WCU: 商品相場の方向性について中国共産党大会に注目

商品
オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  中央銀行による積極的な利上げを通じたインフレ抑制策により、世界経済がこれまで以上に深刻な減速に陥るとの懸念がある中、原油や燃料製品に代表される商品セクターは引き続き堅調に推移しました。市場は引き続きドルや国債利回りの動向を注視し、景気の先行きを見極めようとしていますが、世界最大の原材料消費国である中国および同国の5年に1度の中国共産党大会にも注目されます。需要を下支えするような材料が出てくるかもしれません。


中央銀行による積極的な利上げを通じたインフレ抑制策により、世界経済がこれまで以上に深刻な減速に陥るとの懸念がある中、原油や燃料製品に代表される商品セクターは引き続き堅調に推移しました。特に欧州では、ロシアとの「ハイブリッド戦争」によってガスと電力の価格が急騰しています。これは、2023年2月に実施されるロシアからの燃料供給停止を控えて懸念が高まっているためです。

第4四半期は全体として堅調なスタートを切り、ブルームバーグ商品指数は3%以上上昇しました。これは主にOPECの動向に支えられた原油と燃料製品の上昇によるもので、特に留出油は在庫が少ないため、ニューヨークの製油所のマージンが記録的に上昇しています。

米国のインフレはまもなく鎮静化し始めると予想され、それにより、ドル高で打撃を受けた世界経済が幾分回復すると思われますが、市場は少なくとももう1か月待つ必要があるでしょう。9月の統計が予想を上回ったためです。米国の消費者は依然として消費を続けているため米国のFOMCが強気で利上げを行う一方で、他の国は弱気での利上げを余儀なくされ、ドル高が支えられるという構図が続くでしょう。これは、タカ派的政策がピークに達し、米国債利回り(ここでは2年債に注目、現在15年ぶりの高水準)とドルが低下し始めるまで続くでしょう。

ロシアのウクライナ戦争と、プーチンの行動に対抗するために欧米がとった行動は、小麦、アルミニウム、軽油などいくつかの商品の価格を引き続き支えており、それによって需要減速の潜在的リスクが相殺されています。さらに、サウジアラビアとロシアが主導するOPECプラスが、世界経済の見通しをさらに悪化させるリスクがあるにもかかわらず減産を決定したことが、原油価格の力強い回復を支えています。

一方、工業用金属セクターは、中国のロックダウンの影響で需要が減少し、1年半ぶりの安値近辺で足踏み状態が続いています。しかし、この2週間ほどで市場は均衡を回復してきました。中国の顕著な在庫水準の低下は需要の回復を示し、ロシアの工業用金属産業に対する制裁のリスクはアルミニウムと他の金属の供給を低下させる可能性があります。

中国と5年に1度の中国共産党大会に注目

中国共産党は10月16日、5年に1度の中国共産党大会を開催します。世界最大の原材料消費国である中国の重要性を考えると、その決定は商品トレーダーにとって注視すべきものです。世界経済の成長に対する一般的なリスクとは別に、価格低迷のもう一つの原因は中国にあります。中国政府はゼロコロナ政策を堅持しているため、成長率と消費は低下しており、不動産危機も経済の先行きを不透明にしています。

焦点は、10月16日に行われる習近平総書記の「第19期中央委員会工作報告」発表時の演説となるでしょう。市場は、習近平指導部と報告書に、中国が経済低迷から脱却するための道筋を期待しています。しかし、今週は人民日報が3日連続でゼロコロナ政策を支持する論説を掲げたため、ゼロコロナ政策を緩和するのではないかという期待は後退しています。とはいえ、市場は、主にインフラやエネルギー転換プロジェクトなど、工業用金属セクターを支える追加的な景気刺激策を求めるでしょう。

商品セクターは大幅な調整局面を経た後も依然として逼迫感

ボラティリティの上昇や流動性の低下など、様々な不確定要素が年末に向け、ほとんどの商品に影響を与え続けるでしょう。不況の足音はますます大きく鳴り響くと思いますが、2023年に回復する前に、このセクターが大きな後退に見舞われることはないでしょう。エネルギー、金属、農業の3つのセクターすべてにおいて、主要商品価格の安定または上昇の可能性があり、制裁、上流コストインフレ、悪天候、投資意欲の低迷、軽油、ガソリンから穀物、工業用金属にわたる多くの主要商品における逼迫が続くと予想されます。

原油相場は政治と需要懸念を乗り切る

原油相場は、OPECプラスが11月からの日量200万バレルの減産を決定したことを受けて、需要懸念の高まりから週明けに軟化したものの、月初には上昇に転じました。この決定は時期尚早でタイミングが悪いと消費国から激しく非難され、国際エネルギー機関(IEA)は月報で、減産は世界のエネルギー安全保障のリスクを高め、価格上昇とボラティリティの上昇につながり、すでに不況の瀬戸際にある世界経済をさらに悪化させる転機になりうると異例の批判を行いました。

