コモディティ・ウィークリー:コモディティの上昇相場は終焉か

コモディティ・ウィークリー:コモディティの上昇相場は終焉か

商品
オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  コモディティ市場は、景気後退リスクの高まりやドル高、米国の債務上限問題、目先の米国金利の動向に対する疑念の高まり、そして中国の成長鈍化を裏付ける指標の増加など、依然として厳しい状況に直面しています。こうした最近の動向は、トレーダーや投資家に「コモディティのスーパーサイクルは始まる前に終わりを迎えつつあるのではないか?」という大きな疑問を抱かせています。当グループはコモディティ市場の長期的な見通しについてポジティブな見方を維持していますが、市場が今後一段の上昇に向かう前に、いくつかの重要な疑問をクリアする必要があると考えます。なかでも特に重要な点は、中国のコモディティ需要の方向性と、先進国経済の景気後退がどの程度の深さになるか、のふたつです。それらが明確になるまでの間、現物トレーダーは在庫削減に注力し、ヘッジファンドやその他の大口投機家はコモディティに対してディフェンシブなスタンスで臨むものと予想されます。


Global Market Quick Take: Europe
Saxo Market Call podcast


商品セクターは、景気後退リスクの高まりやドル高、米国の債務上限問題、目先の米国金利の動向に対する疑念の高まり、そして中国の成長鈍化を裏付ける指標の増加など、引き続き圧力に晒されています。実際、中国経済に対する悲観的な見方が強まっており、今月は足元で約7%下落している産業用金属が相場の下落を主導しています。一方、エネルギー部門は製油所の石油精製マージンが回復し始め、安定化の兆しを見せています。貴金属は、ドル高と利回り上昇とFRBの利下げ時期が後倒しになる中、銀の弱さを筆頭に、3ヶ月ぶりに月間ベースで下落に転じる見通しです

最近の動向は、トレーダーや投資家に「コモディティのスーパーサイクルは始まる前に終わりを迎えつつあるのではないか?」という大きな疑問を抱かせています。Saxo Market Callチームは、毎週配信している「Listeners’ podcast」で投資家に「金、銅、原油、小麦などの主要コモディティの年末までの相場見通し」について尋ねたところ、金が過去最高値を更新するという予想が回答の40%を占める一方、「上記のいずれでもない:コモディティは下落する」という予想は31%と、2番目に高い回答率となりました。

Source: Saxo Market Call survey question via SurveyMonkey

当グループはコモディティに対して長期的にポジティブな見通しを維持していますが、コモディティが今後一段の上昇を遂げるためには、いくつかの重要な疑問をクリアする必要があると考えています。ゴールドマン・サックスは最近のレポートで足元のコモディティ価格の下落は、リセッション懸念や金利上昇に伴う資金調達や保有コストの上昇によって、過去数年ぶりの大規模な現物在庫や金融ポジションの調整によって引き起こされたものであると指摘しています。しかし、コモディティの投機筋は大量の売り越しに転じた後、ロングポジションを巻き戻さざるを得なくなるため、景気後退が実際に起こらない限り、コモディティ市場はいずれ力強く反発する可能性も残されています。

米商品先物取引委員会(CFTC)とICE Exchange Europeの週報によると、ヘッジファンドやその他の報告対象者による主要金属・エネルギー先物取引の買い越しポジションは、ここ最近の原油、ディーゼル、銅の激しい売りによって、7年以上ぶりの低水準に落ち込んでいます。

Source: Saxo

当グループがコモディティ市場の長期的な見通しについてポジティブな見方を維持する理由は、旺盛な需要よりも逼迫した供給がその動向を左右すると考えるためです。私たちが注目する主なドライバーは以下の通りです:

  • 新エネルギーの活用に向けた工業用金属の需要の増加を支えるグリーン・トランスフォーメーション
  • 投入価格の上昇、鉱石品位の低下(採掘)、規制コストの上昇および政府介入、気候変動、ESG・投資家・融資規制による投資意欲の後退を背景とする主要コモディティの供給逼迫
  • 3-4%程度の構造的インフレが有形資産の需要を牽引
  • ドル安

