FXアップデート:ジャクソンホール会議にはパウエル議長発言にとどまらない意味

FXアップデート:ジャクソンホール会議にはパウエル議長発言にとどまらない意味

FX
ジョン・ハーディ

チーフ・マクロ・ストラテジスト

サマリー:  ジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演には特段新たなガイダンスはなかったと考えられているようですが、ドルは上昇に転じました。状況は変わらず、FRBは何かが断ち切れるまで引き締めを続けることを確認し、私たちが見ているのはそのブレイクポイントに向けての動きであると言えます。興味深いことに、ジャクソンホール会議で土曜日に発表された論文では、FRBがバランスシートの縮小を意図通りに実行するのは難しいかもしれないことが示唆されています。


FXトレーディングの焦点:ジャクソンホール会議はパウエル議長の講演だけでは…

金曜日(8月26日)のジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演を通じ、FRBへの期待に対する市場の反応を見ると、市場にとっては大きな材料はなかったと言えます。パウエル議長は講演において、9月の会合での金利決定は、データ「全体」次第であることを強調したため、期待されたほどの大きな変化はないと解釈されたのです。(講演の1時間半前に発表された米個人消費支出(PCE)は予想よりやや弱く、8月のミシガン大学消費者信頼感指数確報値では、期待インフレ率が0.1%低下していました)。9月21日のFOMCでの金利決定では、今週金曜日の雇用・所得統計と、9月13日の消費者物価指数の発表がより大きなウエイトを占めることになるでしょう。

より重要な点は、パウエル議長が、インフレサイクルが鎮静化したことを確認するためには、FRBの政策をしばらくの間維持することが重要と強調したことです。注目に値する重要な部分は「物価の安定を回復するには、一定期間、引き締め政策姿勢を維持する必要がある。歴史的に見ても早すぎる緩和政策には強い警戒が必要だ」という見解です。パウエル議長はさらに、ポール・ボルカー氏と1970年代~1980年代初頭に続いた高水準のインフレとの戦いを引き合いに出しています。これを受けて、市場は来年半ば以降のFRBの政策金利予想を引き上げましたが、それは金曜日の終わりに大きく覆されました。FRBによる一層の引き締めは金融情勢の悪化を意味するため、FRBはそれを回避しようとする可能性があり、そうなれば金融情勢・市場センチメントが支えられるという、反射的な悪循環が生じ、それをコントロールすることが困難となる可能性があるという思惑からです。

重要な要因のひとつとして、政策金利の期待値がオーバーナイトで早い段階から急上昇したことが注目されます。これは、ジャクソンホール会議で土曜日(8月27日)に発表された論文によると、FRBが本格的な量的引き締め(QT)に踏み切るのは難しい(政策調整の第一義的なメカニズムとしてFF金利を重視する必要がある)ことが示唆されたためでしょう。ブルームバーグの記事ではこの論文について触れています。もし、FRBがバランスシートの縮小計画を緩やかに進めなければならないとしたら、予想されているFRBの引き締め(QTと利上げの総和)が行き過ぎていたことに即座に気付けるでしょうか。興味深い点ですが、FRBがQTを進めようとする可能性があるとしても、決断にはまだ時間がかかりそうです。

チャート:米ドル/円

今週は、米国のデータによって米国債利回りがさらに上昇するかどうか、特に米国のイールドカーブの長期側が、イールドカーブ・コントロール政策の維持を主張する日銀への圧力を強める可能性があるため、米ドル/円に注目しています。米国のイールドカーブの長期側が6月の高値を下回る水準に固定されている限り、イールドカーブの変動とは関係なく、米ドルの流動性に問題がない限り、この通貨ペアが上昇する根拠はないと思われます。また、今週、金曜日の雇用・所得統計を通じて弱い指標が発表された場合、「ダブルトップ」のシナリオ実現に向かう可能性があります。今週は139-140.00円のレンジが重要になりそうです。
 
Source: Saxo Group
欧州にとってはどんな小さな支援材料も重要となりえます。本日、天然ガス価格は急落し、ドイツは貯蔵所の再建を目標よりも前倒しし、ドイツの経済エネルギー大臣は価格を引き下げるためにEUの電力市場の見直しを求めました。供給と価格の調整を意味するのでしょうか。ショックを和らげることには寄与するかもしれませんが、長期的な実質エネルギー価格を引き下げるために必要な設備投資が、公的に干渉されるリスクによって阻まれるのであれば、長期的にはその効果は得られないでしょう。天然ガス価格下落の他に、ECBメンバー複数名が、金曜日から強気な発言をしており、ECBの金利予想が急上昇しています。イザベル・シュナーベルECB理事は、週末に行われたジャクソンホール会議で、「インフレ率を迅速に目標値まで鈍化させるために、決意をもって行動する必要がある」と述べました。来週木曜日のECB会合では60bp以上、12月の会合までにはさらに100bp(!)近くの利上げが織り込まれています。通常はECB内の慎重派メンバーである、チーフエコノミストのレーン氏が本日午後に講演を行う予定です。

表:G10諸国通貨のFXボードとオフショア人民元の推移および強さ

米ドルはG10諸国通貨の中で最も強く、その強さは驚くに値しませんが、全般的にその強さを維持するためには、現在の動きを維持する必要があります(ユーロ/米ドルでパリティ以下、米ドル/円で137.50円以上、米ドル/加ドルで1.3000以上、豪ドル/米ドルで0.6900以下等)。
Source: Bloomberg and Saxo Group

表:各ペアのFXボード・トレンド・スコアボード

ユーロ/加ドル、ユーロ/豪ドルの2つのユーロクロスは、リスクセンチメントが、取引量が相対的に少ない通貨により強く作用しているため、急上昇しています。これが何らかの動きの始まりかどうかを判断するには時期尚早ですが、興味深いレベルです。また、ユーロ/英ポンとは金曜日に上昇し、本日もその動きが続いています。
Source: Bloomberg and Saxo Group

今後予定されている発言・イベント(GMT)

  • 13:00 - レーンECBチーフエコノミスト発言
  • 14:30 – 米8月ダラス連銀製造業活動指数
  • 18:15 – ブレイナードFRB副議長講演
  • 23:30 – 日本7月雇用統計
  • 01:30 – 豪7月住宅建設許可件数

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