商品
オーレ・ハンセン
コモディティ戦略責任者(Saxo Group)
サマリー: 今週(9月2日までの週)は、商品セクターが急激な下落に転じました。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、暴走するインフレに対抗すべく、米国は利上げを継続し、長期的に高水準を維持することに疑いの余地はないことを市場に示したため、経済成長に対する懸念が再び高まり、市場がそれにネガティブな反応を示したことによるものです。 さらに、中国での新型コロナウイルス感染再拡大に伴い、大都市でのロックダウンが実施されたことも、同国経済見通しへの懸念を高める要因となりました。工業用金属を中心に下落がみられた一方、穀物は影響が最小にとどまりました。
今週(9月2日までの週)は、商品セクターが急激な下落に転じました。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、暴走するインフレに対抗すべく、米国と他の主要中央銀行は利上げを継続し、長期的に高水準を維持することに疑いの余地はないことを市場に示したため、経済成長に対する懸念が再び高まり、市場がそれにネガティブな反応を示したことによるものです。この展開により、株式市場は大幅に下落し、ドルは数年ぶりの高値となり、債券利回りは6月の高値に向かって再び上昇しました。また中国では、人口2,100万人の大都市である成都で新たなロックダウンが実施され、新型コロナウイルスとの戦いが長引いている同国における、習主席のゼロコロナ政策に関連した成長懸念が再燃しました。
米国と中国での展開により、商品市場の焦点は再び需要に戻りました。トウモロコシやコーヒー、軽油、ガスなどの主要商品、および採掘や生産の面での課題による一部の工業用金属の供給不足の見通しよりも、経済成長の鈍化に伴って需要が縮小する可能性に注目されるようになったためです。工業用金属や綿花など、成長および中国に依存する商品は大幅に下落しました。一方、ガスプロムが土曜日(9月3日)の朝からノルドストリーム1パイプライン経由のガス供給を再開するとの見通しが、欧州のガス価格を押し下げる要因となりました。これに伴い、ガスから他の燃料への切り替え需要が減速するとの想定から、軽油が下落しました。
金、銀、銅
金と、特に銀は急落しました。米連邦準備制度理事会の数名のメンバーからのタカ派的な発言と、中国に関する懸念が、主要通貨バスケットに対して今年11%も急上昇した米ドルへの影響を通じて、投資用貴金属に対して継続的な逆風となりました。米国10年債実質利回りは過去数十年で最大の上昇を見せ、2022年に1.9%上昇しました。
投資用貴金属に対する需要は、ドルと国債利回りが安定化するまで、厳しい状況が続くでしょう。景気悪化の見通しを再考する必要が生じるか、インフレ率が現在市場で予想されているペースで低下しない限り、ドルと国債利回りが安定することはないかもしれません。先週金曜日のジャクソンホール会議でのパウエル議長のタカ派的な講演以来、先行きのインフレ期待はさらに低下し、5年先までのインフレスワップは全て3%を下回るインフレ率を示唆しています。
銀は、金やドルだけでなく、最近では(より重要な)工業用金属、特に銅の方向性に従っているため、最も大幅な下落を示しています。銀と銅は年初来24%下落し、銀は再び以前の16.50ドルから18.5ドルのボックス圏内で推移しています。その結果、金銀比価は2年ぶりの高水準となる95(金1オンスに対する銀のオンス数)にまで上昇しました。これは、2020年から2021年にかけての127から62への下落の半値以上の戻しとなっています。銅の供給に関しては、世界最大の生産国であるチリでの生産量が2か月連続で減少し、鉱業メーカーは鉱石品位の低下 に見舞われているため、同量を生産するためにより多くの採石を行う必要があり、銅価格が1週間で8%下落したことが注目されます。加えて、水の制限も生産者にとってさらなる逆風となっています。このような状況下で、中国の状況が改善されれば、銅と銀の力強い回復が期待できる可能性があります。
金は最近、1オンス1680ドル付近の重要なサポートエリア近くまで下落しており、分散投資対象としての意味がますます疑問視されるようになっています。
