歴史的な1週間における前例のないコモディティの変動

歴史的な1週間における前例のないコモディティの変動

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オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  コモディティセクターは、いくつかの主要コモディティで前例のない動きとなり、記録的な高値をつけた歴史的な1週間を経て、12月以来初めて週間で下落に転じました。この混乱が収まり、市場がウクライナでの悲惨な戦争の次の動きを待っていた中で、一部の市場やトレーダーは大きな打撃を受けていました。特にロンドンの金属市場ではニッケル相場が250%も急騰し、「大物」 と呼ばれる中国の大口投資家をはじめ、複数のトレーダーが存続の危機に陥りました。


いくつかの主要コモディティに前例のない動きをもたらした歴史的な1週間とも言える状況の後、コモディティセクターは沈静化に向かいました。この混乱が収まり、市場がウクライナでの悲惨な戦争の次の動きを待っていた中で、一部の市場やトレーダーは大きな打撃を受けていました。特にロンドンの金属市場では、ニッケル相場が250%も急騰したことを受けて売買が停止されており、「大物」 と呼ばれる中国の大口投資家をはじめ、複数のトレーダーが存続の危機に陥りました。

プーチン大統領がウクライナ攻撃を命じて以来、わずかな例外を除き、コモディティは大幅に上昇してきました。この攻撃をきっかけに、供給不足を懸念する状況から、実際に供給がなくなる状況へと市場が変化したためです。ロシアは世界経済に原材料を供給する第2位の生産国であるため、ロシアの孤立化と、国際社会による自主制裁が進み、エネルギー、金属、農産物の主要な供給ラインが遮断される中で、いくつかの前例のない動きが起こっています。コモディティセクターでは、12月以来となる週間の下落に転じる前には、こうした動向をきっかけとして、到達した価格水準および価格変動のレンジという点で前例のない動きが起こっていました。

世界のコモディティ市場で、おそらく1973年の石油禁輸以来最も大幅かつ急激な変動が生じていることから、当時のようなエネルギー不足だけにとどまらず、工業用金属や一部の農産物に至るまで、既に逼迫している需給環境がさらに続く可能性が高そうです。我々は、このことを念頭に置き、短期的な調整は市場に参入するチャンスだと見ています。個別の価格変動が高水準にあることから、幅広いコモディティETFに注目しています。

一方、ブレント原油は、5月限が1バレル140ドルに迫った後、急落しました。週の変動幅は33ドルと記録的なレンジとなり、3週間ぶりに週間で下落に転じました。欧州のディーゼル油市場はさらに波乱の展開となり、ロシアからの供給品に対する自主制裁が広がるとともに、深刻な供給不足への懸念が高まりました。欧州内外の全ての留出油取引の価格基準として使われるICEの低硫黄軽油先物は、1トン当たり1,422ドルと過去最高となり、5年平均のほぼ3倍に達しました。欧州では、ディーゼル油価格が数年ぶりにガソリン価格を上回ったことで、一部の業種では採算に合わない高価格による需要破壊のリスクが高まっています。

Source: Saxo Group

欧州のガス市場では、需要に悪影響を及ぼしかねない目を見張るような価格変動が続きました。3月7日からの週の初めには、欧州のベンチマークであるオランダのTTFガス先物は、1MWh当たり345ユーロと、原油換算で1バレル630ドルに相当する記録的な水準に達しましたが、週間では232ユーロもの大幅なレンジ内で推移した後、レンジ下限付近で週を終え、約35%の下落となりました。これは、ロシアがエネルギーと原材料の販売制限を断念したことを受けた動きであり、欧州にとっては、春になり消費量が減少する時期には十分なガスがパイプラインで供給されることを意味します。

ステンレス鋼や電気自動車のバッテリーに使われるニッケルは、ウクライナでの戦争とロシアへの制裁から最も影響を受ける結果となりました。3月8日には、ロンドン金属取引所(LME)でニッケル価格は250%も急騰し、一時、1トン当たり10万ドル超を付けました。これは、昨年の取引価格と比べると5倍もの値上がりです。この変動のきっかけとなったのは、大口のショートポジションを保有する投資家が、日々の証拠金請求に応じるために、ポジションの縮小と必要資金の調達に苦心しているのではないかとの憶測が市場で広がったことでした。