全体的な動きとして、ブルームバーグ商品トータルリターン指数(エネルギー、金属、農業に均等なウェイトで配分された主要24商品先物契約のパフォーマンス)は、前月比で約4%、前年同期比で約10%下落しており、銀、銅、原油が最も下落したコモディティとなり、リターンがプラスとなったのはココア、ガソリン、トウモロコシ、綿のみにとどまりました。一方、EUの天然ガスは今月に入って36%以上下落し、足元で24ユーロ/MWh(7.6ドル/MBtu)近辺で取引されています。これは、ロシアの供給削減によるエネルギー危機が深刻化していた昨年今頃の90ユーロ/MWh(28ドル/MBtu)近辺から大きくかけ離れています。

Source: Saxo

今秋、EUのガス価格はマイナスに転じる可能性も

昨年8月に350ユーロ/MWh(110ドル/MMBtu)を上回るという極端な価格上昇の後、欧州市場では、在庫が急速に積み上がる一方で需要がこのまま低迷し価格下落が続けば、この秋にも日中のガス価格が一時的にマイナスに転じる可能性があり、今後の動向に注目が集まっています。英国のように貯蔵量が限られている国では、天然ガスの短期契約価格が一時的にゼロを下回る可能性が高くなります。現在、欧州の総在庫量は67%近くに達しており、足元の需要低迷とパイプラインやLNG生産による活発な供給ペースが続けば、9月か10月には貯蔵容量はフルに達する可能性があります。冬の需要がどの程度早い時期に本格化するかにもよりますが、極端な場合、価格が10ユーロ/MWhを下回ることもあり得るでしょう。

 

長期的な追い風をよそに銅価格は低迷

銅価格は低迷し、LME銅は11月以来初めて1トン当たり8000ドルを割り込み、その後7800ドル手前で手掛かりを見つけて反発しました。ニューヨークで取引されている高品位の銅先物取引は、予想を上回る米国の経済指標を受けて新たな買いが入る前に3.54ドル/ lbの支持線に達しました。価格はトレーダーが中国経済再開による強い需要に備えたポジションの構築に追われた1月中旬に付けたピークの4.35ドルから約15%下落した水準にあります。

トレーダーの期待をよそに、世界最大の消費国である中国が発表した一連の経済指標は期待外れの内容となり、鉄鉱石を含む工業用金属は引き続き圧力に晒されています。さらに、米国の債務上限問題や景気後退懸念、最近のドル高が、通常は工業用金属の需要が弱まるとされる月でさえも価格を押し下げる大きな逆風となっています。

これらの動向はいずれもグリーン・トランスフォーメーションの恩恵を受ける金属に対する需要の高まりを背景とする構造的かつ長期的な成長シナリオの蓋然性を後退させる要因となっており、鉱山会社はディーゼル燃料や人件費の高騰による投入価格の上昇、鉱石品位の低下、規制コストの上昇、政府の介入、さらには気候変動による洪水から干ばつによるキャッシュコストの上昇に直面しています。

高品位の銅価格は11月の安値まで下落していますが、今のところ下値支持線は2020年から2022年の上昇の50%リトレースメントである3.50ドルより上の3.54ドルで維持されています。ヘッジファンドは過去5週間売り越しを継続しており、この間、ネットポジションは2万枚のロングから、2020年3月のコロナ危機以来で最大の売り越しとなる可能性があります。足元では3.80ドルから3.82ドル付近のレジスタンスエリアを上抜けすることが、センチメントの変化を促す必要最低限の条件となります。

Source: Saxo

世界的な電動化の促進に必要不可欠な銅やリチウム、アルミニウムなどの金属を十分に生産できなくなるとの懸念が高まる中、メルボルンで開催された121 Mining Investmentのイベントでは、様々な課題について議論が展開されました。ロイター通信は、このイベントのアップデートとして、大半の講演者が以下の見解を共有していると伝えています;「予想される需要を満たすだけの生産量がなく、パイプラインにあるプロジェクトも十分でなく、新しい鉱脈が発見されたとしても、その開発には規制や財政上の障壁があり、それを乗り越えるには何年もかかるだろう」

