ESGとは、「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」の頭文字を合わせたものです。この環境・社会・ガバナンス(ESG)投資は、投資ポートフォリオを構築する最もエシカルな方法の一つだと考えられます。ミレニアル世代やZ世代の投資家は、自分の価値観に合った金融投資を強く望んでいると見られ、ブローカーはいわゆる「ESG基準」に沿った金融商品を提供しようと懸命になっています。
このような基準は、エシカルな投資家が従うことを目指すスタンダードとなっています。
ESG投資の歴史
ESG投資には、皆さんが思っている以上に歴史があります。1970年にミルトン・フリードマンによって、上場企業や上場株式に関する問題が提起されました。フリードマンは、この時代の多くの上場企業の行動を特徴づける「株主価値理論(Shareholder Value Theory)」という言葉を作り出しました。
上場企業は非常に視野が狭くなっているとフリードマンは主張しました。つまり、企業が株主のために財務リターンを最適化するという一本道の目標しか見ていないということです。このような株主価値理論のもとで、多くの大企業が事業運営に対して厳格な手法をとり、環境上・社会上の責任よりも手っ取り早く利益をあげることを追求するという状況が生じているというのがフリードマンの考えでした。
フリードマンの理論より前の10年間には、社会的責任投資の新時代が到来するという予兆がありました。ベトナム戦争の後、大学基金が防衛関連株への投資を中止することへの懸念が高まりました。また20年後には、南アフリカのアパルトヘイト体制に加担しているとみなされた企業は、世界の投資家から見放されました。これだけで南アフリカ経済は不安定になり、長らく待たれていたアパルトヘイト政権の崩壊が実現に至ったのです。
最近では、ESGスクリーニングが現代の財務分析に不可欠な要素となり、投資家は短期的な株主価値が及ぼす影響の大きさを認識しています。
ESGとは何か?
金融取引・投資の概念を初めて学ぶ方は、ESG基準をよく理解しておくことをお勧めします。これは、環境、社会、ガバナンスの一連の要素に基づいて、株式のサステナビリティを定義するために用いられる枠組みです
環境(Environment)
ESG基準の「環境(Environment)」要素には、多くの要因が含まれます。最も代表的なものは、気候変動とエネルギーの効率性に関する戦略です。気候変動に対する注目は、世界中でますます高まっています。パリ協定や、気候変動に関する国際連合枠組条約の中で、野心的な目標が設定されました。政府が新たな規制に合意すれば、大手企業のサプライチェーンおよび生産に連鎖的な影響を与えるはずです。
日常業務に天然資源を取り入れるだけでなく、リサイクルや廃棄物管理に取り組む新たな戦略を研究・開発する企業が、ESGを重視する投資家の支持を得るでしょう。軽工業のような伝統的なセクターでも、製造プロセスを徹底的に見直して有害物質を制限したり、サプライチェーンの二酸化炭素の排出量を改善したりすることで、高いESGスコアを達成することができます。
社会(Social)
ESG基準は、二酸化炭素排出量の削減、大気汚染、廃棄物管理などの環境問題に関する基準だけにとどまりません。社会的な要因にも注意深く着目して、企業が従業員をどのように扱っているか、また顧客の不満にどう対処しているかを判断します。企業の審査・評価は、LGBTの平等と人種的多様性の必要性を考慮して、プログラム・採用活動におけるインクルーシビティ(多様性を尊重し受け入れる姿勢)に基づいて行われます
ESGの社会的要因は、地域社会における企業の立場も考慮します。ESGスコアは、各社の事業や業界の範囲内にとどまらず、ソーシャルグッド(社会に良い影響を与えるような活動、サービス、製品)を提言する企業の取り組み姿勢を評価するものです。
ガバナンス(Governance)
ガバナンスの要素も同じくらい重視されており、多様性のある取締役会を持つ企業、および注目を集めるような訴訟を回避する企業に大きな重点が置かれています。企業の取締役会の多様性のほか、取締役会の行動も重要です。企業の取締役会と上級管理職は、前向きな変革を促すためにどのように取り組んでいるでしょうか?
