供給不足と追加証拠金が最近の急騰の要因

供給不足と追加証拠金が最近の急騰の要因

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オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  ロシアに制裁を課すという欧米の決定により、市場全体で自主制裁が拡大しており、それに伴い、「オフライン」のロシア産の原材料と、他の生産国から調達された原材料との価格の乖離が大きくなっています。こうした動きを背景に、世界最大のコモディティ生産国に対する制裁が金融の安定性を脅かしかねないという一層の危険をはらんだ新たな段階に入りました。


アップデート:本アップデートの公表後、ロンドン金属取引所(LME)は、前例のない変動の中で、3月8日に実行された全てのニッケル取引を取り消すことを決定しました。LMEのデータによると、ある市場参加者が単独でLMEのニッケル在庫の50%~80%を握っており、1件の巨額のロングポジションと複数の多額のショートポジションとの間で容赦のない争いが生じていたようです。ロイターの記事へのリンクはこちらです。



ロシアによるウクライナへの一方的な侵攻を受けて、様々な市場で混乱が続いています。とりわけコモディティセクターでは、欧米による制裁強化を受けて自主制裁が拡大し、ロシアからの供給はますます制限されています。その結果、ガス・石油をはじめ、各種の工業金属、小麦などの主要作物に至るまで様々な主要コモディティに影響が広がっています。ウクライナは、広大な肥沃な土地が穀物生産に適していることから、しばしば欧州の穀倉地帯と呼ばれていますが、港が閉鎖されたために、小麦、大麦、トウモロコシなどの主要食糧品の輸出ができず、サプライチェーンは崩壊しています。

大規模な自主制裁が拡大するのに伴い、ロシア産の原材料は、関わるべきでない有害なものとして扱われることが増えています。最近の例では、3月8日に、Shellがロシア産原油のスポット購入を全て停止することを発表しました。この決定は、3月4日に同社が大幅に値引きされたロシア産原油の購入を決定したことに伴う騒動に対応したものです。

こうした動向により、個別のコモディティの価格上昇は以下の表のような極端な状況になっています。

ロシアに制裁を課すという欧米の決定により、発表された制裁の対象ではないガス・石油などの市場で大規模な自主制裁が生じており、それに伴い、「オフライン」のロシア産の原材料と、他の生産国から調達された原材料との価格の乖離が大きくなっています。こうした動きを背景に、世界最大のコモディティ生産国に対する制裁が金融の安定性を脅かしかねないという一層の危険をはらんだ新たな段階に入りました。

Credit Suisseが最近公表した記事で、Zoltan Pozsar氏は次のように述べています。「地政学的な領域への侵略国は制裁を課されており、制裁主導のコモディティ価格の変動が欧米の金融の安定性を脅かしています。証拠金には十分な担保があるのでしょうか?証拠金の信用は十分でしょうか?もし市場参加者が不履行に陥ったら、商品先物取引所はどうなるのでしょうか?」

まさに今、このような段階に入っています。ロシア産かどうかに関わらず、コモディティをロングにしていて、それに対する先物のショートポジションを持つ場合、そのリスクをカバーするために証拠金を差し入れる必要があります。コモディティの取引は比較的穏やかな傾向があり、価格変動は個々のコモディティの需給見通しと投機的関心に左右されます。

ここ数週間に見られたような変動により、市場は一変しました。ショートポジションの強制決済を防ぐために先物取引所がますます多くの担保を要求するようになったため、金属、エネルギー、農産物の将来の生産高をカバーするヘッジとして先物を売っていた生産者は突然、一層の窮地に陥りました。

スライドの出所は最近のデイリーポッドキャストです。Saxo Market Callで検索すると見つかります。

Source: Saxo Group

こうしたメカニズムが主な原因となり、ここ数日で、欧州のガス価格が一時、原油換算1バレル当たり630ドルを付け、ニッケルはロンドン金属取引所での売買停止前に1トン当たり10万1,000ドルと4倍に値上がりしたほか、シカゴ商品取引所(CBOT)の小麦が5日連続で値幅制限いっぱいまで上昇するといった状況が起こったと考えられます。

言い換えると、これらの急激な変動は、投機筋の主導である可能性は低く、実需家が価格変動を相殺し、将来の生産の利益を確定するために先物により収入を管理しようとしたことによるものだったということです。また、ニッケルの場合のように、ロシア企業からニッケルを購入し、その後、先物で価格リスクをヘッジしていたケースもあります。このような市場参加者は現在、異常な追加証拠金に追われているだけでなく、最初の売りのきっかけとなった現物金属を受け取れない可能性もあります。

やはり、Zoltan氏が述べた通り、欧米の金融の安定性を脅かしかねない状況だということです。本来は非常に収益性が高い企業で、追加証拠金による多額の損失が生じていることが既に報道されています。この状況が解消されるまでは、市場全体のボラティリティは非常に高水準にとどまるでしょう。

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