しかし、全体的な見通しとしては、景気後退のリスク、米国の短期金利の方向性、ドル、そして中国の動向など、さまざまな不確定要素が存在するため、市場が期待する工業用金属価格の上昇は、これらの疑問に対する明確な答えが見つかるまでは実現しない可能性が高く、今年後半から来年の初めまで懸念が燻り続ける可能性があります。

政策金利のピークが後ろ倒しされ、金は目先で困難に直面

米国経済が底堅さを維持し、インフレはFRBが無視できないほど高止まりしているいるとの報道を受けて直近の下値である1950ドルを下回った後、週次ベースで約4ヶ月ぶりの下落を記録しました。報道に基づくとFRBが一段の利上げに動くリスクが高まり、政策金利のピークアウトが金価格を支えるシナリオが後ろ倒しされることになります。米第1四半期GDPの上方修正や予想を下回る失業率のデータに加えて、インフレ率と個人消費の上昇を受けて、市場が織り込む7月利上げ確率は高まっており、年内利下げの可能性は後退しつつあります。足元では1933ドルが支持線となっており、センチメントの改善には2000ドルを上回る必要があります。

 

6月のOPEC+会合を前に原油はレンジ相場に

原油市場ではレンジ相場が続いています。ここ最近全体的にネガティブなニュースが続いたこともあり、過去1ヶ月間にわたる売りが一巡し、今後の上昇に向けて足場を固める可能性もあります。

 

ニュースの流れは主に最近のドル高に集中しており、FRBの利上げ打ち止めの是非に一層注目が集まっています。さらに、米国の債務問題や景気後退リスク、中国経済の回復が期待されていたよりも鈍いことも相場を下押しする要因となっています。しかし、トレーダーはすでに10年以上にわたって5大原油および石油製品の先物に対して最も低いエクスポージャーを保有しており、これらの懸念を巡る逆風は完全に織り込み済みであるとも考えられます。さらに、ガソリンを中心に原油の精製のマージンは4月の落ち込みから持ち直し始めており、今後の原油需要の見通しに明るい兆しが見受けられます。

5月16日までの1週間で、ファンドマネージャーやその他の報告対象者が保有するWTIとブレントのショートポジション(グロス)は、2億3300万バレルとほぼ2年ぶりの高水準に達し、過去5週間で1億1100万バレル増と、4月2日の減産前の水準を4千万バレル上回りました。サウジアラビアのサルマンエネルギー大臣が、金融商品取引業者の関与について質問され、再び「気をつける必要がある」と回答したとおり、空売りの復活によって市場は再びニュースフローの急変による上昇圧力に晒されることとなりました。

サルマンエネルギー大臣の発言は、過去1ヵ月間に見られた弱気相場に対する不安の高まりを浮き彫りにしており、その一部はこうした空売り筋の復活によって引き起こされたものです。また、原油価格はロシアのノバク副首相がOPEC+が6月の会合で現在の生産目標を維持する可能性が高いと述べたことを受けて急落した後、サルマンエネルギー大臣の発言によって急反転しました。全体として、原油市場はレンジ相場が続くとみられ、OPECが急激な価格下落を見過ごす可能性は低いと見られます。一方、アップサイドは経済見通しがより明確になった場合のみ期待できるでしょう。ブレントでは、市場が方向性を見極める前に目先で80ドルの大台を突破する必要があります。


米国の土壌乾燥でトウモロコシ先物は急伸 

世界最大の生産国である米国での収穫が乾燥によるリスクに脅かされているため、シカゴのトウモロコシ先物は、週次ベースでほぼ1年ぶりとなる大幅な上昇を遂げようとしています。涼しく乾燥した天候は、トウモロコシや大豆の作付に適しているものの、表土の水分不足が顕著になっています。トウモロコシ先物の7月限は今週、7.3%高の5.95ドル/ブッシェルで取引され、最も流動性の高い先物価格のカーブの期近物に売買を集中させる傾向にあるヘッジファンドのショートカバーが、さらなる下支え要因となっています。その結果、秋の収穫に向けて今春作付けされる作物を示す12月限は、今週は5%の上昇にとどまりました。

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