企業は、社会全体の利益のために、熱心にロビー活動をしているでしょうか?業界の規制当局と信頼できる強固な関係を築いているでしょうか?株主とオープンで透明な関係を維持してきた実績があるでしょうか?このような質問に対する回答が、企業のESGスコアを決定する要因になります。
時間の経過とともに、ESGの枠組みを遵守することを企業に求める圧力があらゆる方面から強まっています。社会とともに歩む姿勢を示す企業の株式は、時の試練に耐え、投資家に長期的な価値をもたらす可能性が高いと見られます。
ESG投資の種類
ポートフォリオに追加できるエシカル投資には、以下の4つの種類があります。
- 上場されているESG株
社会的責任投資を始める最も直接的な方法は、ESG責任を重視している企業に投資することです。しかし、個別のESG株への投資は、定期的に株式を細かく監視する必要があるため、特有の難しさがあります。これには、再生可能エネルギーに多額の投資をしている企業や、人間の消費による二酸化炭素排出の制限やサプライチェーンの効率性に関する厳しい統制を目指す環境志向の食品メーカーなどが含まれます。大企業の取締役会における性別の多様性といった社会的要因も影響することがあります。ガバナンスの面では、エシカルなビジネス慣行を定め、実施している企業も好意的に受け止められます。ESGのスコアや格付けが高い銘柄に注目してください。このようなスコアと格付けの意味、およびその算出方法については、後ほど説明します。
- ETFとインデックス・ファンド
ESG株を追跡するETF(上場投資信託)や、ESG株のパフォーマンスを監視することに特化したインデックスを検討することも選択肢になります。エシカルな投資家を対象とする代表的な指数には、S&P 500 ESG Index、Morningstar Sustainability Indexes、Dow Jones STOXX Sustainability Indexなどがあります。また、ファンド販売企業も様々なESG ETFを提供しています。主な情報資料を確認し、投資の概要とそれに伴うリスクを理解することが大切です。
- ESGに焦点を当てた投資ファンド
Bloombergによれば、2020年にはESGに焦点を当てた140以上の投資ファンドが設定されたということです。いずれも、ESG基準に基づいて高いスコアを得ているエシカルな企業に焦点を当てています。これらの140以上のESG投資ファンドだけでも12兆ドル以上の資産を保有していると言われ、サステナブル投資の潜在価値と将来性をはっきりと示しています。
- グリーンボンド
グリーンボンドとは、気候や環境に配慮したプロジェクトに投資することができるオルタナティブ債券商品です。税金の減免や免除などの税制上の優遇措置が付いていることもよくあります。グリーンボンドに代わるものとして、海洋生物と海洋に関するプロジェクトのみに焦点を当てたブルーボンドがあります。
ESG基準に基づいてESG投資を評価する方法
企業のESGスコアは、多数の環境、社会、ガバナンスの要因に基づき、企業の取り組みを数値で評価したものです。ただし、このようなESGスコアは主に公表された情報に基づくため、企業が抱えている環境問題が公表されておらず、世間に認知されていない場合は、その問題はESGスコアに反映されないことに注意が必要です。
現在、ESG要因に基づいて企業を格付けする標準化された手法はありません。複数の格付け機関が企業のESGの状況を適時に評価しています。ESG格付け機関の大手は、以下の4社です。
- MSCI
MSCIのESG格付けは、ESGリスクの大きさに基づいて、企業をAAA格からCCC格までのスコアで評価します。AAA格またはAA格の企業は、業界のパイオニアとして、目の前にあるエシカルな機会を最大限に活用していると考えられます。B格からCCC格までの企業は、ESGリスクが大きいとみなされます。この格付けは、二酸化炭素排出量、プライバシー、財務の透明性、データのセキュリティなど、37の個別要因から算出されます。
- Morningstar
Morningstar Sustainability Ratingは、最も信頼できるESGスコアの指標の一つです。Saxo Bankでは、ポートフォリオレベルでESG要因によるリスクを測定するために、Morningstarの格付けに大きく依存しています。MorningstarはSustainalyticsと提携して、資産の重大なESGリスクレベルを正確に提示します。スコアの尺度は「globe」で表され、ESGリスクが最も大きいファンドには「1 globe」の格付けが与えられます。一方、ESGリスクが最も低いファンドには「5 globe」の格付けが与えられます。
