金相場回復に必要な要件の調整

金相場回復に必要な要件の調整

商品
オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  金と銀の最近のジェットコースターのような動きは、利回りとドル、そしてFRBがいつタカ派的スタンスのピークに達するのかに対する関心が高まっていることを浮き彫りにしています。先週のショートスクイーズ(空売りの買戻し)は、潮目が変わった時に価格が上昇する可能性を示唆するものでしたが、持続的な回復を支えるための全ての要素が揃っているとは思えません。本稿では、最新の動向に焦点を当て、金と貴金属全般について当社が長期的に強気の見通しを維持する理由を述べます。


商品市場は引き続き、トレーダーや投資家が株式、債券、為替の動向を見ながら景気減速のリスクと潜在的な減速度合いを予測しようとする金融市場全体の値動きから、方向感を掴もうとしています。過去2週間、貴金属相場はジェットコースターのような激しい値動きを見せました。

金と銀は、中央銀行が積極的な利上げによってインフレを抑制しようとするタカ派的な行動に反応し、数か月にわたり下方圧力にさらされていましたが、FRBがタカ派的行動のピークに近づきつつあるという早まった期待感から、ともに買われました。これは、月初に発表された、いくつかの米国経済指標が弱いものだったためでした。その結果、金曜日(10月7日)に、予想以上に強い米雇用
統計が発表されるまでは、ドルや米国債利回りが急激に低下し、貴金属や工業用金属を含むほとんどの金属が力強く反発しました。

このような展開を受けて、銀は先月、2年ぶりにつけた1オンス17.60ドルの安値が既に支持線となり回復し始めた後、急騰し、金もそれに続きました。しかし、銀が4か月ぶりの高値を付けたのに対して、金は3週間ぶりの高値の1730ドル台にとどまり、先週金曜日に反転して下落しました。

コミットメント・オブ・トレーダー・レポートの最近の変化を見ると、当然のことながら、最初の上昇はマネーマネジャーが最近構築したショートポジションを削減することによって引き起こされたと結論付けることができます。その投資家たちが、10月4日までの一週間に保有していたネットポジションは、過去4年間で最大のショートポジションから、わずかなネットロングへと急激に変化したのです。そのような状況下で、小規模なネットロングポジションを保有していたトレーダーにとっては、銀の価格上昇による変化はそれほど大きくありませんでした。

一方、ETFの保有残高は着実に減少を続け、年初来で約10%減少しています。これも、先週の上昇がショートカバーによるものであり、回復し始めたという見方によるものではありませんでした。
このような値動きから言えることは、金も銀も最終的にはドルと利回りの好転から恩恵を受けるということです。そのため、FRBが示しているタカ派的スタンスからの転換を裏付けるような弱い兆候がないか、インフレと景気を示すデータに引き続き注目が集まっているのです。ブレイナードFRB副議長は月曜日(10月10日)、世界経済と金融環境の不透明性が高い中、これまでに実施した利上げはまだ経済に効果を及ぼす過程にあると説明しました。

今後の見通しとして、当社は金に対する長期的な強気の見方を変更する理由はないと考えています。政策の失敗により、米国の経済成長率、ドル、米国債利回りが低下するリスクも、金のサポート要因になると考えられます。さらに、長期的なインフレ水準が、現在市場に織り込まれているよりもいくぶん高い水準になる可能性も考えられます。長期的なインフレ率を市場の期待値まで下げることができなければ、(上昇する)ブレークイーブン利回りと(低下する)実質利回りの間の大きな、そして金価格を支える調整の引き金となる可能性があります。

 ここ数か月、過去40年間で最も高水準のインフレに見舞われたにもかかわらず、金は下落し、分散投資対象としての金の価値がますます疑問視されるようになっています。しかし、金融市場の一部として組み込まれた金は、他の市場、特に利回りとドルとの動きと相関により影響を受け続けるということに改めて留意することが重要です。ブルームバーグ・ドル・インデックスが15%上昇し、米国の10年物実質利回りが2.7%上昇した年に、金は9%下落しており、後者は事実上、金の価格がこの時点で300ドル下落していることを意味します。

それが、当社の意見と異なった理由は、政策の誤り、予想を上回る将来のインフレ、地政学的な事象に対する「保険」が引き続き求められているためと考えられます。債券や株式など、他の投資商品のパフォーマンスがいかに低かったかを考えれば、すべてのリスクに「保険」をかける必要がありました。

3月以降下降トレンドにある金は、1617ドルから1725ドルの広いレンジに落ち着き、2018年から2022年の上昇の50%リトレースメントが支持線となっています。当社は金に対して長期的に強気の見通しを維持していますが、下方に突破すると、ダブルトップが発生して価格がさらに下落する懸念が生じかねません。より強気なセンチメントに変化するためには、まず下降トレンドを突破し、その後1735ドルを超える必要があります。
Source: Saxo Group

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