WCU:商品価格の調整は一巡

WCU:商品価格の調整は一巡

商品
オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  一部の商品では3月に調整が始まっていましたが、7月末以降は反転の兆しを見せ始めています。最近の経済データの強さ、ドル安、インフレがピークアウトした可能性を示す兆候に後押しされた動きです。広範なポジション調整が一巡し、焦点は、供給が多くの面で依然として逼迫しているという点に戻ったため、特にエネルギーと主要農産物のセクターにとって再びの追い風となっています。


一部の商品では3月に始まっていた調整が、7月末以降は反転の兆しを見せ始めています。ブルームバーグの商品セクター指数で見ると、この調整局面では、工業用金属が41%、穀物が31%、エネルギーが27%と、ピークからボトムへの下落が生じました。記録的な高騰の後に大幅な調整が生じた主な理由は、供給逼迫から需要懸念に焦点が移ったことにあります。

中国ではゼロコロナ政策により成長見通しが鈍化しており、住宅市場危機が工業用金属に打撃を与えている一方で、世界中の中央銀行が積極的な金融引き締めで経済活動を抑制し、暴走するインフレを鎮静化する努力を続けています。このプロセスは現在も続いていますが、最近の経済データの強さ、ドル安、インフレがピークアウトした可能性を示す兆候により、過去数週間、場合によっては数か月にわたって急落していた相場が支えられています。また、金融トレーダーによる大量のロングポジションの清算や、景気後退に対するヘッジを図りたいマクロ志向ファンドからの売りも落ち着きをみせています。
 

成長への懸念にも関わらず反転の動きが依然として高まっている

先物の取引開始1か月間の動きを通じて見られるスポット商品価格の動きは、個々のファンダメンタルズの状況ではなく、テクニカルな価格主導の投機筋や、マクロ経済動向を注視するファンドに左右されることが多く、ファンダメンタルズの全体像が見えることは稀です。その結果、強気筋の動きが縮小しましたが、景気減速に対するヘッジを目的としたファンドからの売りも増え、積極的な売りがかさんだ時期がありました。

景気減速、最悪の場合、不況となれば、需要の低迷に対して生産調整が遅れるため、通常、原材料の余剰が生じます。しかし、過去3か月間の売り局面では、即納商品のコストが後納商品の価格を上回る健全なプレミアムが維持されていました。下図は直近限月先物と12か月先物のスプレッドをパーセントで測定したもので、逼迫感は少し和らいだものの、特にエネルギーと農業の多くにおいて逼迫感が見られます。現実よりも期待で売られたことの表れで、成長見通しが安定すれば力強く回復する可能性が高まります。

原油

過去2カ月間のWTI原油とブレント原油における下落トレンドは、供給に対する懸念が続く中、市場が需要見通しを再考し、今後はどこが需要を満たすのか、また満たせるのかという点を巡る思惑も加わって、反転の兆しを見せています。今週、ブレント原油が95ドル、WTI原油が90ドルを下回る水準から回復したのは、米国のインフレ軟化の兆しに伴い、FRBの政策金利のピーク水準が低下する可能性や、それによって成長見通しが改善する可能性があるとの見通しが広がったためです。さらに、ドル安と需要の改善、特に米国ではガソリン価格が3月以来初めて1ガロン当たり4ドルを下回りました。

また、国際エネルギー機関(IEA)は、世界の石油需要見通しを380kb/d上方修正しました。電力需要が旺盛な中でガス価格が高騰し、電力会社が高価なガスから化石燃料への切り替えを進めているためとしています。一方、OPECは余剰生産能力の限界から、今後数か月間、増産に苦戦する可能性があります。ここ数か月、需要の弱さが目立つようになりましたが、それが、原油価格が全般的に堅調に推移するとの当社の見通しに重要な影響を与えるとは考えていません。

供給サイドの不確実性は依然として無視できないほど高まっています。その不確実性の要因は、米国の戦略的備蓄原油の放出が間もなく期限を迎えることや、EUのロシア産原油の禁輸措置にあります。この点を考慮し、当社は第3四半期の95ドルから115ドルレンジの見通しを維持しています。

金(XAUUSD)