とはいえ、11%のドル高の影響を受けた豪ドル/米ドルを除き、金は、下落圧力にさらされている株式や債券よりもはるかに良いパフォーマンスを上げ続けていることに、改めて注目していただきたいと思います。直近では、過去2年間に幾度かサポートレベルとなっていた1680ドル付近が、再びサポートレベルとなっています。下方にブレイクすると、センチメントはさらに悪化し、長期的にポジティブな見方をとる投資家が挑戦を受ける可能性があります。現段階で回復の兆しを見せるには、3月のピークからのトレンドライン(現在1779ドル)を上抜ける必要があります。
原油はレンジ相場にあるものの不安定
原油は6か月ぶりの安値から反発していたが、パウエル議長のタカ派的な発言を受け、不安定な動きとなりました。中国でのロックダウンの再開とあいまって、市場の関心は再び供給不足から需要懸念に転換しました。その後、ブレント原油は90ドル、WTI原油は85ドル付近まで12ドル近く調整し、OPECプラスが減産を検討するとのサウジアラビアのコメントを受けて、100ドル突破を見越して買っていた投機筋が売りに転じた動きも一部にみられました。
欧州やアジアでは、ガスと電力の価格が上昇し、軽油や灯油などの燃料製品への代替需要が続いています。短期的には、秋にかけてのガス価格は引き続きロシアの動向、特にガスプロム(およびプーチン)が9月3日01:00GMTに終了する3日間のメンテナンスに伴う稼働停止を経て、発表通り、ノルドストリーム1パイプラインの稼働を再開するかどうかに左右されることになるでしょう。
供給面では、EUのロシア産原油禁輸措置が12月から供給に影響を与え始め、米国の戦略的備蓄から1日100万バレルのペースで1億8000万バレルの放出が10月21日に終了するとみられており、市場はその行方を見守ることになるでしょう。最後に、イラン核合意はまだ成立しておらず、米国は2015年の核合意再建に向けた最近の取り組みに対するイランの反応を「建設的ではない」としたため、失敗に終わるリスクが残っています。米国のガソリン小売価格は6月以降、25%下落しており、民主党はイランに対する姿勢を軟化させているとみられたくないため、少なくとも短期的には、合意の可能性はますます低くなっているように思われます。
9月12日にOPECプラスで生産量について協議する会合が予定されていますが、WTI原油の85.50ドル、ブレント原油の91.50ドルのサポートがすぐに試されることはないとみられるため、原油価格がさらに下落することはないと思われます。EUのガスと電力の価格は、ロシアの供給再開への期待から下落
欧州のエネルギー市場では、ライン川の水位が低下し、ドイツ中心部の電力会社や企業に石炭や軽油が通常通り出荷されず、パイプライン経由で供給されるガスに対する需要が高まっていたことから、ガスと電力の価格が急騰していましたが、直近では若干反落しています。しかし、重要なパイプラインであるノルドストリーム1がメンテナンスのために3日間稼働停止となったことを受け、ガスプロムが発表した通り9月3日01:00GMTに供給が再開されない可能性に対する懸念が高まり、価格は再び上昇しました。
しかし週明けには稼働が再開しないリスクが薄れ、オランダTTFガス先物は200ユーロ/MWh近くまで下落し、ドイツの1年物電力先物 は月曜日(8月29日)に一時1000ユーロ/MWhを超える水準まで上昇した後、半値以下に下落しました。こうした目まぐるしく、成長をそぐような電力価格の動きに対し、EUは域内の電力価格設定に介入し調整する準備を始めています。最近の混乱は、ドイツの1年物電力先物の証拠金が約180万ユーロとなるなど、資金力のある投機筋が、価格を現在のファンダメンタルズでは正当化できない水準まで吊り上げ、大量買いを済ませるとポジションを一気に解消するのではという懸念にも火をつけています。
EUの貯蔵庫がいっぱいになり、ノルドストリーム1経由でガスが供給されれば、ガス価格は200ユーロ/MWhを下回る可能性もあります。しかしそれでも依然として高い水準であり、需要削減計画や需要破壊を回避することは難しいと思われます。