サマリー: 市場は2023年前半のFRBによる利下げを織り込んでいます。インフレ率が十分に低下せず、FRBが方針を転換して利下げに踏み切ることができない場合はどうなるでしょうか。利下げ期待が低下すれば、SOFR3か月金利先物は下落する可能性があります。
マネー市場は2022年12月の金利ピーク、2023年の利下げを織り込んでいる
6月のFRB会合以降のトレンドを引き継ぎ、金融市場はその後、年内の利上げはこれまでより小幅となり2023年初頭には利下げが行われる可能性が高いと見積もっています。現在、市場はFRBが9月に50bp、11月に25bpの利上げを実施した後、今回の引き締めサイクルを終了する前に12月に利上げを行うかは不確実というシナリオを描いています。期先物ユーロドル先物(米ドルLIBOR 3か月金利に連動)とSOFR(担保付翌日物調達金利)3か月先物(担保付翌日物金利の3か月複利に連動)は、3か月金利がそれぞれ3.65%と3.26%で12月にピークに達すると示唆しています。
SOFRは、米国債を担保とするレポ金利の加重平均であるためHIBOR(香港銀行間取引金利)より低い水準となっています。HIBORは銀行間の無担保貸付金利から算出されます。 歴史的に見ると、ユーロドル先物は短期金利の取引所上場先物の中で最も流動性が高く、3か月金利の数年先までの将来見通しの目安になってきました。 しかし、LIBORが使用されなくなるのに伴い、ユーロドル先物は取引を停止し、すべてのオープンポジションは2023年6月末以降、26.161bpの固定調整でSOFR3か月先物に移行する予定となっています。従って、当社ではその移行期間中、ユーロドル先物とSOFR3ヶ月先物の両方に注目します。
下の図1では、ユーロドル先物とSOFR 3か月先物の価格は、2023年前半に米ドル金利が25bp強低下することを示唆しています。2023年9月までには50bp程度低下する予想です。2023年通年では、3か月金利は70bp程度低下し、2.90%(ユーロドル先物からの推定値)から2.65%(SOFR 3カ月先物からの推定値)になると予想されています。
FRBが利下げに踏み切るための必要要件
現在のPCE(個人消費支出)上昇率は6.8%、コアPCEインフレ率は4.8%となっています。来年初めに景気後退が始まり、インフレ率が3%程度まで低下したとしても、大多数の国民にインフレによる痛みを与えるという政治的意味を考えると、FRBは一時停止することはあっても、軌道修正し利下げを行うことは困難です。 アトランタ連銀の粘着価格消費者物価指数は、家賃、教育、医療サービスなど価格変動の比較的小さい品目のバスケットに焦点を当てたものですが、前年比5.6%に達しています(図2)。 FRBはもはや、長期的にインフレ期待が固定化するという状態を容認することはできません。 金融市場がFRBの引き締めサイクルがそれほどタカ派的でないとの予想を織り込んだ後、市場が示唆する長期インフレ期待指標である米国債5年先スタート5年物フォワードブレークイーブンレートは7月21日から一週間余りで2.02%から2.40%に急上昇しています(図表3)。 FRBがユーロドル先物やSOFR3か月先物が現在織り込んでいるように、早ければ2023年前半に利下げに転じるためには、1年以内にインフレ率が2.5%前後、少なくとも3%を切るところまで劇的に低下する必要があります。
暴走するインフレ列車が3%以下に減速しない場合はどうなるか
もしインフレ列車が減速し、年率3%以下に速度を落とさなければ、市場はFRBが2023年も走り続ける、つまり利上げを続ける可能性があるということを過小評価しているかもしれません。 ユーロドル先物とSOFR3か月先物は、投資家がミスプライスを捉える機会を提供している可能性があります。 ユーロドル先物は、取引所に上場している金融商品の中で最も流動性の高い商品ですが、各国政府が銀行によるLIBORの使用を認めないことを決定したため、2023年の6月末には取引が終了することになります。SOFR3か月金利先物の流動性は急速に高まっており、以下ではSOFR3か月金利先物を中心に考察します。
SOFR3か月金利先物は、ユーロドル先物と同様、100から参照四半期の担保付翌日物調達金利(年率複利)を引いた値で取引されています。 2023年9月のSOFR3か月金利先物(SR3U3)は97.20で取引されており、3か月金利は年率2.8%(100 - 97.2 = 2.8)を意味します。 2023年秋の利下げは時期尚早、あるいは可能性が低いと考える市場参加者は、SR3U3を97.20(=2.8%)で売り、96.75(=3.25%)かそれ以下(3.25%以上)を狙っている可能性があります。 SOFR3か月物の価格は、将来の金利動向に対する市場の期待値の変化を反映しています。