商品
オーレ・ハンセン
コモディティ戦略責任者(Saxo Group)
サマリー: 今週(10月17日の週)、商品価格は幅広く下落しました。その方向性を左右した大きな要因は、米国債金利がイールドカーブ全体にわたって再び上昇したことです。トレーダーが、米FRBがインフレ抑制のために金利引き上げを通じてどの程度の痛みを市場に与えようとしているのかを、再評価せざるをえなくなったためです。天然ガス、綿花、コーヒーを中心に弱含みとなりました。
今週(10月17日の週)、商品価格は幅広く下落しました。その方向性を左右した大きな要因は、米国債金利がイールドカーブ全体にわたって再び上昇したことです。米10年債利回りは4.33%に上昇し、2007年以来の水準となりました。米FRBがインフレ抑制のために金利引き上げを通じてどの程度の痛みを市場に与えようとしているのかを、市場が再評価せざるをえなくなったことが、このような展開につながりました。
ドル円はほぼ横ばいで推移しましたが、日本円は1ドル150円台で推移しました。これは、米国債利回りと日銀がコントロールする10年物日本国債の上限金利0.25%との差が拡大したことによるものです。米国債利回りの上昇はFRB高官によるタカ派的な発言を受けたもので、市場では、2023年初頭に政策金利のピークが5%に達する、すなわち現在の金利からさらに1.75%上昇するとの見方が広がっています。
下のグラフに見られる通り、商品セクター全体のマイナスは幅広く、全てのサブセクターが下落に見舞われました。ブルームバーグ商品指数は、エネルギー、金属、農産物の主要商品バスケットで構成されますが、2.5%下落し、3月の安値付近で推移しています。この軟調な展開は主に天然ガスに牽引されたもので、8月以降40%以上下落しました。年初来では50%以上上昇しており、目標ウエイト8%に対して12.6%と過大なウエイトを占めています。
欧米のガス価格は週次で下落
米国の天然ガス価格は、冬を前に予想以上のペースで備蓄が増え続けていることから、1991年以来、最も長い期間にわたり、週次ベースで下落しています。秋の温暖な気候と生産量の増加を背景に、11月限は週次で20%以上下落し、全体では8月のピークから45%以上下落しています。また、6月8日に発生したフリーポートLNG輸出ターミナルの爆発事故により、輸出が減少し、在庫が異常に積みあがっていることも背景にあります。総在庫は3342億立方フィートまで増加し、5年平均を5%下回りました(4月時点では17%)。
欧州では、ベンチマークであるオランダTTFの価格が1週間にわたって暴落し、一時は100ユーロ/MWhに近い水準で取引されていましたが、これは1月に入り冬の需要見通しが明確になるまで到達することはないと考えていた水準です。スポット価格が9月以降に半値以下となった要因は複数ありますが、最も明白なのは、欧州の消費者と産業界が懸念していた6か月間に不足が全く生じなかったことから、価格が300ユーロ/MWhを上回る理由がなかったからです。それ以外に、ガス価格が下落しているのは以下の理由によります。
• ガス貯蔵庫にはほぼ十分な供給量がある状態。
• 秋が穏やかな気候で始まったことと、消費者や産業界の需要削減が重なった。
• LNG船は現在、供給過剰となっている市場向けの貨物を積み込むために列をなしており、この状況では価格がさらに押し下げられる可能性がある。
• ロシアのガスプロムが市場を揺さぶる力は、現在稼働している2つのパイプラインだけで、その影響力は低下している。
• EU首脳は、エネルギー危機を緩和するために、価格上限を設定するさらなる取り組みを支援することに合意した。
これからの冬を乗り切る上での最大のリスクは、価格が下落している中で、消費者がどの程度、需要を抑制しても満足するかという点です。
原油は、業績と留出油在庫の減少に注目し、レンジ相場が続く
