ウイークリー・コモディティ・アップデート:市場全体が歴史的な動きを見せた週において金属が最も上昇

ウイークリー・コモディティ・アップデート:市場全体が歴史的な動きを見せた週において金属が最も上昇

商品
オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  商品市況は強弱まちまちですが、米国の消費者物価指数のサプライズによるドル安と、中国が厳格なゼロコロナ政策を一部緩和したことに支えられ、全体としては堅調に推移しています。工業用金属と貴金属が上昇する一方、小麦を筆頭に穀物セクターは下落しています。金、銀、銅は上昇の兆しを見せており、ここ数か月トレーダーの中心となっていた売りから強気戦略への変更を余儀なくされる可能性があります。


 時折、商品市場や金融市場において、情報が歴史的な動きの引き金となることがあります。10月の米消費者物価指数(CPI)が予想をやや下回り、米連邦準備制度理事会(FRB)が引き締めペースを緩めるために必要な情報を入手したとの見方から、市場は熱狂的な盛り上がりを見せたのです。

10月の米国消費者物価指数は、前月比0.4%増、前年同月比7.7%増となり、予想を下回る上昇となりました。同時に、市場参加者が注視しているコアインフレは、前月比0.3%増、前年同月比6.3%増となりました。いずれも予想を0.2%下回ったとはいえ、米連邦準備制度理事会にとってはまだ適切とは言い難い高い水準ですが、米国でインフレが徐々に減速していることを裏付けているように見えます。

市場の反応は歴史的なもので、米国株は5%以上上昇し、米国10年債利回りは30bp低下しました。特に商品市況は、金属が最近の高値を更新し、原油がそれまでの下落分を取り返すなど、ドルの下落によって市場全体のセンチメントが改善しました。日本円は対ドルで最も大きく下落している通貨ですが、1日の上げ幅としては1998年以来最大となり、また、ユーロは1.0350ユーロ付近で3か月ぶりの高値となるなど、すでに回復し始めていたセンチメントがさらに改善しました。

中国が厳格なゼロコロナ規制の一部緩和を検討しているとの憶測が数週間前から流れていましたが、金曜日(11月11日)に中国保健当局が20の新たなガイドラインを発表し、ついにそれが実現しました。主な措置は、入国時隔離期間の短縮、一部の集中隔離から自宅隔離への変更、PCR検査の制限、過剰な閉鎖期間延長の禁止、ワクチン接種や治療の促進、地方当局による適切な承認のない生産・学校・交通機関の休止の禁止などです。

新規感染者数が増加している中での緩和措置は、中国がようやく成長に前向きな姿勢に転じたことを示す強いシグナルであり、商品相場もそれに呼応しました。工業用金属セクターは2週間にわたり3月以来最高のパフォーマンスを示し、銅を筆頭に+12%の上昇を見せ、過去数か月間優勢であった、売り一方向の心理を揺さぶって上昇しました。

上のグラフの通り、11月の商品セクターは総じて好調なスタートとなりました。工業用金属と貴金属が先行する一方、穀物セクターはドル安にも関わらず下落しました。穀物の弱気基調を牽引しているのは小麦で、世界的な供給増への期待からシカゴとパリで価格が下落しています。米農務省は月例需給報告(世界農産物需給見通し)で、世界の小麦在庫を2億6800万トンとし、10月時点の見通し2億6800万トンからやや増加、アナリスト予想の2億6650万トンに小幅減少するとの見通しを上回りました。また、ロシアがへルソン市から軍を撤退させ、11月19日に現在のウクライナ安全回廊協定が期限切れとなれば、その延長の見通しが改善する可能性があるという報道も、小麦価格を圧迫するものとなりました。

金は高値を更新し待望の反転を遂げる

CPIが予想より低い水準となった後、金は週次ベースで3月以来最大の上昇に向かっています。金、銀を含む貴金属は、利回りおよびドルの下落を受けて大きく上昇しました。金は、トリプルボトムとなった1,615ドル付近で再び支持線を確立し、過去2週間で7%上昇しました。とはいえ、1,735ドルを上抜けたことで抵抗線から支持線に変わり、投機筋の投資行動が売り優勢から買い優勢に変化したかどうかはまだ不確実です。

