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チーフ・マクロ・ストラテジスト
トランプ次期大統領とその陣営は、二期目を前に、貿易および外貨準備のための世界の優先通貨という米ドルの地位を維持しなければならないと明言しています。大統領選挙に勝利し、就任を控えた12月、トランプ次期大統領は、新しい通貨の創設、または米ドルに代わる選択肢を支援しようとする国に対し、100%の関税と米国市場へのアクセス禁止を示唆して牽制しました。
トランプ次期大統領は、米ドルの重要な地位を武器化するとともに、世界の貿易相手国に対して関税その他の制約を課すことにより、自国通貨に対する過小評価と米ドルに対する過大評価の恩恵を数十年にわたって享受し、自国の経済を構築してきた貿易相手国の優位性を減らそうとしています。主な標的は中国ですが、中国だけではありません。ヘッジファンド・マネジャーで、トランプ次期大統領から大統領経済諮問委員会の委員長に指名されたスティーブン・ミラン氏も、米国が世界の準備通貨を提供するサービスの対価を得られる「もっと公正な」市場を構築する方法について発言している有力者の一人です。
ミラン氏は、外国の政府機関が外貨準備として利用するために保有する米国債について手数料を課すとともに、当該政府機関に年限100年の「センチュリーボンド」のほか、場合によっては永久債の保有も強制すれば、米国債の発行ニーズを緩和できると提案しています。確かに、支配的な準備通貨および取引通貨という米ドルの地位を考慮すると、自国の通貨や資産を武器として利用できる国があるとしたら米国しかありません。しかし、世界の貿易相手国に対するこの種の要求はリスクの高い行動であり、最終的には米国債を拒絶する動きを加速させるだけでなく、貿易相手国が望まない場合には他の選択肢を模索する動きを促すおそれもあります。また、米国債市場の安定性に対するこのようなリスクがなくても、米国債自体がすでに流動性問題に直面しています。財政赤字が膨れ上がった結果、米国債の発行ニーズは市場秩序の維持を担っているプライマリー・ディーラーのネットワークに比べて危機的な規模にまで増大しています。米国債市場が不安定になると、米FRBと米財務省は手を結び、資本規制、量的緩和(QE)、イールドキャップ、不当に低いフェデラルファンド金利、あるいはこれらのすべてを駆使して、事態を円滑に処理しようとするのは間違いありません。
図表:米FRBの貿易加重米ドル指標(対広域通貨)は過去最高水準に達しているほか、米大統領選挙前からほぼ垂直上昇を続けています。世界の準備通貨である米ドルの上昇は金融情勢の引き締めに相当し、世界の多くの国、特に債務の大部分が米ドル建てになっている新興国を厳しい状況に置いています。トランプ政権による関税は米ドル高に伴う問題をさらに悪化させるおそれがあります。中でも、米国債の調達原資を維持する課題によって、強い米ドルが2025年には最高値まで押し上げられる要因になる可能性があります。(米国の対GDP政府債務比率のもう一段の上昇に伴って米ドル相場は上昇しますが、皮肉なことに、米ドルの裏付けになっている米国政府の信用力の低下を招くことに注目 – この点に関しては、 トリフィンのジレンマが機能しています)。
簡潔に言うと、国債市場が不安定になることは受け入れがたく、決して容認されません。さらに、インフレの昂進が容認されない限り、米国債利回りの上限はかなり低くなりそうです。インフレの昂進は政治的には有害であるため、トランプ政権は、米FRBが否応なしに従うこともあって(今後1年間のトランプ次期大統領とパウエルFRB議長の対立が不可避であることには要警戒)、米国債市場が機能不全に陥ることを回避し、仮に機能不全に陥ることがあっても、米ドルがポリシーミックスにおける衝撃吸収装置になります。政府がどれだけ早く公的介入に踏み切るのかが、今回のサイクルにおいて米ドルが最終的なピークに達する時期を決定付ける主な要因になりそうです。
関税と米国の例外主義が焦点となり、第1四半期の見通しは不安定になりそうです。
新年の第1四半期には、トランプ新政権が就任初日から多くの施策を新たに実施して最大限の影響を与えようとするため、市場は落ち着きを取り戻すことに努めると見ています。関税は大統領令を発令すれば容易に実施できるため、トランプ次期大統領が素早く行動できる最も容易で影響力のある政策の一つです。期待の基準値に比べて関税プログラムの比重が大きくなるほど(これを定量化するのは難しいですが、かなりの規模になると想定しています)、米ドルの上昇リスクは長期化します。米ドルにとって注目すべき重要な通貨ペアの一つが米ドル/人民元(USDCNH)で、2022年と2023年には7.375という水準が人民元の底値になりました。お馴染みのユーロ/米ドル(EURUSD)では、米国が関税に関して欧州に厳しく迫った場合の理論的な水準に焦点が当てられます。また日本に関しては、日銀に引き締め姿勢を意図的に加速させる用意がない限り、あるいは大規模な通貨介入政策を導入しない限り、米ドル/日本円(USDJPY)は160.00を上回る水準で今回のサイクルの上値を試す展開になりそうです。
