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チーフ・マクロ・ストラテジスト
サマリー: 第2四半期は、3月の銀行破綻の影響が急速に薄れ、中央銀行による引き締めの観測が再び高まりました。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを見送り、長期債利回りが落ち着いた動きを見せていることから、現在米ドルは軟調に推移しています。しかし、米国経済が底堅さを維持し、コア・インフレ率が高止まりすれば、米ドル・ショートは厳しい状況に直面するでしょう。 ドル・スマイル理論でドル高をもたらす両極の要因、すなわち、FRBのタカ派スタンス維持と市場の混乱の両方の可能性が生じるからです。また、日本円については、ボラティリティが高まるリスクを予想しています。主要国の長期ソブリン債利回りが世界経済の底堅さを織り込む必要性に迫れれば、最安値水準にある円の一段安の可能性があります。一方、日銀は最終的にはイールド・カーブ・コントロール(長短金利操作)政策を大幅に修正せざるを得ず、その場合は大きく円高に振れる可能性があるからです。
第2四半期予想は、3月の銀行危機の直後の混乱の最中に作成されました。当時の投資家心理の悪化と、中央銀行は信用収縮を受けて引き締めサイクルの終了を前倒しするとの見方は、当社アナリストを含む多くの投資家を誤った方向に導きました。ところが、ほぼすべての国でコア・インフレ率が高止まりし、景気は概ね底堅いことが証明されました。そのため、世界の中央銀行のほとんどが金融引き締めを継続し、利上げを再開する中央銀行もありました。第2四半期末時点で、FRBの「ターミナルレート(金融引き締めサイクルにおける最終到達金利)」の予想は、シリコンバレー銀行が破綻する直前の3月初めに付けた今回のサイクルにおける最高水準近くに戻っています。その他のG10諸国の中では、カナダとオーストラリアの二つの中央銀行が金融引き締めの休止を断念し、第2四半期に利上げを再開しました。つまり、3月の銀行危機は、いずれは景気減速につながる追加の信用引き締めの方向を指し示すマイルストーンでした。しかし、この「いずれ」は予想よりも先のことになりそうです。
第2四半期に金融引き締め再加速の観測が高まった最も顕著な例はイングランド銀行(BOE)です。同国では、4月にコア・インフレ率が6.8%と今回のサイクルの最高水準を記録し、市場はBOEの引き締めが2024年初頭まで続くとの見方を織り込みました。それでも世界のリスクセンチメントは強気の方向に大きく傾いています。どうやら市場は米国経済がソフトランディング(軟着陸)に成功し、ディスインフレと景気後退のないゴルディロックス経済(適温相場)が続くか、景気後退があったとしても軽微なものに留まると信じ続けているようです。これ以外の解釈では、逆イールドの度合いが増す環境下でのリスク・センチメントの強さを正当化することはできません。
高インフレと底堅い景気の長期化は市場にとって受け入れがたいことのようです。パウエルFRB議長や他のメンバーが年内にあと2回の利上げがある可能性を示唆したにもかかわらず、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げの一時停止が決定されると、すぐに市場はこれを歓迎しました。ところが、FOMC後の記者会見で、パウエル議長は将来の金融政策が経済指標次第であると言明しました。インフレ率の高止まりや景気の堅調を示す指標と結果としてのFRBの利上げ再開への備えが十分でない市場は第3四半期と第4四半期に発表される経済指標の内容によって乱高下することになるでしょう。
ここで米ドルを動かす要因の経験則モデルである「米ドル・スマイル理論」について考えてみたいと思います。この理論に基づけば、米ドル高をもたらすシナリオの一つは世界市場の混乱です。市場にストレスがかかると、投資家は安全を求め、世界の流動資産の大半を占める米ドル建て資産への投資に必要な米ドルを急いで買い求めます。こうした米ドル高は、FRBが十分に強力な緩和介入を行って市場を落ち着かせると後退します。
米ドル高を促すもう一つのシナリオは米国債利回りの大幅な上昇、特にFRBの金融引き締めによる短期金利の上昇です(この現象は2022年に顕著でしたが、2015年も同様の状況にあったと言えます。当時のFRBの引き締めは緩やかなものでしたが、緩和策を維持した他の中央銀行との違いが際立っていました)。また、米長期債利回りの上昇も米ドル高をもたらします(例えば、2013年の「テーパー・タントラム」での急激なドル高や、2017年にトランプ大統領が税制改革を行い、その翌年にFRBの利上げと市場の圧力の両方がイールドカーブ全体を押し上げたときのドル高などです)。
