為替アップデート:ECBの超タカ派姿勢はサプライズも、強いドルが継続

為替アップデート:ECBの超タカ派姿勢はサプライズも、強いドルが継続

FX
ジョン・ハーディ

チーフ・マクロ・ストラテジスト

サマリー:  昨日、ECBの超タカ派的な声明で欧州の金利市場に衝撃が走りました。これを受け、短期金利は現サイクルで最も高い水準まで一気に跳ね上がりました。ECBの政策を受けてユーロは急伸したものの、リスクオフの流れで安全資産として米ドルが買われ、その後は対ドルで弱含む展開となりました。一方、イングランド銀行(BOE)はMPCで反対票が投じられたこともあり、前回会合までの0.75%から利上げ幅を縮小し、ガイダンスを下方修正しました。この決定を受けて、英ポンドは大幅に下落しました。


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注目ポイント:センチメントの後退で米ドルは急反発。ECBの超タカ派的な声明後対ドル以外でもユーロの堅調さが目立つ展開に。一方、英ポンドはBOEの会合後に大きく売られる

ECBは昨日、来年の総合インフレ率の見通しを6.3%、2024年は3.4%(前回予想はそれぞれ5.5%、2.4%)と、超タカ派姿勢を示しました(これは、許容できないほど高いインフレ率が予想以上に長い時間に及ぶ可能性を示唆しています。食品・エネルギーを除くコアCPIの予想は、2023年は4.2%、2024年は2.8%(9月時点ではそれぞれ3.4%、2.3%)に引き上げられています)。また、来年3月から開始する毎月150億ユーロの資産圧縮による量的引き締め(QT)の概要について説明しました。ラガルド総裁は必要に応じて今後数回の会合で0.5ポイントの引き上げを継続する構えであることを強調し、今後もはるかに多くの利上げを実施する必要があるとのメッセージを発しました。これを受け、米ドルの相対的な強さに関わらずEUR/USDは、急伸し、一時は1.0700を大きく上回りました。しかし、その後は再び1.0600に向けて下落に転じ、今朝になって1.0650付近で一旦安定したものの、足元再び弱含んで推移しています。ただ、ドイツ2年国債利回りが25bps上昇し、現サイクル(および2008年以来)の高値となる2.39%で取引を終えたため、ユーロは大半のG10通貨に対して総じて堅調に推移しました。 ユーロの上昇でユーロ/円の変動率は2桁となり、ユーロ/ポンドはややハト派寄りのBOEのコメント言を受けて再び上昇しました。ECBの決定については、EUR/USDの推移のところで後ほどご説明します。

BOEは予想通り0.5ポイントの利上げを実施し、政策金利を3.5%に引き上げました。ただ、MPCの委員のうち2名は金利据え置きを支持し、逆に1名は0.75 ポイントの利上げを支持したため、全会一致の決定とはなりませんでした。市場は、BOEの利上げは来年半ばまでにピークに達し、政策金利は4.50%を上回るとの予想を織り込んでいますが、BOEのガイダンスを見る限り、これはまだ野心的なシナリオであると言えるでしょう。また、リセッションの長期化に加えてインフレ率が今後2年以内に目標を下回るとの予想を示すなど、同行の景気に対する見通しは悪化しています。昨日のBOEの決定を受けて英国債利回りは10bps程度低下したもののECB理事会後にユーロ国債利回りが上昇したことで利回り低下に歯止め掛かったほか、今朝公表された堅調な英サービス景気指数(PMI)の速報値(50.0!)も幾分支えとなりましたが、それでもEUR/GBPは0.8700を一気に上抜ける展開となりました。ただ、スナック首相が取り組む財政緊縮策は、今後数四半期にわたってインフレ抑制策に大きなウェイトを置く公算が大きく、BOEはより慎重なアプローチを取る時間的な余裕があるのかもしれません。一方、ECBがよりタカ派色を強める決意を固めた理由の一つは、今後EU諸国でさらに財政拡大が続き、来年のインフレリスクを悪化させるとの懸念の高まりによるものであると考えられます。

