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Chief Investment Strategist
サマリー: 株式市場は、引き続き循環的な景気回復とリセッション回避を見込んだ賭けに出て、上昇基調に乗っています。また、昨日のパウエルFRB議長のコメントは、経済が拡大基調を辿っていることを裏付ける結果となりました。市場は、成長モメンタムと緩和的な金融環境に注視しつつ、政策金利の動向を見抜く能力に非常に長けているようです。本稿では、その他にもサイバーセキュリティのフォーティネット、海運大手のマースク、風力発電のべスタス、および決済サービスのアディエンの第4四半期決算を振り返ります。
市場はシクリカルな景気の波に乗る
昨日パウエルFRB議長が発した「労働市場の力強さ」というメッセージは、輸送や金融サービス、半導体などの幅広い銘柄にとって、経済がソフトランディングどころか再び加速しつつあることを改めて裏付けることになりました。少なくとも市場は今、景気回復を見込んだ大きな賭けに出ています。これを受けて、S&P 500先物指数は反発し、その後は再びパウエル議長の「経済にディスインフレの兆候が見られ、インフレ抑制に向けてさらなる利上げが必要だ」との発言を受けて、一時反落する場面もみられました。こうした一連のコメントを受けて、市場はFF金利先物12月限の動きを注視しつつ、FRBの政策金利の見方において足並みを揃えつつあります。しかし、昨日S&P 500先物指数が上昇して取引を終えたことからも、市場はリセッション入りのリスクの代わりに、経済の加速をバリュエーションに織り込んでいるようです。足元のS&P500種株価指数の12ヵ月先予想EPSは19.1倍と、2021年を除けば過去10年間の高値水準で推移しており、どうやら市場は理想的なシナリオを描いているようです。
前回のレポートでは、S&P 500指数の潜在的な下値である3,200 近辺に達する可能性があると指摘しました。しかし、今となっては、それはもはや遠い将来のことであり、中国の経済再開や足元の循環的な景気回復、そして投資家が地政学リスクやインフレリスクを排除し、依然として低いリスクプレミアムを要求する中、こうしたシナリオの実現性は急速に薄れつつあるようです。株式市場の楽観的シナリオの背景には、米国の財政状況がこの1年間で最も緩和的であることが大きく作用しています。また、長期的なインフレ率の見通しに対する市場の緊張感は急速に低下しつつあるようです。しかし、こうした見方こそが、2023年の株式市場において最大のダウンサイドリスクとなり得るでしょう。
決算アップデート:フォーティネットの好決算でサイバーセキュリティの高い成長性を確認
第4四半期決算シーズンが終盤を迎えていますが、今回の決算を総括すると、欧州企業の利益率が前期比4.8%の増益となり、前期比ベースの売上高の伸び率は米国や中国の企業と比較して最も高く、最大の勝者となりました. 実際、欧州企業の収益は2019年第3四半期以降のS&P500の構成銘柄の収益を上回っており、これは過去12年間で見ても特筆すべき出来事です。しかし、第1四半期予想のレポートでも述べているように、物理世界への回帰は、欧州株式市場への回帰でもあるのです。第4四半期の決算シーズンでは、マージンへの下押し圧力が解消されず、今年も一段と強まる可能性が払拭されない中で、企業の収益は予想以上に堅調であることが確認されました。
フォーティネット
世界有数のサイバーセキュリティ企業であるフォーティネットの2022年第4四半期決算は、売上および1株当たり純利益(EPS)のいずれも予想を上回ったほか、営業利益率および売上の通期見通しは、いずれもアナリスト予想と一致した内容となりました。同社の株価が時間外取引で上昇したことからも、投資家の予想は2023年の業績に対してアナリスト予想よりも保守的だったことが分かります。また、営業利益率の強い見通しによって、サイバーセキュリティ企業のマージンへの下押し圧力が比較的が弱いことが確認されました。
マースク
海運大手のマースクの第4四半期決算は、売上およびEBITDA(利払い税引き前減価償却償却前利益)は予想と一致したものの、2023年通期のガイダンスでEBITDAは80億ドルから110億ドルと、アナリスト予想の135億ドルを大きく下回りました。しかし、今後景気が一段と加速した場合には、これはやや極端に保守的な見通しとなるでしょう。また、同社は2023年は世界のコンテナ貨物取扱量が前年同期比2.5%減から0.5%増となる予想を示していますが、これも足元の循環的な景気回復を見込む株式市場の見方と大きく異なるものとなっています。マースクのCEOによると、海運業界では大規模な在庫調整が進んでおり、世界は総じて正常化に向かっているとコメントしています。
べスタス
風力発電のべスタスの通期予想は、売上がアナリスト予想の148億ユーロに対して140~155億ユーロ、調整後EBITマージンは–2%から+3%との見通しを示し、風力発電業界を取り巻く厳しい現状と、今後さらなる困難が待ち受けている可能性を示唆する内容となりました。足元の循環的な景気の回復が継続するならば、工業用金属に一段の価格上昇圧力がかかり、今年は同社にとって営業利益率を拡大することが困難になるでしょう。ただし、同社の通期の売上見通しは2020年と同じ水準にとどまっていることは、欧州で再生可能エネルギーの生産が加速しているとのシナリオと矛盾するものとなります。また、アナリスト予想では2024年の売上は179ユーロに拡大する見通しであり、将来的な成長性を織り込んでいます。ここで一つ明確なことは、メディアが風力発電メーカーについて大きく取り上げていないことも、原子力発電が2050年カーボンニュートラルに向けた必要不可欠なソリューションとして風力発電よりも注目を集めている流れに拍車をかけているのも事実です。
アディエン
欧州最大の決済サービス企業アディエンが公表した2022年下半期の決算では、EBITDAマージンはアナリスト予想の59.7%に対して52%、純売上高は予想を0.5%下回りました。アディエンはEBITDAマージンの長期的なターゲットである65%を維持しましたが、共同CEOが「“長期”の定義は具体的に定めていない」と発言したことが投資家の動揺を誘いました。アディエンはテクノロジーセクターにおいて雇用や投資の拡大による成長の実現を重視する企業として、その存在を高めつつあります。決算を受けて、アムステルダム取引所では同社の株価は15%下落して取引を終えました。