経済成長 vs 政策金利;企業収益と株価バリュエーション

経済成長 vs 政策金利;企業収益と株価バリュエーション

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  株式市場は、引き続き循環的な景気回復とリセッション回避を見込んだ賭けに出て、上昇基調に乗っています。また、昨日のパウエルFRB議長のコメントは、経済が拡大基調を辿っていることを裏付ける結果となりました。市場は、成長モメンタムと緩和的な金融環境に注視しつつ、政策金利の動向を見抜く能力に非常に長けているようです。本稿では、その他にもサイバーセキュリティのフォーティネット、海運大手のマースク、風力発電のべスタス、および決済サービスのアディエンの第4四半期決算を振り返ります。


市場はシクリカルな景気の波に乗る

昨日パウエルFRB議長が発した「労働市場の力強さ」というメッセージは、輸送や金融サービス、半導体などの幅広い銘柄にとって、経済がソフトランディングどころか再び加速しつつあることを改めて裏付けることになりました。少なくとも市場は今、景気回復を見込んだ大きな賭けに出ています。これを受けて、S&P 500先物指数は反発し、その後は再びパウエル議長の「経済にディスインフレの兆候が見られ、インフレ抑制に向けてさらなる利上げが必要だ」との発言を受けて、一時反落する場面もみられました。こうした一連のコメントを受けて、市場はFF金利先物12月限の動きを注視しつつ、FRBの政策金利の見方において足並みを揃えつつあります。しかし、昨日S&P 500先物指数が上昇して取引を終えたことからも、市場はリセッション入りのリスクの代わりに、経済の加速をバリュエーションに織り込んでいるようです。足元のS&P500種株価指数の12ヵ月先予想EPSは19.1倍と、2021年を除けば過去10年間の高値水準で推移しており、どうやら市場は理想的なシナリオを描いているようです。

S&P 500 futures | Source: Saxo

前回のレポートでは、S&P 500指数の潜在的な下値である3,200 近辺に達する可能性があると指摘しました。しかし、今となっては、それはもはや遠い将来のことであり、中国の経済再開や足元の循環的な景気回復、そして投資家が地政学リスクやインフレリスクを排除し、依然として低いリスクプレミアムを要求する中、こうしたシナリオの実現性は急速に薄れつつあるようです。株式市場の楽観的シナリオの背景には、米国の財政状況がこの1年間で最も緩和的であることが大きく作用しています。また、長期的なインフレ率の見通しに対する市場の緊張感は急速に低下しつつあるようです。しかし、こうした見方こそが、2023年の株式市場において最大のダウンサイドリスクとなり得るでしょう。

US financial conditions | Source: Bloomberg

決算アップデート:フォーティネットの好決算でサイバーセキュリティの高い成長性を確認

第4四半期決算シーズンが終盤を迎えていますが、今回の決算を総括すると、欧州企業の利益率が前期比4.8%の増益となり、前期比ベースの売上高の伸び率は米国や中国の企業と比較して最も高く、最大の勝者となりました. 実際、欧州企業の収益は2019年第3四半期以降のS&P500の構成銘柄の収益を上回っており、これは過去12年間で見ても特筆すべき出来事です。しかし、第1四半期予想のレポートでも述べているように、物理世界への回帰は、欧州株式市場への回帰でもあるのです。第4四半期の決算シーズンでは、マージンへの下押し圧力が解消されず、今年も一段と強まる可能性が払拭されない中で、企業の収益は予想以上に堅調であることが確認されました。

フォーティネット

世界有数のサイバーセキュリティ企業であるフォーティネットの2022年第4四半期決算は、売上および1株当たり純利益(EPS)のいずれも予想を上回ったほか、営業利益率および売上の通期見通しは、いずれもアナリスト予想と一致した内容となりました。同社の株価が時間外取引で上昇したことからも、投資家の予想は2023年の業績に対してアナリスト予想よりも保守的だったことが分かります。また、営業利益率の強い見通しによって、サイバーセキュリティ企業のマージンへの下押し圧力が比較的が弱いことが確認されました。

マースク

海運大手のマースクの第4四半期決算は、売上およびEBITDA(利払い税引き前減価償却償却前利益)は予想と一致したものの、2023年通期のガイダンスでEBITDAは80億ドルから110億ドルと、アナリスト予想の135億ドルを大きく下回りました。しかし、今後景気が一段と加速した場合には、これはやや極端に保守的な見通しとなるでしょう。また、同社は2023年は世界のコンテナ貨物取扱量が前年同期比2.5%減から0.5%増となる予想を示していますが、これも足元の循環的な景気回復を見込む株式市場の見方と大きく異なるものとなっています。マースクのCEOによると、海運業界では大規模な在庫調整が進んでおり、世界は総じて正常化に向かっているとコメントしています。