先物市場のトレーダーは、ポジションの損失の可能性をカバーするために、 「証拠金」と呼ばれる現金を定期的にブローカーに差し入れる必要があります。これに応じてブローカーは清算機関に証拠金を預託しなければなりません。相場変動がこれらのポジションに反する動きになった場合は、追加資金を要求する「追い証」を受け取り、それを支払うことができなければ、ポジションは強制的に終了される可能性があります。

これはまさに、香港取引所が所有するロンドン金属取引所で8日に起こった状況でした。この時、中国のニッケル大手である青山控股集団(「大物」と呼ばれるXiang Guangda氏が所有)が、15万トンのショートポジションで80億ドルの損失の可能性に直面していることが明らかになりました。LMEは売買を停止しただけでなく、その日に実行された全ての取引を取り消すことを決定しました。その結果、ニッケル価格は前日の決済価格の1トン48,000ドルにリセットされました。青山控股集団は今では証拠金を負担するのに十分な資金を確保していますが、Guangda氏はまだショートポジションを手仕舞う準備ができていないため、14日からの週にニッケル先物取引が再開されれば、何らかの波乱が生じると予想されます。上海先物取引所での値動きを踏まえると、40%以上安い水準になっている可能性があります。

金価格は、2020年の最高値の1オンス2,074ドルまであと数ドルに迫った後、翌週にFOMCを控えて市場全体のリスクセンチメントが改善し、利回りが上昇に転じたことから、利食い売りが入り、週間ではほぼ横ばいで推移しました。銀価格は6月以来の高値を付けましたが、2021年の下落分の61.8%に相当する1オンス26.90ドルが抵抗線となりました。特に一部の工業用金属で利食い売りが生じたことが響きました。中でも銅は、1ポンド当たり5ドル超の過去最高値を付けた後、売られました。このような反落が一因となり、銀は金と比べて小幅なアンダーパフォーマンスとなりました。

現在、市場には、定量化しにくい地政学的なリスクプレミアムが存在します。また、インフレ率が高止まりする一方、景気減速のリスクの中で中央銀行が十分にインフレを抑制することが難しい可能性があると考え、我々は強気の見通しを維持しています。ロシア・ウクライナ危機は引き続き貴金属価格の上昇見通しの支えになると考えられます。なぜなら、一進一退するセーフヘブンとしての買いで短期的な値上がりの余地があるというだけでなく、さらに重要なこととして、現在の緊迫した情勢はインフレ率(上昇)、経済成長率(低下)、中央銀行による利上げ回数の予想(減少)に大きな影響を及ぼすことになるからです。

Source: Saxo Group

シカゴとパリの小麦先物は3月1日に記録的な高値に急騰しましたが、その後、米国農務省がオーストラリアでの記録的な収穫量とインドからの堅調な輸出を理由に世界の小麦在庫の見通しを引き上げたことを受けて、反落しました。ウクライナとロシアは世界の小麦の29%を主に黒海経由で輸出しています。小麦は米と並ぶ2大主食であるため、しばしば欧州の穀倉地帯と呼ばれるウクライナでの戦争は、世界的な食料確保の点から見て非常に深刻な事態と言えます。世界の小麦輸入量上位10カ国には、エジプト、トルコ、インドネシア、アルジェリアなどの発展途上国が含まれており、食糧コストの急騰はこれらの国に非常に甚大な悪影響を及ぼすと見られます。米国農務省は月例報告で、ロシアとウクライナからの小麦輸出予想を合計700万トン引き下げて5,200万トンとしましたが、この数字は依然として不確実性が高く、戦争が長期化すればさらに大幅に引き下げられ、価格は高止まりする可能性があります。

ホワイトハウスがロシア国営の原子力エネルギー企業、Rosatomへの制裁を検討していると発表したことを受けて、ウランのスポット価格は2011年の福島原発事故以来最高の水準まで急上昇しました。他の燃料が最近急騰していたことや、欧州でロシアの石油・ガスへの依存度を下げたいという要望が新たに浮上したことを背景に、ウラン市場は既に投資家の関心の高まりにより恩恵を受けていました。しかし、Rosatomとその子会社が世界の濃縮ウラン生産の35%以上を占め、2020年にはロシアが米国のウラン輸入の16.5%を占めていたことを考えると、Rosatomへの制裁が決定されれば、既に需給が逼迫している市場をさらに逼迫させることになります。ウラン現物を保有するファンドであるSprott Physical Uranium Trustと、核関連部品の採掘・生産に関わる幅広い企業に投資するGlobal X Uranium ETFがともに大幅に上昇するなど、ウラン分野に関与していた投資家は恩恵を受けました。

Source: Saxo Group

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