60/40ポートフォリオは過去のものなのか?

60/40ポートフォリオは過去のものなのか?

ピーター・シクス

(Saxo Group)

サマリー:  長年にわたり、株式60%債券40%のバランス型ポートフォリオはすでに過去のものであると考えられてきました。しかし、ここ最近生じたいくつかの出来事によって、そうした見方に変化が生じている可能性があります。


2022年は株式と債券が同時に下落するという、多くの投資家にとって過去に例のない年となりました。実際、フィナンシャルタイムズ紙によると株式60%債券40%という伝統的な「バランス型ポートフォリオ」は、少なくとも1871年以来最悪の名目リターンとなりました。60/40のポートフォリオの概念は、株式は経済成長によってリターンを獲得する一方、債券は景気後退期に一定の収益を確保するバッファーとして機能し、リスク分散の役割を果たすという前提に基づいています。これは、近年において株式と債券はほとんどの場合、負の相関性にあったためです。60/40ポートフォリオの過去40年間のリターンは、年率約7.5%、ボラティリティは8.9%(参考までにMSCIワールド・インデックスのボラティリティは15%)でした。しかし、2022年という史上最悪の年を経験した今、「60/40ポートフォリオはすでに過去のものだ」と言い切ることは、果たしてできるのでしょうか?

ジャスト・バック・イン・タイム

2020年や2021年当時、60/40ポートフォリオの先行きは決して芳しいものではありませんでした。世界的な超低金利下で、株式はあらゆる指標から見て極めて割高な水準にありました。債券(社債と国債の組み合わせ)の期待リターンは1%を辛うじて上回り、株式益利回りはわずか3.5%でした。利回りはPERの逆数なので、例えば3.3%の利回りはPER30倍を意味する。株式益利回りは株価収益率(PER)の逆数であるため、例えばPERが30倍の時には株式益利回りは3.3%となります。

当時、多くのアナリストが株式の金利感応度(デュレーション)のリスクについて指摘し、あまり望ましい結果は得られないと警告しました。すなわち金利の持続的な低下(債券の名目金利が世界的にマイナス圏で推移している時は困難)だけが株価を支え、さらなる上昇をもたらすと考えられていました。2022年に入ると利回りが上昇し、株式市場のバリュエーションが見直された結果、一部で2020年から2021年にかけて続いた上昇相場の巻き戻しが起こりました。これは、通常のリセッションを背景とする弱気相場(債券相場の上昇)とは異なります。

実際、株式と債券の間に短期的な周期で負の相関関係が生じたものの、金利低下は過去40年の大半の期間にわたって株式市場を下支えし、長期的なバリュエーションの上昇をもたらしてきました。

Source: Board of Governors of the Federal Reserve System (US)

60/40ポートフォリオは近い将来復活するか?

60/40ポートフォリオが昨年、機能不全に近い状態に陥ったことは間違いありません。しかし、足元で金利が大きく上昇し、株式市場が弱気相場入りした今、伝統的な60/40ポートフォリオは、2年前と比べてはるかに幸先の良いスタートを切っています。世界の平均的な債券利回りは3.5%程度(米ドル建て)、MSCIワールド・インデックスの株式益利回りは足元5%程度で推移しています。 

期待リターン

それでは、ポートフォリオを株式60/債券40%で運用した場合の期待リターンは一体どうなるのでしょうか?債券の場合、単純に現在のリターンを用いて期待リターンを予測することが可能です。株式の配分については、MSCIワールド・インデックスの過去の平均的なEPS成長率である年率6%程度を前提に定めればよいでしょう。また、期待リターンの一部を成す配当利回りは、パンデミック前の過去数年間は2.5%で推移していました。

検討すべきポイント

期待リターンは必ずしも保証されたものではないことに留意することが重要です。また、投資リターンを予測する際は、いくつかの要因について慎重に考慮する必要があります。

  • インフレは持続的に低下するのか?インフレは金利の動きと密接に関係するため、今年魅力的なリターンを獲得するためには、金利は安定するか、もしくは低下する必要さえありそうです。現在、市場はFRBがあと2回0.25%の利上げを行い、その後一時的に停止した後、来年は長期債利回りが低下すると想定しています。インフレを引き起こしている根本的な要因が解決されていないことを踏まえると、残念ながらこの明るいシナリオは実現しそうにありません。それらの要因として、脱グローバル化、グリーン・トランスフォーメーション、また、インフラやコモディティ採掘等の実体経済への投資不足などが挙げられます。インフレ率は、現在市場が予想している2.25%ではなく、3〜4%程度で底打ちする可能性が高いと思われます。このため、金利が大幅に低下するまでには、現在市場が想定しているよりも長い時間を要するものと予想されます。
Source: Federal Reserve Bank of St. Louis
  • 予想EPS成長率は達成可能か?ここ数カ月でやや後退したとはいえ、市場は依然としてこうしたポジティブなシナリオを支持しています。問題は、インフレと経済成長の鈍化を踏まえると、はたして企業が利益率を維持できるかどうか、ということです。米国や欧州が実際にリセッション入りすれば、当然企業のEPSにとって非常にネガティブな影響を及ぼすことになります。一方、当グループは米国がリセッション入りする可能性は低いと見ています。米国の労働市場は極めて底堅く、また、家計のバランスシートは健全性を保っていることを鑑みると、今年の米国経済は予想以上に堅調に推移する可能性が期待できます。
  • 株式と債券の伝統的な負の相関関係が薄れる可能性が(または正の相関に)負の相関とは、一方の資産クラスが上昇すれば、他方の資産クラスは下落することを意味します。正の相関があれば、両方の資産クラスの価格が同じ方向に動くことになります。つまり、これは正の相関関係にある場合、ポートフォリオの債券部分のバッファとしての機能が失われることを意味します。また、60/40のポートフォリオのボラティリティは正の相関があると高くなるので、これは最終的なリターンよりも、リターンのボラティリティに影響を与えることになります。

60/40のポートフォリオを構築する

イールドカーブがフラット化(または逆イールド)している時は、債券ポートフォリオの一部に短期債を組み入れることができます。具体的には、米国の短期債の利回りは4%を大きく上回っていれば、それによってポートフォリオの金利感応度(デュレーション)を低減できます。また、潜在的なリターンをやや高めるために、ここでは利回りが5%程度の社債に一部投資する選択肢もあるでしょう。また、株式のポートフォリオについては、MSCIワールド・インデックスをベンチマークとすることで分散化を図ります。当然ながら、グローバル・セクターの中でより選別的な投資を行うことも可能です。インフレ環境では、不動産、インフラ、コモディティなどの「実物資産」を選択することによって、リターンが向上するという報告もあります。

結論

2022年は投資家にとって最悪の年となりましたが、60/40ポートフォリオは決して過去のものではありません。なぜならば、株式と債券の期待リターンはいずれも足元で大幅に改善されているからです。約2年前に比べて株式は割安な水準にあり、債券の名目リターンは少なくともプラスに転換しつつあります。また、インフレが持続的に低下すれば、今年はプラスの実質リターンも期待できます。当然ながら、決定要因として最も重要となるのは企業収益の伸びと中央銀行の金融政策であることに変わりはありません。こうした中、当グループは中国の経済再開は世界中の企業の収益に寄与するものと見ています。また、当グループは米国経済がリセッションを回避するか、もしくはリセッション入りしたとしても、ごく浅いものにとどまるものと予想します。また、インフレ率は現在のコンセンサス予想をわずかに上振れて安定的に推移する見通しであるものの、金利上昇への影響は限定的であると考えます。

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