サウジアラビアは減産を余儀なくされている一握りの生産国の一つであり、ロシアの輸出禁止を目前にしたこの動きは、世界最大の輸入国である中国を含む世界の消費者を犠牲にし、ロシアに利益をもたらすと見られています。しかし、OPEC、EIA、IEAはいずれも2023年の需要見通しを下方修正し、この決定をある程度支持する形となりました。しかし、来年の需要縮小についてはまだ言及されておらず、投資不足と高コストの中で苦戦しているロシアや他の生産者からの供給リスクが続いており、景気減速の中での価格上昇のリスクが残っています。
 
Source: Saxo Group
 

原子力需要の波

カナダのウラン鉱山会社カメコとブルックフィールド・リニューアブル・パートナーズは今週(10月10日の週)、原子力発電産業の担い手であるウェスチングハウス・エレクトリックを79億ドルで共同買収すると発表しました。ウェスチングハウス・エレクトリックは、世界の440基の原子炉の約半分に使用されている技術を製造しており、同社が4年前の米連邦破産法適用から再建されたばかりであることを考えると、この業界がいかに変化したかを示しています。

カメコのCEOはインタビューで、原子力エネルギー分野の市場ファンダメンタルズはこれまでで最も良好であると述べました。さらに、ロシアのウクライナ侵攻を機に、ヨーロッパ、特に東欧からの需要の「波」が来ているとしました。世界原子力協会によると、建設中の原子炉は55基(計画中の原子炉を考慮すると90基)で、そのほとんどがアジアで建設されており、既存の440基の原子炉を補うものとなります。今年、原子力発電所は世界の電力の10%を生産することになります。こうした動きが加速すれば、石油需要のピークが近づく可能性があります。

金と銀は条件が揃うのを待っている状態

金と銀は、積極的な利上げでインフレを抑制しようとするタカ派的な中央銀行の行動から数か月にわたって圧迫されていましたが、米FRBがタカ派のピークに近づいているとの見方から、最近になって買いが入っています。ショートスクイーズは時期尚早であったことが明らかになりましたが、潮目が変わった時の価格上昇の可能性を示唆しています。米国債利回りがピークに達し、そこから下降に転じると市場が感知したときです。

しかし、先週、米国の雇用統計が予想を上回り、さらに強い物価統計が示されたことで、米FRBによる追加利上げの必要性とリスクが強調され、政策転換のタイミングがさらに遅れることになりました。これらの動きから、米FRBが示しているタカ派的なスタンスの転換を裏付けるような弱い兆候がないか、インフレと経済データに引き続き注目することが引き続き重要となっています。最新のインフレ指標に先立ち、ブレイナード米FRB副議長は、世界経済と金融環境の不透明感が強い中、これまでに実施した利上げはまだ経済に効果を及ぼす過程にあるとし、慎重姿勢の重要性を主張しました。

今後については、金に対する長期的な強気の見方を変える理由はないと思われ、政策の誤りによって米国の経済成長、ドル、国債利回りが低下するリスクが、金相場を支える要因になる可能性があります。さらに、長期的なインフレ水準が、現在市場に織り込まれているよりも高い水準になる可能性が懸念されます。長期的なインフレ率を市場の期待値まで下げることができなければ、ブレークイーブン利回りの上昇と実質利回りの低下という大きな、そして金にとって有利な調整が生じるかもしれません。

米国と欧州におけるガス在庫の増加とガス価格の下落

米国の天然ガス価格は、8月に14年ぶりの高値となる1MMBtu当たり10ドルを記録した後、低迷が続いています。これは、生産量の増加と堅調な需要に支えられ、冬の需要期を前に米国内の在庫が急速に増加したためで、2001年以降で最も長い週次ベースの下落が続いています。ここ数週間、生産量は常に日量1,000億立方フィートを超え、前年同期比約7.5%増を維持しており、需要とLNGによる輸出が堅調なことから、5年平均に対する在庫の不足率は4月の18%からわずか6.4%に縮小しています。
 
Source: Saxo Group
欧州では、エネルギー危機が続いています。しかし、過去3か月間に欧州全域でガス在庫が急速に増加したため、今冬の供給不足のリスクは緩和されつつあります。ロシアへの供給依存度を下げる必要性から、LNGに対する需要は旺盛で、特に中国の景気減速により、アジアからの貨物に対する競争が低下していることがそれを後押ししています。

ロシアの供給量は昨年のこの時期に比べて80%減少していますが、市場を混乱させる力はかなり弱まっています。消費者と産業界の需要削減に支えられ、暖房シーズンが穏やかな天候で始まったこと、そして特にノルウェーからの輸入とLNGの供給が好調なことから、貯蔵量はフル稼働の91%まで急速に増加しています。その結果、ガス価格の指標となるオランダTTFは今月20%下落し、150ユーロ/MWhを割り込みました。しかし、配給制の継続を支えるため、需要の見通しが明確になる冬の最も寒い時期が来るまで、100ユーロに向けてさらに大きく下落する可能性は低いと思われます。

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