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チーフ・マクロ・ストラテジスト
サマリー: 日銀は、イールドカーブ・コントロール政策(YCC)を一部修正し、10年国債利回りの許容上限を0.25%から0.5%に引き上げる決定を下し、世界の金融市場に衝撃を与えました。その他の中央銀行が引き締め政策のペースを減速しつつある中での日銀のサプライズ決定に円は総じて上昇し、各国の国債利回りは急伸しました。円にはまだ上昇余地があるものの、世界の債券市場の利回りが再び最近の下降トレンドに戻らない限り、足元の円高は間もなく頭打ちとなる可能性があります。
Today's Saxo Market Call podcast.
Today's Market Quick Take from the Saxo Strategy Team
トレードの焦点:日銀のサプライズで円は一段の上昇に向かう。年初の量的引締め(QT)開始を前にポンド安に注目
日銀は長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げ、市場のサプライズを誘いました。会合後の記者会見で黒田総裁は、これは「利上げではなく、YCC政策からの脱却や見直しを検討するには時期尚早だ」とコメントし、市場のショックを和らげるよう努めましたが、あまり効果はなかったようです。最近になって各国中銀が引き締めのペースをやや減速していることや、2024年第1四半期までにFRBの政策金利がドットプロットを下回るとの期待が高まっていただけに、今回の決定はより大きなサプライズとなりました。どうやら市場は黒田総裁があらゆる面で金融緩和政策を堅持し、来年4月の任期満了まで現行の政策に変更はないと確信していたようです。ただ、円が対米ドルでの直近安値から12%以上上昇したことや、コモディティ価格が大幅に下落している状況に照らせば、さらなる円高進行を回避するためにも、黒田総裁が現体制下で追加の政策調整を行う可能性は極めて低いと考えられます。そのため、円が一度リセットした後に上昇基調を維持できるか否かは、世界の債券市場の利回りの方向性に大きく左右されるものと予想されます。
市場は来年FRBの利上げがピーク達し、第4四半期までに利下げに転じるとの楽観的なシナリオを支持しているように見受けられます。ただ、米国の経済指標で景気の底堅さやインフレ圧力の継続が確認できれば、米国債の利回り(特にドル/円相場の重要な指標となる米国の長期債利回り)が足元、あるいはそれよりも高い水準で維持されることとなり、円高進行にもほどなく歯止めが掛かるでしょう。日米の10年債の利回り格差を見ると、ドル/円が135円付近で取引され、FRBが初めて0.75ポイントの利上げを行った今年6月中旬に、現サイクルのピークとなる325bpに達しています。これを踏まえると、足元のドル/円の水準はある意味「適正」な水準にあると判断できます。おそらくドル/円が130円まで切り下げるには、市場の期待どおりに日銀が来年4月以降にYCCから脱却するか、少なくとも追加の政策調整を行う必要があるでしょう。またそれだけでなく、例えば日銀の政策金利が+0.25%のプラスに転換する兆しや、FRBの政策金利に対する市場予想や米10年債利回りが足元、あるいはそれを下回る水準に低下することが必要となるかもしれません。もし米国債の利回りが足元の水準から下げ渋るようであれば、近いうちドル/円相場にふた通りの方向性が生じる可能性があると考えます。
メディアの見出しは今のところ日本円を大きく取り上げていますが、以下のGBPJPYチャートで示されているように、ポンド安にも注目する価値があります(本日EUR/GBPは時折高値を試しており、円高だけに注目すべきではありません)。
為替チャート:GBP/JPY
日銀が10年国債の利回り変動幅の上限を引き上げるという予想外の決定を下したため、円は急伸しました。これは、一見すると利回り上昇という明白な理由によって日本円に有利に働くとみられますが、皮肉なことに日銀はYCC政策に沿った利回りを維持するためにあらゆる手段を講じて国債を購入する必要に迫られてきました。今年に入り、利回りをコントロールするために量的金融緩和(QE) を実施したこともあり、日銀のバランスシートの拡大は加速しており、円安を悪化させる要因となりました。こうしたなか、今回のYCC修正は明らかに日銀への圧力を軽減することを意図したものと言えるでしょう。その他にも、最近、イングランド銀行が来年1月9日に開始する量的引き締め(QT)計画に英国債の購入を追加決定したことは、興味深いことです。これは実質的に金融引締め政策であり、理論的にはポンドの支援材料となりますが、同国の対外債務が膨れ上がっていることを踏まえると、英国は国債の需給悪化に対して最も敏感な国の一つとなっていると言えます。これは、新政権の緊縮財政策によって以前ほど喫緊の課題ではなくなりましたが、英長期債のイールドカーブが他の年限に比べてより大きく上昇する場合は、英国債の信用低下を示唆し、トラス前首相の「ミニ予算」が引き起こした一連の騒動ほどではないにせよ、GBP/JPYと日本国債と英国債の利回り格差が大きく拡大する可能性があり、英ポンドが再び圧力にさらされるサインに警戒すべきでしょう。先週のECBのタカ派的発言を受けてポンドは0.8700を上回る水準を付けましたが、今後の重要なバロメーターとしてEUR/GBPの動きが注目されます。また、GBP/JPYの158-160円も注目すべきエリアです。
図表:G10通貨と人民元の強弱およびトレンドの変化
足元で円は急騰しましたが、局所的な動きからトレンドへと転換するのでしょうか?豪ドルは、ハト派的なオーストラリア準備銀行(RBA)や中国関連のリスクでこのところ下げに転じていますが、後者については、中国の感染状況が2020年初頭に各国に押し寄せたものと同様のパターンを辿っていることが確認できれば、旧正月(1月23日)以降に急速に同国を巡る懸念は払しょくされるかもしれません。カナダドルは戻りを試す展開となっていますが、トレンドを転換するには課題がまだ残されています。
図表:通貨ペア別のスコアボード
日本円との通貨ペアは足元で全てマイナスに反転しているものの、このトレンドが数日以上継続するためには、各国の債券利回りの動向に何らか変化が生じる必要がありそうです。その他では、夜間取引でボラティリティが上昇した後、AUD/USD の動きに傾きが見られることは興味深い点です。このペアは、USD/CAD と共に、米ドル/G10通貨ペアで唯一米ドルに有利なトレンドとなっているため、マイナスに反転するかが注目されます。