このセンチメントの改善を支えているのは、ワールド・ゴールド・カウンシルが最近発表した2022年第3四半期の金需要動向の最新情報です。この最新情報では、中央銀行の需要は、金が8%下落しているにも関わらず四半期で約400トンに達し、それによって、金を裏付けとするETFかあらの227トンの流出を相殺したとしています。全体として、年間累計の需要は2021年の同時期と比較して18%増加し、パンデミック前の水準に戻ったことを示唆しています。

全般に、当社は長期的に強気の見方を維持しています。これは主に、長期的なインフレ率が現在の3%未満より高い水準に落ち着くと市場が認識すれば、価格が大幅に再評価されるとの予想によるものです。数か月にわたって売り越しであったETF投資家と先物市場の投機筋(下方バイアスで取引していた)が、ここからさらに上値を追うかどうかのカギを握っていると思われます。市場の重要なセグメントからのサポートがない場合、金と銀の相場は、国債利回りとドルの動きによって主な方向性を見出します。1,735ドル近辺のレンジでの推移および支持線の確認と、1,765ドルおよび1,789ドルの抵抗線が予想されます。

 

銅が工業用金属セクターの上昇を牽引

銅は5か月ぶりの高値付近で取引され、過去2週間で+12%の上昇となりました。これは、新規感染者数が4月以来の高水準に上昇したにもかかわらず、中国がゼロコロナ政策の緩和を許可し経済成長を支える意思を示すという見通しと、ドル安によって支えられています。世界経済の見通しは、一部の国の景気後退により依然として不透明であり、現段階では持続的な回復の可能性を判断するのは時期尚早と思われます。現時点では、トレーダーや投資家が価格の上昇に対応し、ネガティブなポジションを減らしているのが見受けられます。

当社は、世界的な電化に向けた需要の増加が見込まれることから、工業用金属セクターについては長期的に強気の見通しを維持しています。グリーンメタルのキングと呼ばれる銅については、中南米やアフリカを中心とした世界の鉱山会社が、来年、一時的に生産能力を増強する見込みであることから、短期的には再び過去最高値を更新する見込みは薄いと考えられます。

世界各地で激しい天候不順が続き、またガス、石油、石炭などロシア産のエネルギーへの依存度を引き下げる必要があったため、銅を多用した電化の動きは今後も勢いを増していくでしょう。送電網を追加的なベースロードに対応出来るようにするには、今後数年間、銅を大量に使用した新たな投資が必要になるのです。また、世界最大の銅の供給国であるチリのように、鉱石の品質低下や水不足の中で生産目標の達成に苦慮している生産者が既に現れています。中国の景気減速は一時的なものと見られ、景気刺激策による景気浮揚はインフラと電化に集中すると思われますが、いずれも工業用金属が必要となる分野です。

HG銅は6月の暴落の引き金となった4ドル付近の重要な抵抗線まで、あと一歩のところまで来ています。金と同様、現在の需給見通しが現在の水準を支えるのに十分かどうかを見極めるため、レンジ内での取引動向に注目されるでしょう。

Source: Saxo

原油はドルと中国に注目しレンジ相場が続く

ブレント原油とWTI原油は上昇したものの、ブレント原油は1バレル95ドル前後、WTI原油は1バレル90ドル前後のレンジ内にとどまっています。CPIが予想を下回ったことで、センチメントの改善とドル安が相場を下支えした一方で、中国のゼロコロナ政策緩和も相場を押し上げました。また、中国のゼロコロナ政策緩和は成長見通しを改善させ、原油を含む原材料の需要回復を後押しする可能性があると見られます。

7月以降、原油はほぼレンジ内で推移していますが、燃料製品市場は欧米の供給不足が深刻化し、ガソリンや軽油、灯油、ジェット燃料などの留出油のマージンを押し上げ、逼迫した状態が続いています。逼迫感という点では、軽油と暖房油の在庫が少ない北半球の製品市場が引き続き懸念材料となっています。ウクライナ戦争と、欧州への主要な精製品供給国であるロシアへの制裁措置により、市場は根底から覆されました。さらに、ガス料金の高騰は、ガスから他の燃料、特に軽油や灯油への切り替えを後押ししています。

燃料製品市況がこのように逼迫している限り、景気後退懸念はあるものの原油価格が下落するリスクは低いと思われます。 燃料製品市場の逼迫、OPECプラスの減産、EUの対ロシア石油制裁を控えていることから、当社は、今期のブレント原油価格のレンジを85ドルから100ドルとする見通しを維持しています。

Source: Saxo

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