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シニア債券ストラテジスト
サマリー: 2011年の米国債務上限問題の際には、米国の長期国債は上昇しました。今回も同様のことが起きる可能性もありますが、2011年に見られた米国の長期国債の上昇 の大半は、あくまでもオバマ大統領とベイナー下院議長が連邦債務上限引き上げに合意した後に起こったという点には留意が必要です。また、当時、米国債の上昇を促した様々な要因は、今回の債務上限問題には該当しない可能性もあります。今のところ米国債の利回りはレンジ内で推移しており、T-bills(米短期国債)は引き続き投資家にとって最も安全な金融資産のひとつとなっています。こうした中、ポートフォリオのデュレーション(金利リスク)を最小限に抑え、イールドカーブの短期ゾーンを活用したトレードは有効な選択肢となります。
本稿では、先週発行した米国の債務上限問題と米短期国債に関するレポートを少し掘り下げたいと思います。
米国政府の債務上限問題は過去に何度も繰り返されてきました。2011年の夏に遡ると、米国のデフォルトまであと数日に迫っており、オバマ大統領とベイナー下院議長の交渉は行き詰まりを迎えていました。
米政府がデフォルトに陥る「Xデー」の2日前に、議会は財政赤字の削減と債務上限の引き上げることに合意し、デフォルトを回避しました。この合意に基づき債務上限を1.5兆ドルに引き上げる法案が可決され、2011年8月3日に米国が抱える債務残高は新たな上限の約60%増加し、1日当たりの増加額としては過去最大となりました。その結果、米国はギリシャ、イタリア、レバノン、アイスランドとともに世界史上最も多額の債務を抱える国のひとつとなり、同国の公的債務残高の対GDP比は100%を超える水準に上昇しました。これを受けて市場は軒並み下落し、8月5日には格付け機関のスタンダード&プアーズ(S&P)は米国債の長期信用格付けを引き下げました。
ところが大方の予想に反して米国の長期国債が大きく買われ、特にリスク回避の資金が集中した米10年国債の利回りは、わずか10日間で70bps以上低下しました。
したがって、債務上限問題が継続する中において、米国の長期国債を保有することは投資家にとって魅力的な選択肢ともなり得るでしょう。しかし、その場合は必ず以下の点を考慮する必要があります:
上のチャートを見ると、米10年国債の利回りは2011年7月初旬から8月10日までの期間で、100bps余り低下しています。しかし、その大半(70bps)が7月31日に米議会が債務上限の引き上げに合意した後に生じていることが見て取れます。一体、それはなぜでしょうか?その理由としては、(1)市場で米国は十分な返済能力を有しているとの確信が高まったこと、(2)株式市場の大幅な下落は、米国の債務残高の1日当たりの増加額が過去最大に達したことと、歳出削減に合意したことが発端であったこと、(3)S&Pが米国の長期信用格付けを引き下げたことで株式や為替市場でリスク回避姿勢が強まり、結果として安全資産である米長期国債の魅力が高まったことが挙げられます。こうして、債務上限問題の渦中で金融市場が下落する中でも、2011年7月時点では米10年国債利回りは35bpsの低下するにとどまっています。しかし米国の長期国債は、その後に起こった出来事によって最も顕著な上昇を遂げることになります。
長期の米国債は、短期国債に比べてはるかに高い金利リスクを伴います。このため、仮に金利が上昇した場合、長期の米国債を保有する投資家は、年限の短い国債を保有するよりもはるかに多くのリターンを失うことになります。
現在、米10年国債の利回りは今年3月以降の取引レンジ下限で推移しています。これは、インフレが持続的に高止まりし、経済が底堅さを維持するならば、米10年国債の利回りは低下するよりも上昇する可能性の方が高いということを意味します。足元で米10年国債の利回りが3.47%であることを鑑みると、利回りが短期的な下降トレンドラインを上抜けすれば、次は3.7%付近のレンジ上限を試す可能性があります。この場合、投資家が被る損失は2%程度となります。
一方、経済見通しの悪化に伴い利回りが3.28%の支持線を割り込んだ場合、次の支持線は3%に切り下がり、ポートフォリオに4%程度のリターンをもたらす可能性があります。
すべての投資家は米国の長期国債とT-billsのどちらを選択すべきか、判断を迷うでしょう。それは個人的な選択として必要なことですが、その際は、必ず以下の点を考慮する必要があります;