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コモディティ戦略責任者(Saxo Group)
サマリー: 前四半期にBloomberg Commodity Spot index が記憶に残る中で最も急激な上昇を達成した後、ここ数週間はコモディティセクターの上昇は鈍化してきました。ウクライナでの戦争とロシアに対する制裁の強化を受けて、原油・ガスをはじめ、小麦、トウモロコシ、食用油などの食糧コモディティ、主要工業用金属に至るまで、様々な供給経路が断たれてきました。戦争が長引き、戦闘が一時的に沈静化する中で、市場の関心は需要減少というテーマに移っています。現在、このテーマの原動力となっているのは、いくつかの短期的な動向と、それより多くの長期的な動向です。
コモディティセクターに影響を及ぼす様々な動向が引き続き市場で消化されるのに伴い、ここ数週間にはコモディティの上昇は当然ながら鈍化してきました。第1四半期には、既に好調に推移していたコモディティセクターに戦争と制裁が拍車をかけました。その結果、Bloomberg Commodity Spot Indexは24%上昇し、記憶に残る中では最も大幅な上昇を達成した四半期となりました。2000年以降年間で最も大幅な上昇となった2021年の26.5%の上昇率に迫っています。
ウクライナでの戦争とロシアに対する制裁の強化を受けて、原油・ガスをはじめ、小麦、トウモロコシ、ひまわり油などの食糧コモディティ、主要工業用金属に至るまで、様々な供給経路が断たれてきました。こうした動向を受けて、多くの産業が物流の問題と投入コストの上昇に見舞われ、エネルギーを大量に消費する産業では生産が削減され始めました。このような動きにより、需要減少による価格の安定化に向けた苦しく長い道のりが支えられています。
今年もウクライナからの供給断絶が続く見通しであることに加え、米国や南米の天候不安、燃料と肥料のコスト上昇もあり、需給逼迫はもう1年続く可能性が高そうです。ウクライナのUkrAgroConsultによれば、主要産地の一部で軍事行動が行われ、供給ラインが閉鎖され、燃料不足が生じた場合、小麦の収穫高は前年比38%減の1,980万トン、トウモロコシの収穫高は前年比55%減の1,900万トンに減少する可能性があるということです。米国では、乾燥土壌により冬小麦の収穫高が過去10年間で最低の水準に落ち込んだ一方、南米では、肥料コストの高騰が作物生産に悪影響を与える可能性があります。
4月4日からの週には、FRBが利上げと量的引き締めに一段と積極的な姿勢を示したことを受けて、ドル高が進み、国債利回りがサイクル中の最高水準まで上昇したにもかかわらず、金には引き続き買いが入り、金価格は横ばいで推移しました。我々は、金の強気見通しを維持しています。FRBがタカ派姿勢を強めていることや、通常時の米国の実質利回りとの強い逆相関が崩れたにもかかわらず、金に新たな買いが入っていることから、最近、金に対する強気の見方が強まっています。
しかし、全体的にみると、金価格は1,890ドルから1,950ドルの広いレンジ内の動きにとどまっています。経済成長率の鈍化、インフレ率の高止まり、債券市場と株式市場のボラティリティの持続といったリスクに対する金ETFによるヘッジを求めているアセットマネージャーと長期投資家が、先物市場における空売りを相殺している状況です。金銀レシオは78を超え、金と比べたプラチナのディスカウントが1オンス967ドルと17ヶ月ぶりの高水準にあることから、相対的にもたついている銀とプラチナの価格が再び押し上げられなければ、金価格が新たな上値を目指すのはまだ難しそうです。いわゆる「グリーンメタル」を代表する銅は、他の工業用金属から引き続き追い風を受けています。最近では、供給不足が懸念される亜鉛が、特にLME在庫が非常に低い欧州で値上がりしています。世界最大の銅生産国であるチリの生産量が1月に前年比7.5%減となったのに続き、2月には前年比7%減少して399,817トンとなったことを受けて、銅は4月4日からの週には1ヶ月ぶりの高値近辺で推移しました。
今後数ヶ月は、需給逼迫の見通しとグリーントランスフォーメーションにより、引き続き銅価格は下支えされる見込みですが、現在、市場は中国のネガティブな動向に対処する必要があります。中国では、新型コロナの大流行に対処するための厳しいロックダウンにより、経済成長見通しが政府の当初の予想以上に悪化すると見られています。新型コロナウィルスの懸念が解消すれば、中国政府は経済成長を促すための追加的な刺激策に踏み切る可能性が高く、そうなれば、物価高騰と米国FRBによる金融引き締めの加速による他国の経済成長率の低下の影響は一部相殺されるはずです。
銅(HG)価格は、3月に1ポンド当たり5ドルを超える史上最高値を付けた後、1ポンド当たり4.5ドルに戻し、その後、再び上昇に転じています。銅の見通しは依然として良好であり、供給不足が景気減速リスクを相殺すると見られます。我々は、年内に銅が過去最高値を更新するという強気の見方を維持します。短期的には、現在1ポンド当たり4.41ドルに相当する200日移動平均を割り込んでも、当社の強気の見方が損なわれることはなく、ボックス圏の動きが長引くだけです。
ガス市場では、米国とEUの相場が反対方向に進んだため、長らく待たれていた両市場の価格差の縮小が促されました。米国ヘンリーハブは、季節外れの寒波による旺盛な国内需要および活発なLNG輸出需要により、百万BTU当たり6.50ドル近い2008年の高値に達しました。天然ガスの在庫は4月4日からの週に330億立方フィート減少して5年平均を約17%下回り、2019年以来最も大幅な乖離となっています。一方、欧州では、温暖な気候と記録的な水準のLNGの輸入に加え、ロシア産ガスの禁止に消極的であることから、オランダ産TTFガスは値下がりしていますが、1MWh当たり108ユーロ(百万BTU当たり34.5ドル)と高止まりしており、引き続き需要に悪影響を及ぼす水準にあります。ドイツを筆頭に欧州がロシアへのガスの依存を転換する中で、海外から記録的なLNGの供給を呼び込むために、今後数ヶ月はガス価格は高値にとどまる必要があります。
原油は、数週間にわたり乱高下し、過去最高に近い価格水準をつけた後、値下がりしてきました。4月4日からの週には、12月の安値からの上昇トレンドを割り込んだ後、ウクライナ侵攻をきっかけとする上昇分の大半が解消しました。市場の関心が、少なくとも当面は、ロシア産原油を失ったことから離れた理由はいくつかあります。
一時的な要因を含めて、主に以下の4つの要因があります。すなわち、1)EUが追加的な制裁対象リストにロシア産の原油を追加することを回避したこと、2)中国で新型コロナの感染が拡大し、ロックダウンが長期化していることで、ディーゼル油やジェット燃料をはじめとする燃料需要が一時的に落ち込んでいること、3)物価上昇と景気減速の見通しを背景に、FOMCがインフレ対策を強化していることで需要が打撃を受け、米国のガソリン需要が鈍化していること、4)米国およびその他の国際エネルギー機関の加盟国が保有する戦略石油備蓄から数百万バレルの原油が放出されることです。
戦争は続いており、追加的な制裁やロシアによる行動のリスクがあることから、原油価格の下落リスクは依然として限定的だと思われます。最近発表した当社の「 Quarterly Outlook(四半期見通し)」では、今四半期は石油価格が90ドル~120ドルのレンジ内で推移する可能性がある理由と、今後数年間にわたり構造的な問題(最も重要なのは投資不足の水準が続いていること)が価格の下支えとなる理由について取り上げました。