原油相場は、需給に関する複数の不確定要素により、比較的狭いレンジ内に固定されたまま中立的な状態が続いています。先週見られた小幅な弱含みは、米金利が急速に上昇を続ける中での景気後退リスクによるものです。しかし、原油と関連燃料製品の価格は、OPECプラスによる供給削減とEUによるロシア産原油への制裁措置の実施により、今後数か月間、供給不安による逼迫状態が続くというリスクによって、引き続き支えられています。
この逼迫感は先物価格カーブの形状からも明らかで、原油のバックワーデーションが顕著になっているのは、即納品可能な原油への需要が著しく高いことを示しています。例えば、2022年12月限と2023年3月限のスプレッドは1バレルあたり5.3ドルと、過去約2か月で最も大きくなっています。逼迫感という点では、北半球の製品市場が中心であり、軽油や暖房油の供給不足が引き続き懸念されています。
OPECプラスが来月から減産することを決定したことで、状況はさらに悪化しています。米国産(ライトスイート)原油の戦略備蓄からの継続的な放出がガソリン生産を支える一方、OPECプラスの減産は主に、留出油の生産量が最も多い中・重質原油を生産するサウジアラビア、クウェート、UAEが行います。
来週は、欧米の石油・ガスメジャー5社(合計時価総額1兆ドル以上)の四半期決算が注目されます。シェルとトタルエナジーズの決算は木曜日(10月27日)に、中国のペトロチャイナと同日に発表され、エクソン、シェブロン、エクイノールは金曜日(10月28日)に決算を発表する予定です。市場は、それぞれの需要見通しと、新規供給への支出を求める政治的圧力の高まりが投資意欲の改善につながるかどうかに注目することになります。 米国利回りの再上昇にもかかわらず、金は支持線上を維持
今週は、米国債利回りの急上昇と、FRBがインフレを抑制するのに十分な水準であると確信するまでにFF金利がどこまで上昇するかという市場の予想を受け、金は下落しました。利回りの上昇は貴金属にとって引き続き大きな逆風となりますが、金が今のところ9月の安値であり、2018年から2020年の上昇の50%リトレースメントである1617ドルの支持線上を維持できているのは、非常に厳しい地政学的状況が要因である可能性が高いと思われます。
しかし、こうした懸念は、金を裏付け資産として保有するETFからの資金流出を防ぐことはできず、先週はその傾向が強まりました。ドルが安全資産であることから、一部の投資家は米国の短期債に価値を見いだし、2年債の利回りは4.6%に近づいています。
今後については、金に対する長期的な強気の見方を変える理由はないと思われ、政策の誤りによって米国の経済成長、ドル、債券利回りが低下するリスクが、金のサポート要因になる可能性があります。さらに、長期的なインフレ水準が、現在市場に織り込まれているよりも高い水準になる可能性を当社では懸念しています。長期インフレ率を市場予想水準まで引き下げられない場合、ブレイクイーブンインフレ率の上昇と実質金利の低下という、金にとって有利な大きな調整が起こる可能性があります。米国の金利期待がいつ低下し始めるかが明らかになるまで、貴金属市場はディフェンシブな取引になると思われます。
消費者の消費抑制で綿花とコーヒーが下落
ブルームバーグ商品エネルギー指数の天然ガスが低迷しているほか、世界の消費者の健全な消費行動に依存している綿花とコーヒーが下落し、ソフトコモディティセクターが大幅に下落しています。綿花は5月以来、42%下落し、主要な出荷国の一つである米国では、特にアジアの主要なバイヤーからの輸出需要が前年比で減少し、需要縮小によるマイナスの影響を受けています。アディダスやその他の衣料品メーカーでは、欧米の主要市場における消費者需要の減少により、在庫が増加しています。
このような動きは、これまで供給が逼迫する中、景気後退の嵐を乗り越えてきたコーヒー価格にも影響を与えつつあります。先週、アラビカコーヒー価格は、需要の減退と世界最大の輸出国であるブラジルの供給見通しに対する懸念の減少が重なり、13か月ぶりの安値をつけました。