べスタス

風力発電のべスタスの通期予想は、売上がアナリスト予想の148億ユーロに対して140~155億ユーロ、調整後EBITマージンは–2%から+3%との見通しを示し、風力発電業界を取り巻く厳しい現状と、今後さらなる困難が待ち受けている可能性を示唆する内容となりました。足元の循環的な景気の回復が継続するならば、工業用金属に一段の価格上昇圧力がかかり、今年は同社にとって営業利益率を拡大することが困難になるでしょう。ただし、同社の通期の売上見通しは2020年と同じ水準にとどまっていることは、欧州で再生可能エネルギーの生産が加速しているとのシナリオと矛盾するものとなります。また、アナリスト予想では2024年の売上は179ユーロに拡大する見通しであり、将来的な成長性を織り込んでいます。ここで一つ明確なことは、メディアが風力発電メーカーについて大きく取り上げていないことも、原子力発電が2050年カーボンニュートラルに向けた必要不可欠なソリューションとして風力発電よりも注目を集めている流れに拍車をかけているのも事実です。

アディエン

欧州最大の決済サービス企業アディエンが公表した2022年下半期の決算では、EBITDAマージンはアナリスト予想の59.7%に対して52%、純売上高は予想を0.5%下回りました。アディエンはEBITDAマージンの長期的なターゲットである65%を維持しましたが、共同CEOが「“長期”の定義は具体的に定めていない」と発言したことが投資家の動揺を誘いました。アディエンはテクノロジーセクターにおいて雇用や投資の拡大による成長の実現を重視する企業として、その存在を高めつつあります。決算を受けて、アムステルダム取引所では同社の株価は15%下落して取引を終えました。

Adyen share price | Source: Saxo

口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。 

最短3分で入力完了!

【ご留意事項】

■当資料は、サクソバンクグループのアナリストによるマーケット分析レポートの転載、もしくは外部のアナリストからの寄稿となっております。
■当資料は、いずれも情報提供のみを目的としたものであり、特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
■当資料は、作成時点において執筆者またはサクソバンク証券(以下「当社」)が信頼できると判断した情報やデータ等に基づいていますが、執筆者または当社はその正確性、完全性等を保証するものではありません。当資料の利用により生じた損害についても、執筆者または当社は責任を負いません。 
■当資料で示される意見は執筆者によるものであり、当社の考えを反映するものではありません。また、これら意見はあくまでも参考として申し述べたものであり、推奨を意味せず、また、いずれの記述も将来の傾向、数値、投資成果等を示唆もしくは保証するものではありません。 
■当資料に記載の情報は作成時点のものであり、予告なしに変更することがあります。 
■当資料の全部か一部かを問わず、無断での転用、複製、再配信、ウェブサイトへの投稿や掲載等を行うことはできません。
■上記のほか、当資料の閲覧・ご利用に関する「免責事項」をご確認ください。 
■当社が提供するデリバティブ取引は、為替相場、有価証券の価格や指数、貴金属その他の商品相場または金利等の変動によって損失を生じるおそれがあります。また、お預けいただく証拠金額に比べてお取引可能な金額が大きいため、その損失は、預託された証拠金の額を上回る恐れがあります。
■当社が提供する外国証券取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。手数料については、「取引金額×一定料率」又は「取引数量×一定金額」で求めた手数料が一回の取引ごとに課金されます。ただし手数料の合計額が当社の定める最低手数料に満たない場合は、手数料に代えて最低手数料を徴収させていただきます。また取引所手数料等の追加費用がかかる場合があります。 
■取引にあたっては、取引説明書および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。 
■当社でのお取引にかかるリスクやコスト等については、 こちらも必ずご確認ください。

サクソバンク証券株式会社
Saxo Bank Securities Ltd.
Izumi Garden Tower 36F
1-6-1 Roppongi Minato-ku
Tokyo 106-6036
〒106-6036 東京都港区六本木1-6-1
泉ガーデンタワー36F

