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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
サマリー: 半導体製造とロボット工学の応用における日本の専門知識は、AI分野における日本の優位性の基盤となる可能性があります。日本株と人工知能という今年最も強力な2つの市場テーマが結びつけば、投資機会の波が押し寄せるでしょう。
ここ数カ月、市場で最も盛んに議論された2つのテーマはAIと日本であり、この2つが結びつけば、投資家にとって多くの投資機会が出現するでしょう。
成長率とインフレ率の上昇、マイナス金利、コーポレート・ガバナンスの改善、地政学的な動揺、魅力的なバリュエーション、ウォーレン・バフェットが日本株への関心を高めていることなど、日本市場にとってのプラス材料が目白押しであることは以前にも述べました。日経平均株価とTOPIXは最近ともに33年ぶりの高値に達しました。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め中断や中国の成長率の鈍化を理由に、戦術的な売却や短期的なセンチメントの悪化が見られるかもしれませんが、現在のロボット工学での優位性に加え、人工知能(AI)の登場が日本株への長期投資の有効性を高めています。
日本は1980年代には半導体製造の中心地であり、その後何度かの後退を経験しながらも、NAND型フラッシュメモリ(電源がなくても記憶を保持できるメモリの一種)やセンサーなどの一部の半導体分野では依然として重要な地位を保っています。日本の当局は、世界の半導体産業における日本の地位の回復に熱心で、2030年までに日本製半導体の売上高を現在の3倍の15兆円(約1,080億ドル)以上にするため、半導体戦略の見直しを計画しています。
日本の新戦略は、経済安全保障と最近話題の生成AIなどの技術進歩にとって世界的に重要な戦略物資である先端半導体の生産強化を意識した措置です。この計画は、各国の指導者たちが世界の半導体の半分以上と最先端半導体の90%を生産している台湾の半導体製造産業の脅威を懸念するようになっているこの時期に立案されました。台湾からの半導体の調達は、世界的なデジタル化経済の繁栄とAI開発の進展にとっての鍵であり続けています。
次世代半導体の国産化を目指し、日本政府は2022年、ソニー、トヨタ、ソフトバンクなど日本企業8社が出資する合弁企業「Rapidus(ラピダス)」を設立しました。8社は今後10年間で総額360億ドルを投資する計画で、政府からの約5億ドルの補助金も受け、回路線幅2ナノメートルの次世代半導体製造の実現を目指しています。さらに政府は、TSMCの熊本新工場に最大で4,760億円、フラッシュメモリー専業のキオクシア・ホールディングスの四日市工場に929億円の補助金を拠出することを決定しています。マイクロンのような米国企業も日本での事業を拡大しており、最近、日米が半導体の研究開発で協力する新しいプログラムを発表し、東京エレクトロンなどの日本企業が関心を示しています。
技術研究と革新のリーダーとしての歴史を持つ日本は、ここ最近の遅れを取り戻せる可能性を秘めており、世界の半導体企業が中国や台湾からの事業拠点を移すリスク軽減の取り組みを支援することができるかもしれません。日本での投資拡大はサプライチェーンの多様化という世界的なニーズとうまく合致しており、技術大国としての日本の復活にとって良い兆しとなるでしょう。
日本企業は従来から、ロボットの生産・輸出・産業利用で先行してきました。日本国内では、社会の高齢化と移民を受け入れないことによる労働人口の減少のため、産業用ロボットの産業利用が一般的で、容易に受け入れられてきました。このため、日本の企業や労働者は、生産性、総生産高、GDP成長率を押し上げるため、ロボットへの投資に前向きです。ファナック、川崎重工業、ソニー、安川電機などの企業が、日本経済の台頭期にロボット開発をリードしました。
日本はロボット工学で成功を収め、以前のAIブームにも関与していたことから、最近話題の生成AIでも成功する可能性があります。人口面での制約と半導体の調達が容易であることにより、企業は新技術の実現に前向きであり続けるでしょう。日本企業の負債率が極めて低く、その約60%でネットキャッシュ(手元流動性から有利子負債を引いた金額)がプラスです。そのため、高金利環境に直面する国外の競合企業とは対照的に、AI関連の研究開発に投資を行うことができます。加えて、ロボット工学やその他の技術分野での日本のこれまでの成功や、グローバルな技術企業との絶え間ない協力関係から、日本には十分な技術やAIに精通した労働力が存在します。
日本の最大の可能性は、ロボット工学の功績に新たなAIを適用することで、世界経済の様相を一変させるまったく新しい技術を生み出すことでしょう。ロボット工学にAIの技術を活用すれば、ロボット(ソフトウェア)が与えられた指令やタスクを実行する新しい方法を提供することになります。これは、ロボットがより自立し、人間の命令に依存することなく、学習、理解、解決、推論、反応できるようになることを意味します。産業用ロボットの場合、混雑した倉庫内を自走運行し、不測の事態の際にルートを変更することができるロボット、サプライチェーンを理解し、データを分析し一時的な障害の可能性を認識して在庫を合理化するロボットを意味します。
ロボットとAIの融合は、生産性の飛躍的な向上だけでなく、雇用や国際貿易の拡大ももたらし、日本経済の新時代をもたらす可能性があります。さまざまな産業の日本企業がAIを導入しています。ソフトバンクのモバイル部門は、日本版ChatGPTを開発中です。サイバーエージェントは、企業がAIチャットボットツールを作成できる独自の大規模言語モデル(LLM)を発表しました。NTTも今年度中に独自のLLMを開発し、他の企業に提供する計画です。産業コングロマリットの日立製作所は、従業員の生産性を向上させるために生成AIの利用を促進する「Generative AIセンター」と呼ばれる社内組織を設立しました。
イノベーションの可能性は、日本株にとっての他の多くの追い風と相まって、日本への投資機会を増加させます。ご参考のため、そうした機会を以下に記載します。
日本が製造業で競争力を獲得する可能性は計り知れませんが、企業は、日本の労働供給力の乏しさと賃金上昇圧力を考慮し、サプライチェーンの脱中国化・多様化に躊躇するかもしれません。日本企業のリショアリング(生産拠点の国内回帰)も、高性能製品の小規模な生産にとどまる可能性があります。円安はまた、日本に生産拠点を移そうとする企業にとって、原材料の輸入コストが高くなることを意味します。逆に急激な円高は、日本製家電やその他の製品に対する需要を減少させることになるかもしれません。一方、最近の半導体株の急騰は、技術進歩への期待がすでに織り込まれていることを意味している可能性もあります。
米中間の緊張が和らげば、グローバル・サプライチェーンの再編成が遅れるか、逆行するかもしれません。日本も半導体の輸出抑制を発表しており、日本の主要半導体企業の業績に影響を与える可能性があります。さらに、AI関連の進歩が規制リスクやエネルギー供給の制約によって妨げられる可能性もあります。