下方圧力にさらされていたイエローメタルは最近、4週連続で上昇しました。米国のCPIとPPIが予想を下回り、FRBの金利引き上げ観測が後退したことに伴うドル安が支援要因となりました。しかし、株価や債券利回りの上昇に見られるように、リスク選好度が高まっているため、イエローメタルは1,800ドル/オンスの主要レジスタンスを突破して上昇することが出来ず、最近のETF保有額の減少とCOMEX先物の建玉が低水準で推移しているのは、市場が、新しい決定的なきっかけを求めていることを示唆しています。インフレは適切にコントロール可能であるとする市場の楽観論は依然として楽観的すぎであると当社は考えており、幾つかの地政学的な懸念もあることから、ヘッジおよび分散投資手の金に対する長期的な強気の見方を変更する理由はないと考えています。

金は1783ドルの50日移動平均線でいくつかのサポートラインがあり、短期的に新規のロングポジションの清算を回避するためには1760ドルを維持する必要があります。1800ドルのすぐ上に抵抗線がありますが、ETFや先物運用勘定の新たな買いを呼び込むモメンタムを醸成するには、1829ドルを決定的に上回る必要があります。
 
Source: Saxo Group

工業用金属(銅)

銅は先月20か月ぶりの安値を付けてから約18%回復し、最近の調整局面で最も大きな打撃を受けた工業用金属セクター全体の回復を支えています。ドルの軟化、米国経済の堅調さを示すデータ、中国の需要見通しに対する懸念の緩和、そして取引所がモニターする在庫が10年来の低水準にあるなかで、特にアジア、ヨーロッパ、南米での生産者の混乱から供給が抑制される可能性があることが、価格支援要因となっています。このような状況により、投機筋は最近構築したショートポジションを削減せざるを得なくなりました。

中国の需要見通しが改善する可能性があり、BHPが最近、OZミネラルに対する買収提案を行いました。BHPはOZミネラルズを傘下として、ニッケル・同事業の拡大を図る方針です。これは、エネルギー転換に不可欠な金属の供給を確保することを目的とした、世界規模の一連の買収の最新の動きです。銅は高い電気伝導性を持ち、スマートフォンから医療機器まで、私たちが使用するあらゆる電子機器を支えています。銅はすでに既存の電力システムを支えており、化石燃料由来のエネルギー需要を削減するために今後必要とされる電化プロセスに欠かせないものです。

銅価格は、6月初旬に中国がロックダウン規制を緩和し始めると同時に一時的に回復しましたが、すぐに勢いを失って主要なサポートラインを下回り、最終的には2020年から2022年の61.8%リトレースメントの$3.14/lb.でサポートラインを見つけ、安定的に推移しています。そのぞ、価格は力強く回復していますが、$3.70/lb付近の抵抗線に到達すると、一時的に動きが止まる可能性があります。当社は銅に対して長期的に強気の見方を維持しており、上昇局面での売りより、押し目買いが望ましいと考えています。
 
Source: Saxo Group

穀物セクターは、金曜日に発表される米国農務省の需給報告を前に、5週間ぶりの高値で取引されました。ブルームバーグ穀物指数は6月から7月にかけての28%の調整から回復を続けており、先週は小麦とトウモロコシが、ドル安と、特に米国での高温で乾燥した天候と欧州での新たな熱波が収量と生産に対する懸念から上昇しました。まもなく収穫期を迎える作物の収量動向にとって重要な時期に暑くて乾燥した天候が続いたため、世界農産物需給予測報告書に注目が集まり、収穫量減少の見通しから来る冬の在庫水準への期待が低下し、価格支持要因となりました。

綿花は、今月8%上昇しましたが、中国の成長・需要懸念から、米国と中国の熱波が生産見通しを悪化させ、世界の供給懸念が強まっていることに焦点が移っています。金曜日に発表される米国農務省の月次需給報告(WASDE)では、米国の生産量の減少により期末在庫が約10%減少し、11年ぶりの低水準となる220万俵になると予想されています。

アラビカコーヒーは、2月以降下落傾向にあったが、先月$2/lb以下の主要なサポートラインから跳ね返って以来、着実に上昇しています。南米の生産懸念が根強く根底にあり、現在のオンシーズンの収穫が2014年以来最低となる可能性があることから、過去数週間の間に再びサポートされるようになりました。ブラジルの干ばつと寒さで昨シーズンの開花が抑制され、2021年7月の厳しい霜で農家のコーヒーの木が切り倒され、特に肥料などの農業投入物のコストが高くなった時期でした。また、もう一つの主要生産国であるコロンビアでは、高い降雨量のために収穫量が減少しています。

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