米ドル高を促す二つの対極的なシナリオを挟んで真ん中に位置するのは、大きな混乱がないとき、またはFRBが何のドラマも提供しないときです。この場合、米ドルの方向性は外部要因に委ねられ、一般的には米ドル安になります。例えば、2022年後半までにFRBの引き締めの大部分が織り込まれ、米長期債利回りがピークに達すると(これは今年3月に(現時点での)ピークに達した短期債利回りのはるか先を行く動きでした)、米ドルは軟化し、米国外での重要な動きが注目を集めるようになりました。2022年後半の場合、それは欧州中央銀行(ECB)による金融引き締めの強化でした。その後、豪ドル、カナダドル、英ポンドが、政策期待の大幅な修正によりスポットライトを浴びました。
第3四半期については、インフレが落ち着き、それを受けて中央銀行が引き締めの手を緩めるとの市場の確信が波乱要因になると予想します。この状況はスマイル理論の米ドル高シナリオのいずれか、あるいは、両方に関わります。すなわち、インフレの高止まりと雇用情勢の逼迫を受けて、FRBは第2四半期を終えた時点で市場が想像しているよりもはるかに大幅な利上げを継続せざるを得ないかもしれません。最も劇的なシナリオは、景気が再び力強さを取り戻し、米長期債利回りが上昇することです。第2四半期末時点の世界のリスクセンチメントは陶酔に近い状態にあるため、米10年債指標銘柄の動きを注視しています。それは現実を直視することを迫り、米ドルを今回のサイクルの最高値へと押し上げる可能性があります。もちろん、今後発表される経済指標がディスインフレとソフトランディング、そして長期債利回りの低位安定のシナリオに合致する限り、米ドルは弱含みで推移するでしょう。しかし、流れる音楽が変わった場合には、スマイル理論を検討する必要があります。
第2四半期後半の日本円の様々な指標から、米ドル/日本円レートは米ドル安基調の影響で未だ直近の最高値を試しておらず、日本円が昨年秋に記録した数十年ぶりの安値に向かっていることが分かります。第2四半期に円安をもたらした最も明白な要因は、政策金利のスプレッドが更に拡大したことです。他国の中央銀行は引き締めを続けていますが、日銀は政策金利を-0.10%に据え置き、10年債利回りの変動幅をプラスマイナス0.50%内に抑えるイールド・カーブ・コントロール(長短金利操作)を維持しています。主要国の今後の経済成長と引き締めサイクルの長期化は日銀と過去最安値水準にある日本円にとって真の難題となるでしょう。
英ポンド/日本円は今年、イングランド銀行の政策見通しがインフレの進行により大幅に修正された一方で、日銀は政策を維持したため、英ポンド高に大きく振れました。イングランド銀行が十分な引き締めを行い、長期債利回りの上昇を抑制し、インフレファイターとしての信頼を得ることができるかどうか、そして日銀が最終的に屈服し、10年以上にわたる超金融緩和政策とイールドカーブ・コントロールの解除に動くかどうかによって、英ポンド/日本円レートは乱高下したり、暴落したりする可能性があります。上記のチャートは英ポンド/日本円と日英10年債利回りスプレッドの推移を比較して表示しています。
植田新総裁が就任して初めて開かれた4月の会合で、日銀は1年半にも及ぶ政策見直しを行うと宣言しました。日銀はより大きな政策修正を打ち出すのは少なくとも来年3月の賃金交渉の後にしたいと考えており、おそらくインフレが落ち着くのを祈りながら待つつもりなのでしょう。しかし、日銀がそれほど長く待つことを、状況は許さないかもしれません。
世界経済が再加速の兆しを見せ、コモディティ価格と長期債利回りが上昇した場合にのみ、円のボラティリティは高まる可能性があります。日本円は他の通貨とは異なり、政策金利よりも長期債利回りに常に敏感に反応します。昨年秋の米ドル/日本円のピークが米長期債利回りのピークと一致したのはそのためです。余談になりますが、日銀の金融緩和政策は、3月の混乱からの市場の急激な立ち直り、特に日本株の急騰(日本円のヘッジコストが非常に低いことも要因)をもたらした世界市場の潤沢な流動性と強気のリスクセンチメントを支える重要な柱のひとつであった可能性が高いでしょう。日銀が政策を大幅に修正すれば、為替は「ダム決壊」のごとく大きく円高に振れ、それは世界市場を動揺させる可能性があります。不思議なことに、6月下旬現在、日本円のインプライド・オプション・ボラティリティとオプション・スキューは、日本円のボラティリティ上昇の可能性への確信が後退していることを示しています。この点には注意が必要です。現在の日本円は過去最安値水準にありますが、主要国の債券市場が景気の底堅さを織り込めば、更なる円安の可能性があります。しかし、これは最終的には日銀に対して政策修正を求める圧力となり、ダム決壊のリスクを高めます。これらを踏まえ、日本円のボラティリティが高まる可能性があると考えます。