お問い合わせ

国・地域を選択

日本
日本

【重要事項及びリスク開示】

■外国為替証拠金取引は各通貨の価格を、貴金属証拠金取引は各貴金属の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、売買の状況によってはスワップポイントの支払いが発生したり、通貨の金利や貴金属のリースレート等の変動によりスワップポイントが受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■外国為替オプション取引は外国為替証拠金取引の通貨を、貴金属オプション取引は貴金属証拠金取引の貴金属を原資産とし、原資産の値動きやその変動率に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、オプションの価値は時間の経過により減少します。また、オプションの売り側は権利行使に応える義務があります。
■株価指数CFD取引は株価指数や株価指数を対象としたETFを、個別株CFD取引は個別株や個別株関連のETFを、債券CFD取引は債券や債券を対象としたETFを、その他証券CFD取引はその他の外国上場株式関連ETF等を、商品CFD取引は商品先物取引をそれぞれ原資産とし、それらの価格の変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、建玉や売買の状況によってはオーバーナイト金利、キャリングコスト、借入金利、配当等調整金の支払いが発生したり、通貨の金利の変動によりオーバーナイト金利が受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■上記全ての取引においては、当社が提示する売価格と買価格にスプレッド(価格差)があり、お客様から見た買価格のほうが売価格よりも高くなります。
■先物取引は各原資産の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。
■外国株式・指数オプション取引は、対象とする有価証券の市場価格や対象となる指数、あるいは当該外国上場株式の裏付けとなっている資産の価格や評価額の変動、指数の数値等に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、対象とする有価証券の発行者の信用状況の変化等により、損失が発生することがあります。なお、オプションを行使できる期間には制限がありますので留意が必要です。さらに、外国株式・指数オプションは、市場価格が現実の市場価格等に応じて変動するため、その変動率は現実の市場価格等に比べて大きくなる傾向があり、意図したとおりに取引ができず、場合によっては大きな損失が発生する可能性があります。また取引対象となる外国上場株式が上場廃止となる場合には、当該外国株式オプションも上場廃止され、また、外国株式オプションの取引状況を勘案して当該外国株式オプションが上場廃止とされる場合があり、その際、取引最終日及び権利行使日が繰り上げられることや権利行使の機会が失われることがあります。対象外国上場株式が売買停止となった場合や対象外国上場株式の発行者が、人的分割を行う場合等には、当該外国株式オプションも取引停止となることがあります。また買方特有のリスクとして、外国株式・指数オプションは期限商品であり、買方がアウトオブザマネーの状態で、取引最終日までに転売を行わず、また権利行使日に権利行使を行わない場合には、権利は消滅します。この場合、買方は投資資金の全額を失うことになります。また売方特有のリスクとして、売方は証拠金を上回る取引を行うこととなり、市場価格が予想とは反対の方向に変化したときの損失が限定されていません。売方は、外国株式・指数オプション取引が成立したときは、証拠金を差し入れ又は預託しなければなりません。その後、相場の変動や代用外国上場株式の値下がりにより不足額が発生した場合には、証拠金の追加差入れ又は追加預託が必要となります。また売方は、権利行使の割当てを受けたときには、必ずこれに応じなければなりません。すなわち、売方は、権利行使の割当てを受けた際には、コールオプションの場合には売付外国上場株式が、プットオプションの場合は買付代金が必要となりますから、特に注意が必要です。さらに売方は、所定の時限までに証拠金を差し入れ又は預託しない場合や、約諾書の定めによりその他の期限の利益の喪失の事由に該当した場合には、損失を被った状態で建玉の一部又は全部を決済される場合もあります。さらにこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。外国株式・指数オプション取引(売建て)を行うにあたっては、所定の証拠金を担保として差し入れ又は預託していただきます。証拠金率は各銘柄のリスクによって異なりますので、発注前の取引画面でご確認ください。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、取引証拠金を事前に当社に預託する必要があります。取引証拠金の最低必要額は取引可能な額に比べて小さいため、損失が取引証拠金の額を上回る可能性があります。この最低必要額は、取引金額に対する一定の比率で設定されおり、口座の区分(個人または法人)や個別の銘柄によって異なりますが、平常時は銘柄の流動性や価格変動性あるいは法令等若しくは当社が加入する自主規制団体の規則等に基づいて当社が決定し、必要に応じて変更します。ただし法人が行う外国為替証拠金取引については、金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第27項第1号に規定される定量的計算モデルを用いて通貨ペアごとに算出(1週間に1度)した比率を下回らないように当社が設定します。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、損失が無制限に拡大することを防止するために自動ロスカット(自動ストップロス)が適用されますが、これによって確定した損失についてもお客様の負担となります。また自動ロスカットは決済価格を保証するものではなく、損失がお預かりしている取引証拠金の額を超える可能性があります。
■外国証券売買取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。
■取引にあたっては、契約締結前交付書面(取引説明書)および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。

サクソバンク証券株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第239号、商品先物取引業者
第一種金融取引業、第二種金融商品取引業
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、日本投資者保護基金、日本商品先物取引協会
手数料:各商品の取引手数料についてはサクソバンク証券ウェブサイトの「取引手数料」ページや、契約締結前交付書面(取引説明書)、取引約款等をご確認ください。