防衛政策の自立に向けた取り組みを進めています。欧州はグリーントランスフォーメーションを世界に先駆けて進めており、世界で最もエネルギー効率の高い経済を実現しています。しかし、エネルギー危機と、ロシアの石油・ガスへの依存からの自立の動きは、欧州大陸諸国にとって依然として痛みを伴うものです。しかし危機は機会をもたらします。エネルギー危機は欧州のエネルギー転換を加速させ、将来的に欧州大陸がエネルギー技術において世界をリードするようになり、その技術の輸出において大きな成功を収める可能性があるのです。米国は数十年にわたるデジタル化の過程で世界を席巻しましたが、物質的な世界の復活により、米国に比べ、欧州が相対的に優位に立つことが予想されます。今後10年間で、欧州のエネルギーセクターおよび防衛セクターは劇的に変化し、必要に迫られて競争力を大幅に高めることになるでしょう。しかし、短期的には、EUは価格に上限を設けることにより市場の力を制限し、消費者を価格上昇から守る一方で、エネルギーコストを吸収する政府の財政リスクを増大させ、移行を長引かせることになります。
グリーントランスフォーメーションはエネルギーミックスを生み出し、大量の余剰電力を発生させ、それを貯蔵する必要があるため、エネルギー貯蔵に依存します。大きな可能性を秘めた技術のひとつに、水の電気分解によって余剰電力を水素に変換するPower-to-Xがあります。その他の技術としては、バッテリー、燃料電池、電気自動車を電力系統(グリッド)につなぎ、グリッドの需給安定化を図る利用するビークル・ツー・グリッドがあります。下表は、当社のエネルギー貯蔵バスケットであり、これらの技術に携わる企業の一覧ですが、投資の推奨を意味するものではありません。
世界的なエネルギー危機が見出しを飾り、世界経済がこれから迎える厳しい冬と最も直接に結び付く大きな要因となっています。しかし、世界経済にとっての真の冬は、エネルギー危機ではなく、脱グローバリズムの流れが強まっていることです。米国政府は最近、エヌビディアが最先端のAIチップの対中販売を、軍事利用の懸念から制限しました。この決定は、米国における半導体の急速な増産を目的とした、第二次世界大戦後最大の米国の産業政策であるCHIPS法に基づいたものです。米国が先を急ぐ一方で、欧州でも同様に半導体の生産を急ぐ動きが見られます。
中国はその後、宇宙開発計画やパンデミックの際のバイオテクノロジーで過去に2度使用した「全国民システム」を発動しました。今回は、より多くの資源を投入して半導体の自給自足に踏み切りました。一方、米国は半導体製造装置の輸出を抑制する見通しであり、中国は半導体の生産チェーン全体を再構築する必要に迫られることになります。
半導体は多くの業種の中の一業種にすぎませんが、その兆候が現れています。トランプ大統領時代からの貿易戦争を引き継いだ動きが、ウクライナ戦争により、世界が二つの価値観に分裂しつつあることがより顕著になってきました。長期的には、エネルギー政策や防衛政策、半導体などの重要技術を総動員し、グローバルサプライチェーンを再構築することになるでしょう。グローバリゼーションは過去30年間の低インフレを支えてきた最大の要因であり、新興国市場とその株式市場が大きな役割を果たしました。グローバリゼーションが逆行すると、貿易黒字国に混乱が生じ、インフレに上昇圧力がかかり、基軸通貨の米ドル、また米国が脅かされることになります。
脱グローバリズムと欧州のエネルギー自立に関して、過小評価されているのが、それらがアフリカにとってどのような意味を持つかという点です。欧州が資源調達の面でロシアから自立するということは、アフリカがそのギャップを埋めなければならないということです。そのため、欧州はアフリカ大陸の資源をめぐって中国と長期的に直接争うことになり、ここに次の地政学的な緊張が生まれるのです。そしてその中間に存在するのがインドです。世界一の人口を誇る同国は、脱グローバリズムの中で真に中立的な立場をとれるのでしょうか、それとも厳しい選択を迫られることになるのでしょうか。
ここまでで述べた、エネルギー危機、グリーントランスフォーメーション、都市化の進展、脱グローバリゼーションなどを踏まえ、当社は、商品、物流、再生可能エネルギー、防衛、インド、エネルギー貯蔵、サイバーセキュリティなどの株式テーマが、引き続き相対的に有力な投資対象と考えています。
一次エネルギーコストの推定6.5パーセンテージポイントの上昇は経済成長への増税のようなものであり、消費に回せる可処分所得の減少や、企業の投資原資である営業利益の減少という形で、民間部門から余剰が吸い上げられます。一般消費財関連銘柄はこの圧力に反応し、世界の株式市場に対してアンダーパフォームしています。消費財セクターの中で最も脆弱なのは、フランスとドイツの高級車メーカーが大きな割合を占める、欧州の一般消費財セクターです。そうした欧州の一般消費財主要10銘柄には以下が含まれます。
消費の落ち込みは消費財の生産量の減少を意味し、ドイツ、中国、日本、韓国といった貿易黒字国が、消費の大幅な減速から最も影響を受けやすいと言えます。この4か国はいずれも深刻な構造的課題を抱えており、それぞれの株式市場は今年、そうした課題を反映した動きとなっています。
当社は、世界の株式市場は、株価が底打ちするまでに最大33%下落する可能性があると考えています。最後の下げは、金利上昇の長期化、企業が収益に深刻な打撃を与えることなく投入コスト上昇を価格転嫁できなくなることによる利益率の低下、そしてエネルギー危機による実体経済の後退の複合的な影響によってもたらされると思われます。今後6か月間は多くの意味で暗く長い冬のように感じられると思いますが、安心してください。春は必ず訪れ、世界の株式市場に明るい光が差す日は再び訪れます。