トランプ次期大統領がしばしば公約している過度に広範な関税は、関税を課された国の通貨の切り下げにつながるだけで、米国が望む生産能力の本国への帰還という変化を引き起こす可能性は低いため、賢明なアイデアではないという主張もあります。むしろ、比較的外科的な方法ですが、一般的な関税よりもはるかに高い税率を設定し、対象を高度に絞り込んだ関税によって、為替を利用したオフセットの広がりを防止できるだけでなく、重要なサプライチェーンを望ましい形で再構築することができます。
それでも、関税を課された国が独自の対抗策を講じるリスクもあります。例えば、中国は、バイデン政権による関税に対抗し、半導体製造の鍵となる希土類金属に関してすでに禁輸措置のような統制のほか、他の輸出規制も実施しています。中国は、米国の重要なサプライチェーンの多くでかなりの影響力を持っています:中国は米国の防衛用途や医薬品業界にとって重要な部品や化学成分の多くを生産しているほか、EV向けの電池では世界最大の生産能力を誇っています。トランプ次期大統領が主張しているほど、関税は簡単なものではありません。米ドル安につながる他のルートは、中国、欧州および日本が協調して大規模な交渉に臨むことです。ますます細分化し、多極化が進む世界においては、こうした見込みは薄いように見えます。
残りのG-10通貨、人民元および新興国通貨
人民元 – 第二次トランプ政権下での米中関係の形勢が注目される中、為替市場のボラティリティが完全に解消されるか否かを占う上で、米ドル/人民元(USDCNH)は最も重要な為替レートです。「ディールメイキング」的なアプローチは、米ドルにとっては弱気材料、人民元にとっては強気材料となる可能性がありますが、貿易戦争が激化すると少なくとも当初は形勢が逆転しそうです。
ユーロ - ユーロは米ドルに対する理論的な価値を試す可能性がありますが、トランプ次期大統領のアジェンダが完全な失敗に終わる可能性も数多くあるため、「潜在的な底値を探る動き」が2025年上半期における最も適切なスタンスです。戦略的な防衛のためのユーロ債発行が実現した場合、ドイツ、さらにはユーロ圏の全域で財政刺激策が強化される結果、予想外に上振れする可能性があります。
日本円 – 日本円は、日銀の引き締めサイクルが引き続きインフレ動向から大きな遅れを取っているため、世界の長期債利回り(とりわけ米国債)の軌跡のミラーイメージという役割を今後も果たすことになりそうです。日本円が節目を迎えるのは、米国や世界の経済がマイナス成長となり、米国の財政問題が足かせとなって米国債利回りが低下した場合に限られると思われます。そのような事態になるか、または上述した米国債市場の不安定性の高まりを受けて米FRBが市場介入に踏み切るかのいずれかです。
スイス・フラン – スイスはスイス・フランの対ユーロでの行き過ぎた上昇を避けようとしているため、スイス国立銀行の金融政策はゼロ金利に向かうと見ています。
英ポンド – 支出の増加を受けてインフレは高止まりしそうですが、労働党のプログラムでは投資促進と生産性向上という期待に応えるには力強さを欠く可能性があるため、一般的にはスタグフレーションの発生が懸念されています。依然として高水準の英国中銀の政策金利に起因したキャリーはそうした懸念を幾分相殺する助けになっています。
豪ドル、カナダ・ドルおよびニュージーランド・ドル 豪ドルには、中国が景気刺激策のさらなる強化を選択するか否か、またそれに関連した国際商品価格の動向と密接にリンクする可能性があります。3月または4月に解散総選挙が実施される可能性のあるカナダでは、保守党の新政権が誕生した場合には気候変動政策に伴う自傷リスクが次第に薄れるため、カナダ・ドルはトルドー首相退陣後の将来に目を向け始める可能性があります。
新興国通貨 – 一般的には、米ドルの上昇・下落の裏返しとして売買される可能性が高く、おそらくは中国人民元(CNH)と密接に相関すると思われます。しかし、新興国は多様です。例えば、メキシコ・ペソ (MXN) には非常に具体的なストーリーがあり、第二次トランプ政権が、関税だけでなく、国境封鎖や麻薬密売などの問題に関して、メキシコのシェインバウム大統領とどのような関係を構築するのかという点と密接にリンクしています。