その他にも、スイス国立銀行(SNB)は0.5ポイントの利上げと予想通りの決定を行い、EUR/CHFはレンジ相場が続きました。ノルウェー中央銀行は、第1四半期に「非常に高い確率で」追加利上げを行うと幾分タカ派的なコメントを述べたことはサプライズとなったものの、ノルウェーの短期金利への影響は軽微なものにとどまりました。昨日からのリスクオフの動きとECBのタカ派姿勢が強まる中、EUR/NOKは今年に入り強い上値抵抗線となっている10.50付近に向けて上昇しています。

図表1:EUR/USDの推移
昨日のタカ派的なECB声明がサプライズとなったことを受けて、EUR/USDは一時1.0700超えで現サイクルの最高値を更新したものの、その後は日中の取引時間帯で急速に反転しています。この動きは、リスクセンチメントが急速に後退する局面において、米ドルがほぼ間違いなく首位に躍り出ることを裏付けています。当社は、ECB がインフレ見通しを大幅に上方修正したことについて、主に二つの見解を持っています。ひとつは、EUがエネルギーコストに大金を払い続け、債務削減を先送りし続ける限り、インフレリスクは今後大幅に増幅する可能性があることです(BOEとECBのスタンスの相違については前述のとおり)。しかし、世界的なインフレが総じて期待通りに緩和されない限り、ECBがFRBを上回るペースで利上げを行うことができるとの考えは、あまり現実的とは言えないでしょう。また、ECBが今後複数回にわたり0.5ポイントの追加利上げを強行するならば、EUの経済政策が失敗に終わるだけでなく、EU周辺国の利回りスプレッドの拡大をはじめ、経済が低迷する中での継続的な利上げによる影響や国債発行の急増など、早晩多くの問題に直面するでしょう。そのため、ユーロは米ドル以外の通貨に対して相対的に割高であるように見受けられます。ただ、足元で見られたEUR/USDの反転は非常に緩やかであり、より明確な反転のサインを示すまでには、一旦1.0500付近まで下げる必要があるでしょう。もしそれが実現しない場合は、目先で上値余地が残されている可能性があります。一部の投資家は、(後述する米ドルの流動性を考慮し)、より明確な方向性を見極めるタイミングを年明けまで先送りするでしょう。

Source: Saxo Group

12月19日の週は、年内最後の米国の主要経済指標として水曜日に消費者信頼感指数(CCI)、金曜日に個人消費支出(PCE)の公表を控えています。ただ、PCE物価指数は先週のやや鈍化したCPIに対する反応がまちまちだったこともあり、影響は限定的かもしれません。昨年と同様に米財務省はFRBの政府預金口座(TGA)の残高圧縮で歳出を賄っているため米ドルの市場流動性は高まっており、目先で米ドルを下押しする要因となり得るでしょう。しかし、この問題は、銀行の米国債の保有残高の積み増しにつながるため、債務上限問題さえ一旦クリアになれば次の四半期のいずれかのタイミングで流動性にとって逆風となり、米ドルを下支えするでしょう。

図表:G10通貨と人民元の強弱およびトレンドの変化
強さを取り戻した米ドルの勢いはまだ決して明確なトレンドとは言えず、今のところ強い反転にとどまっています。ドルの強気派にとっては、少なくとも次のロールオーバーが終わるまでにこれ以上ドル高を支える材料が出てくるかどうかを見極めるために、今後数回の取引が重要となります。次の展開が待たれる中、英ポンドの堅調さは足元で相殺されています。

Source: Bloomberg and Saxo Group

図表:通貨ペア別のスコアボード
昨日上昇を試した米ドルとの通貨ペアに追随する動きがあるか判断する上で、今後数日間の動きが注目されます。特に米ドルとカナダドルの通貨ペアの下落トレンドとNZドルの通貨ペアの上昇トレンドが長期にわたり継続しています。EUR/CADの通貨ペアに注目し、長期的なエネルギー安全保障における2か国の経済面での相対的位置づけについて、少し考えてみましょう。

Source: Bloomberg and Saxo Group

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