- Sustainalytics
Sustainalyticsは、業界に関連するESGリスクに企業がどの程度さらされているかに重点を置いています。こうしたリスクに対し、企業がどのように対処しているかを評価します。同社のESGリスク格付けは、「軽微(negligible)」から「深刻(severe)」までの5段階に分かれ、その間に「低(low)」、「中(medium)」、「高(high)」の段階があります。EGSリスクが「軽微」である企業は、最もエシカルかつサステナブルな事業を行っていると考えられます。
- Bloomberg
Bloombergは、100ヶ国以上、11,800銘柄以上のESG株の指標と開示スコアから成る独自のデータセットを持ちます。Bloombergの格付けは、大気環境、安全衛生、多様性、株主の権利など、一連のサステナビリティ分野をカバーしています。
ESG株に投資するメリット
ESG株を投資ポートフォリオに加えることのエシカルな利点については既に述べましたが、ESG株やESG指数はその他の面でも投資リターンに影響を及ぼす可能性があります。
- 価値観に合った投資が可能
ESG投資は、投資家が良い変革を促すための方法であり、企業がどのように事業を行い、株主だけでなく全ての利害関係者にどう対応するかに影響を及ぼします。投資家は、個人としても集団としても、企業がよりサステナブルなやり方をとるように仕向ける力を持っています。
- 従来の投資に引けを取らないパフォーマンス
2020年にBlackrockが行った調査によると、2012年以降、ESG指数は非ESGのベンチマークと同等もしくはそれ以上のパフォーマンスをあげてきました。Morgan Stanley Institute for Sustainable Investingによれば、2019年には、ESG株やESGファンドへの投資のリターンは、2004年~2018年の従来型ファンドと同程度だったということです。さらに、Arabesqueによると、S&P 500社のうちESGスコアが上位5分位の企業のパフォーマンスは、2014~2018年には、下位5分位の企業と比べて25%以上上回ったことが示されました。
ESG取引のリスク
ESG株への関心が高まるのに伴い、ESGを重視する投資家にとって様々な問題が生じています。非常に急速に進む世界において、長期投資ポートフォリオにESG株をうまく組み入れるために、投資家は以下のような多くの関門を切り抜けなければなりません。
- グリーンウォッシュ:根拠のない主張または誤解を招くような主張をする企業がある
ESG株になじみのない投資家にとって最大の問題の一つは、事業に関して根拠のない、あるいは誤解を招くような株式の情報開示が行われる傾向があることです。マーケティング資料を使って企業のESG資格が誇張され、現実とは少し違うということがよくあります。企業は事業のやり方を劇的に変えることなく、いとも簡単に「グリーン」だと名乗ることができるという主張もあります。
- ESG格付けに違いがある
ESGの情報開示には、標準化が明らかに欠如しています。それぞれのESG格付け機関に、ESG格付けを決定するための独自の尺度と方法があり、その結果、格付け企業によって違いが生じています。MITの最近の研究によると、ESG格付け間の相関は従来の信用格付けよりもやや低いことが分かりました。ESG格付けでは相関が平均0.61であるのに対して、信用格付けでは平均0.99と、かなりの差があります。
- 標準化された測定基準がないため、サステナブルなESG株を特定しにくい
ESG基準はありますが、真のESG株を定義する基準はあいまいなままです。場合によっては、二酸化炭素排出量の削減を積極的に目指す企業と、気候変動から自社の未来を守ろうとするだけの企業との違いを定義できないこともあります。とはいえ、近いうちに、より明確な基準が登場するでしょう。EUではサステナブルファイナンス開示規則(Sustainable Finance Disclosure Regulation)があり、資産運用会社は、投資先企業の社会的または環境的に「有害な」影響を公表することが義務付けられています。同様にSECは、企業が遵守すべき法的枠組みを明確化するためのタスクフォースを設置しています。
株式やファンドのESG格付けをチェックすれば、ESGの状況がしっかりした分散ポートフォリオを構築することは思っているよりも簡単です。ESGに配慮した株式、投資信託、ETF、インデックスファンドはこれまで以上に取引しやすくなっているため、ESGに重点を置いたポートフォリオを構築することができます。